ベストセラー『病院で死ぬということ』の医師が子育ても支援する理由とは?

子どもの居場所 ルポルタージュ #2‐2 東京都『ケアタウン小平』

ジャーナリスト:なかの かおり

北海道や鹿児島など、全国を飛び回るさとうりつこさん。  撮影:なかのかおり

地域の中で支え合いになれればという理念から「ケアタウンの庭」という場が生まれ、「集まれ! こども広場」の活動へとつながっていきました。始めてから5年ぐらいして、地域に溶け込みました。

「集まれ! こども広場」の活動はケアタウンの事業の中でも、収益が出ない部門。この活動は、地域の方々や、在宅ケアを通じて知り合った遺族からの寄付を活用し、2006年から170回以上、継続されています。

継続の力は大きいです。なかには大人になって、結婚相手を連れてきた子も。3.11の後、世の中が混乱したときも、広場に集まって思いを共有しました。

「始めは、子どもの参加率が高かったです。今の子は忙しいのと新型コロナウイルスの影響で、参加が少なくなりました。今、参加している世代がいなくなったらどうなるかという心配はあります」とりつこさん。

りつこさんは、コロナ禍に心配も感じています。

「コロナ禍の中、子どもがずっと管理されてきて、大人の顔色をうかがう子が増えました。何でも『やっていい?』と確認してきたり、私が『今年1年、何して遊ぶ?』と聞くと、ソーシャルディスタンス、接触しないで遊べるもの、という話になったり。制限されているようで、でもここはそういうことが言える場なんですね。

遊びとは、本来思いついたら、今日の氷遊びみたいにやってみるもの。湧いてきた気持ちが、展開していくんです。月に1回会う子が、表情が硬くなったなと感じることもあって……。『マスクは外で外していいよ』と言っても、一瞬も外さない子がいます。マスクを手で押さえて、ウイルスが恐怖として植え付けられてしまっているんです。マスクとどう付き合っていくかを、考えていくしかないと思います。

例えば今日みたいに暑いと、マスクを外す機会になるので、『顔を見られて嬉しい』と伝えるチャンスを探していきます。遊びに夢中になって、気づけば取れていたならいいと思います。そうなるまで、見守っていきたいですね」(りつこさん)

ケアタウンにある看板。真ん中のメガネのお顔は山崎さんにそっくり。  撮影:なかのかおり

『病院で死ぬということ』から30年 著者・山崎章郎さんが語るこども広場を作った理由

最後に、山崎さんにこども広場を作った理由を話していただきました。

「こども広場は、ケアの発想から出てきたものです。がんの痛みを取ることは、知識と経験でできる。でも体が変化し、機能を失っていく過程で直面する不安は、痛み止めでは対応できません。

それは、よりどころがないことで起きる苦悩、自己肯定できない苦悩です。そこを支援していくのが、ケアタウンです。今、生きている意味を感じられれば、自分らしくいられる。よりどころがあり、人との関係性があることが一番、大事です。

社会を見ると、病気が治癒しなくて亡くなっていく人がいて、子どもたちには不登校やいじめの問題があり、命には関わらないけれど、居場所がない人がいる。ケアタウンを始める当時のこうした社会問題は、ケアの本質と共通点がありました。

子どもも母親も、周りから叱咤激励されている。頑張ってくださいではなく、競争でなく、ただ遊ぶとほっとするし、解放される。それはもう、地域で取り組む課題だよね、と思っていました。私も最初のころは、校長先生として参加しました。

ケアタウンは、子どもやここで暮らした方の遺族も集まりやすい環境です。子どもには、慣れた遊び場所が必要です。利用する高齢者にとっては、生活環境に遊ぶ声が聞こえるのはとても良いこと。

立ち上げは、在宅の緩和ケアが目的でしたが、自分では自分のことを守り切れない人へのサポートも目指してきて、そこにはお母さんや子どもも含まれます」(山崎さん)

人生の終わりをよりよく生きるために、心身の痛みの緩和に取り組んできた山崎さん。改めてお話を聞くと、子育て家庭が感じる孤独感にも、同じように向き合ってきたことがわかります。コロナ禍で子育てがさらに困難になったいま、ケアタウンのように、自然と命の大切さを感じられ、どんな人も肯定される居場所が必要だと思います。

次回、3回目は、親子イベントに何年も参加していたけれど、母親である自分だけが今でも参加し続けている、ある女性のお話をお伝えします。子どもが卒業しても、『ケアタウン小平』に、なぜ足を運ぶのでしょうか。

取材・文/なかのかおり

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なかの かおり

ジャーナリスト

早稲田大参加のデザイン研究所招聘研究員。新聞社に20年あまり勤め、独立。現在は主に「コロナ禍の子どもの暮らし」、「3.11後の福島」、「障害者の就労」について取材・研究。39歳で出産、1児の母。 主な著書に、障害者のダンス活動と芸能界の交差を描いたノンフィクション『ダンスだいすき!から生まれた奇跡 アンナ先生とラブジャンクスの挑戦』、『家庭訪問子育て支援ボランティア・ホームスタートの10年「いっしょにいるよ。」』など。最新書『ルポ 子どもの居場所と学びの変化: 「コロナ休校ショック2020」で見えた私たちに必要なこと』が2022年10月22日発売。 講談社FRaU(フラウ)、Yahoo!ニュース個人、ハフポストなどに寄稿。 Twitter @kaoritanuki

早稲田大参加のデザイン研究所招聘研究員。新聞社に20年あまり勤め、独立。現在は主に「コロナ禍の子どもの暮らし」、「3.11後の福島」、「障害者の就労」について取材・研究。39歳で出産、1児の母。 主な著書に、障害者のダンス活動と芸能界の交差を描いたノンフィクション『ダンスだいすき!から生まれた奇跡 アンナ先生とラブジャンクスの挑戦』、『家庭訪問子育て支援ボランティア・ホームスタートの10年「いっしょにいるよ。」』など。最新書『ルポ 子どもの居場所と学びの変化: 「コロナ休校ショック2020」で見えた私たちに必要なこと』が2022年10月22日発売。 講談社FRaU(フラウ)、Yahoo!ニュース個人、ハフポストなどに寄稿。 Twitter @kaoritanuki