木南清香「“好き”だからこそ再び子どもの頃の夢を叶えられた」
ミュージカル俳優 木南清香さん「私の“音育”」#3~お仕事編~
2021.10.04
元劇団四季で、今も数多くの舞台で活躍する木南清香さん。幼少期からミュージカル俳優になる夢を持ち続け、高校、大学では声楽を学んでいました。
実際にミュージカルの舞台に立つようになるまで、どのような時間を過ごしたのでしょうか。
「やはりやりたいのはミュージカル!」単身でニューヨーク留学へ
大学の声楽専攻を卒業後はオペラスタジオへと入門した木南さんですが、そこで学ぶ本格的なオペラは原語で歌い、演じるものであり、日本語で歌っていた大学の卒業公演とは全然違う感覚だったといいます。
「母国語ではないイタリア語の歌詞に気持ちを乗せて表現することが、私にはとても難しく感じました。私が学生時代のオペラを楽しく思えたのは、日本語の歌詞で歌えたからなんだな、と実感しましたね」
オペラを学びながらも「自分のやりたかった、“歌でストーリーを表現すること”ができるのは、やっぱりミュージカルかもしれない」と気付いた木南さんは、オペラスタジオを2ヵ月休んでニューヨークへ短期留学します。
現地では、とにかく本場のミュージカルをたくさん観てまわったそうです。そして帰国後、オペラスタジオの予科を修了し、劇団四季の入団試験を受けることを決意しました。
「当時、私は関西に住んでいたこともあって、“ミュージカルに出演するためのルート”というものがわかりませんでした。
ミュージカルを主催する企業の多くは東京にあるので、オーディションを受けるにはその都度上京しなくてはいけないですし、そもそも事務所に所属していないと、オーディション情報が入ってきづらいんです。
そう考えたときに、劇団四季の入団試験は一般公募されているので、チャレンジしやすかったです。
私が観劇して影響を受けた『ライオンキング』をはじめ、たくさんの有名な作品を上演しているうえに、オーディションをほぼ毎年開催していました。
狭き門かもしれないけれど、劇団四季の門は開かれているんです」
入団合格したものの 新たな難関が出現
入団試験に向けてまずはダイエットを頑張ったという木南さん。オーディションでは木南さんがこれまで学んできたこと、特にクラシックやオペラの経験が活きたそうです。
「入団試験そのものは、歌とダンス。そのなかでも部門分けされているので、自分の得意分野で受けられます。
私は、学生時代に学んだことを活かせるヴォーカルクラシック部門に挑戦。試験ではクラシックやオペラの楽曲を歌ったので、学生時代に学んだことが活かせてよかったです」
高校、大学時代に声楽を専門的に学んできたおかげで、劇団四季の入団試験へ見事合格。ところが、苦労は入団後に待っていたのです。
「入団してからは本当に大変で、『ミュージカルのためのボイストレーニングも習っておけばよかった……』と後悔しました。
これまでマイクをつけて歌う経験はほぼありませんでしたし、必ずしも声量があればマイクに乗る歌声が出せるというわけでもない。ミュージカルの声の出し方に慣れず、最初の頃は、ノドが枯れてしまうこともありました。
基礎がしっかりするのでクラシックを学ぶことはとても大事だと思いますが、併せて、ミュージカルのためのボイストレーニングを習うことも大切だったと思います」
毎日音響スタッフのもとへ通って自分の歌声をチェックするなど、入団後も努力を重ねた木南さん。「オペラ座の怪人」や「ライオンキング」など、劇団四季の人気作品に出演したのちに退団します。
そして退団後は、なんとまったく異業種のOLに転身! 学生時代から音楽漬けだった彼女にとって、初めての音楽と離れた生活とはどのようなものだったのでしょうか。
「退団後は、そのまま東京でOLとして働くことにしました。OL期間はミュージカルとは一切離れた生活をしました。お料理教室に通ったり、ネイル検定を取ったり……。
遅れてきた青春といいますか、学生時代は音楽漬けの日々に不満はありませんでしたけど、舞台に立つための習い事しかしてこなかったので、それまでとは全然違う世界に触れたことでいろいろな楽しみを体験できました」
OL時代の日々を新鮮に感じていたと振り返る木南さんですが、とあるミュージカル作品を観劇したことで、再びミュージカルへの熱が燃え上がります。
「大好きな『ミー・アンド・マイガール』という作品の日本上演を知り、久しぶりにミュージカルを観劇しました。生の舞台を体感したら、『やっぱりミュージカルに出たい!』という想いがすぐによみがえってきましたね。
そこで、『東宝ミュージカルアカデミー』という、多くのミュージカル俳優を輩出している学校に通うことにしました。
この学校を卒業すると、ミュージカルのオーディションを受けるチャンスをいただくことができます。当時の私は28歳で、募集要項の年齢制限ギリギリ。10代〜20代前半の生徒が多かったですが、そんなことは全然気になりませんでした。それよりも、ミュージカルにまた挑戦できると思うと毎日ワクワクしていました。
学校では時節ごとに試演会というお披露目の場が設けられていて、そこに向けて生徒主体で作品を仕上げていくんです。それまではクラシックの声楽についてしか学んでこなかったので、初めて、ミュージカルについて学べることがうれしかったですね」
早朝から公園に集まって、台本を覚えたり、セリフを練習したり……とハードな生活だったという木南さん。10代の同期生に比べて体力のギャップを感じるなど苦労もあったようですが、それでも学ぶことを楽しんで続けられたのは、ミュージカルを好きな気持ちがあったからだといいます。
「高校時代、同じ学科の同級生もみんな『音楽が好き』という共通の想いは持っていましたが、どちらかというと“個々がスキルを上げる場”という感じでした。
高校・大学時代は部活動に参加した経験もありませんでしたし、『全員が同じ方向を見て、なにかに取り組む』という状況は、新鮮な経験だったかもしれません。大変だったけれど、みんなで切磋琢磨しながら一丸となれる環境が楽しかった気持ちの方が大きいですね」