「勉強の価値がわからない」という親 貧困の連鎖を断ち切る無料塾の挑戦

子どもの居場所 ルポルタージュ #3‐3 東京都『日野すみれ塾』

ジャーナリスト:なかの かおり

「日野すみれ塾」5周年のお祝いにいただいた、差し入れのケーキ。貧困家庭では、丸いケーキを見たことがない子もいるといいます。  写真提供:日野すみれ塾

ジャーナリスト・なかのかおりさんによる、子どもの居場所についてのルポルタージュ連載。東京都日野市にある無料塾・「日野すみれ塾」の取り組みや、代表・仁藤夏子(にとう・なつこ)さんの生い立ち、想いをこれまで2回にわたって伝えてきました。

最終回となる3回目は、「日野すみれ塾」を通して見えた、貧困家庭をめぐる問題と課題について、仁藤さんと考えました。

(全3回の3回目。1回目を読む2回目を読む

「勉強の価値がわからない」という親の壁

無料塾である「日野すみれ塾」を始めて、2022年で丸5年が経ちました。最近、すみれ塾代表の仁藤夏子さんが気になるのは、外国籍のお母さんが多いことです。日本の文化が理解できていなくて、学校の先生の話が聞き取れず、プリントも読めない。

「時間をきっちり守るというルールがわからなくて、子どももルーズになりがちに……。塾に来ないので電話をしたら、『今ご飯を食べています』、と。『約束してあるんだから来ないといけないよ』と言うと、30分かけて歩いてきました。

こうした生活の基礎的なところを、周りの人が教える必要があります。日本に住む以上、過ごしやすくするためには、ルールを守ることが大事なんだよ、と」(仁藤さん)

さらに、貧困家庭で多いのは、「勉強の価値がわからない保護者」です。

「子どもには、親御さんという壁があります。勉強させすぎて、教育虐待になるのも良くないけれど、勉強の恩恵を受けていない、勉強は必要ないと言われてきた親御さんは、子どもに『高校に行かないで働きなさい』と言います。

中卒では、なかなか働き口も見つかりません。塾の面談でも、そういう親御さんを説得しました。悪気はないんです。ただ、勉強をして達成感を得た経験がないと、わからないんですよね」(仁藤さん)

でも、保護者の気分を害して、子どもが塾をやめてしまわないよう、子どもの将来のためには、保護者への心配りも大事です。

「『日野すみれ塾』は、ただ学力を上げるのが、目的ではありません。都立高校に合格したらそれでOKではなく、長く緩やかにその子の人生設計をサポートしていきたいと思っています」(仁藤さん)

「日野すみれ塾」の5周年感謝祭で、卒業生が来場した子と遊んでいました。  撮影:なかのかおり

知的好奇心や興味を持ってほしい

高校受験を目指す中学生向けの無料塾が多い中、すみれ塾では月に2回、小学生の参加日もあります。

「小学生には、知的好奇心や、物事への興味を持ってほしい。勉強のやる気が持てない子は、興味が欠如しています。映画を見たことがないとか、体験が乏しいんですよね。

インターネットやゲームというのは、自分の欲しい情報しか得ることができません。息抜き程度は良いですが、それが中心になってしまうのは問題だと思います」(仁藤さん)

他に近年、小学生の気になることとして、経済的に困っていない家庭の「文化的貧困」もあると、仁藤さんは指摘します。共働きで親が家にいない、厳しい受験塾通いを強いられているなどの例です。

「子どもがやりたいと思っての習い事ならいいけれど、受験塾に行って疲れて寝ている子もいる。

一般的に受験塾の月謝は、月に6万ぐらいかかります。そのために、パートで働いて稼いでいるお母さんがいる。それだったら、おいしいご飯を家族で食べたほうが、有意義じゃないかと思うんです」(仁藤さん)

生理の貧困や見えない貧困は信頼関係がないから

最近では、「見えない貧困」も、問題になっています。身に付けるものは、プチプライスで何でも揃ってしまうから、困っていることが見えにくいのです。

「兄弟のアルバイト料で、生活をやりくりしている家もあります。そういう子は、普通の子がちょっとする贅沢ができなくて、何事にも興味が持てない。塾に来る子で、夏合宿のときに、初めてそうめんを食べた、障子を見たことがなかった、という子がいました。

最近よく話題になる、生理の貧困ですが、貧困家庭で育った私にもありました。父子家庭だったこともあり、困っていると言えませんでした。親と信頼関係があれば、言えたと思います。

他にも、親がお金を持っていても、文房具を買ってもらえない子がいます。親と信頼関係がないため、親に借りを作りたくなくて、買ってと言えない。子どもって、そういうことに敏感なんです。なので、『日野すみれ塾』では文房具を寄付で購入し、子どもたちに支給しています」(仁藤さん)

また、学校の成績が思わしくない子について、よく話を聞くと、「実はヤングケアラーでした」ということも。そういう子は自分からは言いません。仁藤さんは、夏合宿でも面談にかなりの時間を割きました。面談で話を聞いていると、各家庭の状況がよくわかるからです。

「日野すみれ塾」では、勉強と食事はセットと考え、シニアボランティアの方々が食事を用意しています。この日は、そうめんにおかずを添えて。  提供:日野すみれ塾

オンラインクラスで成績アップ

コロナ禍で、「日野すみれ塾」がどのように過ごしてきたかも気になります。こちらでは、Zoomのオンライン指導をすぐ取り入れ、スピーディーに対応しました。夏合宿やイベントも、気を付けながら、続けています。

「運営が私ひとりしかいないので、何事も早く決められます。休校になったころ、Zoomのオンラインクラスを毎日開催したら、勉強の時間が増えたことにより、みんなの成績が上がりました。

機材がない子は直接来たり、ポケットWi₋Fiを貸し出したり。当時の高校受験生は数人だったし、規模が小さいからこそ、子どもたちをフォローすることができました。今でも、対面クラスにプラスして、ボランティア講師の厚意で開かれるオンラインのクラスも続けています」(仁藤さん)

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