東京都発・約3300の保育園・幼稚園が実践 「探究活動」の驚くべき中身 「うちの子」も夢中に?

乳幼児からの探究 東京都の実践 #1 幼児の探究活動とは (3/3) 1ページ目に戻る

探究活動を実践する園をどう支援? 「すくわくプログラム」の詳細

──「すくわくプログラム」では、都が探究活動を行う幼稚園や保育園を支援しています。具体的にはどのような内容なのでしょうか。

鳥井:初年度となる2023年度は、4自治体(江東区、渋谷区、福生市、港区)14園から協力を得て、「ベータ版プログラム」を実施しました。CEDEPを中心に探究の専門家、研究者などを派遣し、約半年間かけて各園で探究活動に取り組みました。先ほど浅井先生が説明した柿の木の探究も、ここで実践したものです。

そうした実践の成果を共有したうえで、2024年度からは都内全域で探究活動に取り組みたい園に対して、活動に係る経費を支援しています。

──園の先生が探究活動を行うためには、ある程度専門的な知識が必要だと思いますが、ソフト面のサポートもあるのですか。

鳥井:先生が探究活動について学ぶための実践的な研修会やワークショップ、専門家のアドバイスをまとめたヒント集の配布なども積極的に行ってきました。

浅井:探究活動は、先ほど説明した「全体の流れ」といった前提はありますが、決まった方法やノウハウは存在しませんから、伝え方には独特の難しさがあります。とはいえ、実践している園には着実に経験値が積み上がりますので、探究活動を行う先生がたがそれぞれの経験を持ち寄り、互いに学び合うことが有効だと考えています。

鳥井:2025年度からは、探究活動を行う園のネットワークづくりなどを進めています(詳細は第3回)。

大人が「正解」を教えない 探究で本当に大切なこと

──乳幼児が行う探究活動ならではの特徴、実践でのポイントを教えてください。

浅井:探究活動では、子どもが何に気づき、考えているのかに「耳を傾ける」ことが重要です。じっくり観察していると、固定観念がない子どもならではのユニークな発見に気づくことができます。

一方で、大人が先回りして「答え」を教えてしまうと、子どもの意欲や興味は急速にしぼんでしまいます。たとえば、ある保育園で取り組んだ「音」の探究では、子どもたちは「心臓の音」に大きな関心を寄せていました。先生は聴診器を用意して、心臓の音を聞ける環境をデザインしました。するとある子は、「心臓は2個あるよ」といったんです。

聴診器で心臓の音を確かめています。  写真提供:東京都
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本人に理由を尋ねると、体の正面から聴診器を当てても、後ろ側からでもどくどく音が聞こえたから、と話してくれました。

「間違いを覚えてしまうのでは?」と心配になるかもしれませんが、探究活動では、「答えを外から与える」という関わり方はしません。乳幼児期においては、正しい知識を知ることよりも、自分で考えることのほうがはるかに重要だからです。

この探究活動は、その後「虫の心臓の音は聞こえるか」という問いに移っていきました。実際に試して聞こえなかった子は、「虫にも心臓はあるけれど、小さすぎて聞こえない」という仮説を立てます。さらにそこから、「たくさんいれば聞こえるかも」と考え、虫を4匹集めて聴診器を当てていました。

地面に聴診器を当ててみる子もいました。  写真提供:東京都

──子どもなりに考えて、検証しているんですね。

浅井:そう、推論しているんです。とても知性的な営みです。ちなみに、生物学的な解答としては、昆虫に人間と同じような心臓はありませんが、探究活動は先述のように、「正しい知識」にたどり着くことが目的ではありません。

少し視点を広げれば、大人も膨大な数の実験や仮説の検証を繰り返しています。そうした試行錯誤をしているからこそ、新しい知識にたどり着ける。大切なのは「推論すること」を知っている、過程を楽しみ、納得するまであきらめずに何度も軌道修正できることです。

子どもがわくわくしながら対象と向き合い、周囲と対話をしながら思考を深めていく探究活動での経験が、正解のない問題にも自分なりの答えを発見し、「世界を切り開いていく」未来につながっていきます。

*****

第2回は、まだ話し始める前の0歳児クラスでの驚くべき探究活動の様子と、それを見た先生がたの変化について詳しくうかがいます。

─◆─◆─◆─◆─◆─◆

【浅井幸子プロフィール】
東京大学大学院教育学研究科教授、CEDEPセンター長。著書に『アトリエからはじまる「探究」─日本におけるレッジョ・インスパイアの乳幼児教育』(共編著)中央法規出版2023年、『「保育の質」を超えて─「評価」のオルタナティブを探る』(監訳)ミネルヴァ書房2022年、等。

取材・文 川崎ちづる

【乳幼児からの探究 東京都の実践】の連載は、全3回。
第2回を読む/3月28日からリンク有効。
第3回を読む/3月29日からリンク有効。

【関連書籍】

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川崎 ちづる
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Chizuru Kawasaki
ライター

ライター。東京都内で2人の子育て中(2014年生まれ、2019年生まれ)。環境や地域活性化関連の業務に長く携わり、その後ライターへ転身。経験を活かし、環境教育や各種オルタナティブ関連の記事などを執筆している。WEBコラムの他、環境系企業や教育機関などのPR記事も担当。

ライター。東京都内で2人の子育て中(2014年生まれ、2019年生まれ)。環境や地域活性化関連の業務に長く携わり、その後ライターへ転身。経験を活かし、環境教育や各種オルタナティブ関連の記事などを執筆している。WEBコラムの他、環境系企業や教育機関などのPR記事も担当。