話題の「ゆるスポーツ」 10万人以上が参加して本当にあるのは?

〔今ない仕事クイズ〕①イモムシラグビー ②ベビーバスケット ③ブラックホール卓球

答えは ぜんぶ!

どの競技も、10万人以上が参加しています。誰もが楽しめるうえに、ケガをしにくく、ミスしても笑顔がいっぱになるようにユーモアと工夫を凝らして開発されています。

こうした「ゆるスポーツ」を80以上生み出し、一般社団法人「世界ゆるスポーツ協会」の代表理事を務める澤田智洋さんに、「ゆるスポーツ」開発に至った背景や、世の中の「弱さ」に着目する発想について、お話を伺いました。

いもむしラグビー ©世界ゆるスポーツ協会

専用のイモムシウェアを着用し、ほふく前進か転がってプレーします。パスは基本ゴロで、トライゾーンにボールを押さえたら2点(イモムシトライ)。ラフプレーをしたら、その場でひっくり返って1プレイ分「イモムシフリーズ」!​​

ベビーバスケット ©世界ゆるスポーツ協会

特別仕様の「ベビーボール」は、乱暴に扱うと大きな声で泣いてしまいます。泣かせてしまったら相手チームボールに。大切に扱って「授乳ゾーン」にいるゴールプレイヤーが持つ、ゆりかごにボールを入れるとポイントが入ります。

ブラックホール卓球 ©世界ゆるスポーツ協会

ブラックホールの大きさはS、M、L、LLの4種類。シングルスでは、得点を重ね勝利に近づくごとにブラックホールが大きくなるというように、チャンスとピンチが入れ替わるルールで白熱した試合に! 

「弱み」こそ子どもたちの「強み」になる!

運動会やスポーツ大会のシーズンが近づくと憂うつになる。そんな経験をした方、今、まさにしているお子さんも多いのではないでしょうか。

世界ゆるスポーツ協会のコンセプトは、<スポーツ弱者を、世界からなくすこと>。すでにある世の中のルールに従って強弱を争うのではなく、みんなが一緒に楽しめるよう、ルールや道具を工夫するという発想の大転換。そのアイデアは、今や国連を始め世界で注目を集めています。

そんなやわらかな発想で、めざましい活躍をされる澤田智洋さんも、かつては、この競争社会からはみ出してはいけないのではないかと思い込み、広告代理店のコピーライターとしてがむしゃらに働いていました。

澤田さんが変わるきっかけとなったのは、2013年に生まれたお子さんの視覚障害でした。

澤田智洋さん ©澤田智洋

「最初は絶望感に襲われました。
それまで、『障害者はかわいそう』と思い込んでいたからなんです。
息子の誕生を機に障害者の方々に会うようになりましたが、当事者の彼らはいたって自然体で、不便ではあるけれど不幸ではないことがわかりました」


「目が見えなくてかわいそう」と思われるのは、現代の社会が視覚に頼り過ぎていることの現れ、と気づいた澤田さん。みんなが目隠しするルールにしたら、強みと弱みが入れ替わって、一緒に楽しめるスポーツが生まれるんじゃないか。

自身が、子どもの頃から運動音痴であることも重なり、どんな人でも活躍でき、楽しめるスポーツを作りたいという思いが、「世界ゆるスポーツ協会」を設立につながりました。

「弱さやコンプレックスは地上に出した方がいいと思うことにしました。

人が冷蔵庫だとしたら、収納している具材って限られていると思うんです。『強さ』という具材だけで勝負していると、作れる料理が人と似通ってくる。

現在の仕事では、わたしが持っている具材すべてを使っています。キャッチコピーを書けるという具材、運動音痴という具材、子どもに障害があるという具材。世間では弱みと思われているものもすべてかけ合わせた発想で、『ゆるスポーツ』も作っています」



世の中、とかく「強さ」が注目されます。「弱さ」は、恥ずべきもの、克服しなくてはいけないもの、と思われがち。

子育て中の皆さんは、子どもの弱い部分を、どうやったら「普通」できるか、悩むことも多いのではないでしょうか?  
 

「むしろ子どもたちの『弱さ』にこそ独自性があり、保護者はそこに注目した方がいいです。
今後AIがさらに社会に浸透し、代替可能な仕事は(AIに)担われていくことを考えると、子どもを「普通」に育てる方が、リスクが高いと感じます」


澤田さんは、「弱さは、人と人をつなげる紐帯(ちゅうたい)」と表現していました。

自分独自の弱さを出すことで、人間性をわかってもらえて、関わりやチームワークの中で、まわりのみんなが強くなったり、優しくもなり、豊かな人間関係を生むと語ります。

ゆるスポーツを経験すると、絶対的と思われた価値観や強みや弱みの基準が、ぐるっとひっくり返り、自然と笑顔があふれてきます。失敗したって楽しい。既存のルールと勝敗に縛られて、ガチガチだった心がゆるんでくるのです。

コロナ禍を経て、デジタル化がさらに大きく進展して、仕事のルールが大きく変わってきている今、自分の中の「ガチガチ」なものに気づいて、ゆるめていくのには、いいタイミングなのかもしれませんね。

この「ゆるスポーツ」もキーワードとして登場する、<今ない仕事図鑑シリーズ>の最新刊『SDGsでわかる 今ない仕事図鑑ハイパー ~自分の才能発見ブック~』では、SDGをベースに固定観念をゆるめる146の「ないけど未来に生まれるかもしれない仕事」を紹介しています。

悲観的な未来予想が話題になり、「無理ゲー社会」ともいわれる昨今。ちょっとだけ思い込みをゆるめれば、将来やりたい仕事、もっとやさしい社会、ワクワクする未来が見えてくるかもしれませんね!

(プロフィール:) 一般社団法人「世界ゆるスポーツ協会」代表理事 澤田智洋さん
世界ゆるスポーツ協会代表理事/コピーライター。
1981年生まれ。幼少期をパリ、シカゴ、ロンドンで過ごした後、17歳の時に帰国。2004年、広告代理店入社。2015年に誰もが楽しめる新しいスポーツを開発する「世界ゆるスポーツ協会」を設立。これまで80以上の新しいスポーツを開発。東京2020パラリンピック競技大会の閉会式のコンセプトや企画を担当。海外からも注目を集めている。一般社団法人障害攻略課理事として、福祉領域におけるビジネスも多数プロデュースしている。著書に『ガチガチの世界をゆるめる』(百万年書房)、『マイノリティデザイン 「弱さ」を生かせる社会をつくろう』(ライツ社)がある。

世界ゆるスポーツ協会の公式サイト
https://yurusports.com/

『SDGsでわかる 今ない仕事図鑑ハイパー ~自分の才能発見ブック~』
文・構成:上村彰子 、「今ない仕事」取材班 監:澤井智毅、宇野カオリ イラスト:ボビコ
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今ない仕事取材班

講談社内の主に10代の子どもを持つ編集者によって構成。「働くこと」について子どもたちへどのように教えたら良いか、また、古い常識にとらわれない新しい知識の必要性を感じ、<今ない仕事図鑑 >シリーズのプロジェクトをスタート。 Twitter: @work_imanai

講談社内の主に10代の子どもを持つ編集者によって構成。「働くこと」について子どもたちへどのように教えたら良いか、また、古い常識にとらわれない新しい知識の必要性を感じ、<今ない仕事図鑑 >シリーズのプロジェクトをスタート。 Twitter: @work_imanai