発達障害の「二次障害」 不登校や引きこもりの予防策を専門家が解説

信州大学医学部・本田秀夫教授#4~発達障害の二次障害~

児童精神科医・信州大学医学部子どものこころの発達医学教室教授:本田 秀夫

昨今、発達障害の二次障害は、不登校の要因のひとつとして考えられている。  写真:アフロ
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子どもの発達障害を専門とする児童精神科医・本田秀夫先生(信州大学医学部子どものこころの発達医学教室教授)によると、発達障害の特性をもつ子どもたちの中には、「二次障害」を引き起こす例が多々あるといいます。

「二次障害」とは、精神疾患を発症したり、不登校や引きこもりなどで社会に参加できなくなったりすることを指します。

なぜこういったことが起きるのか、予防するためにはどうすればいいのか、信州大学医学部子どものこころの発達医学教室にて伺いました。

※全5回の4回目(#1#2#3を読む)

普通のフリをする社会的カモフラージュ行動

前回(#3)では、「平均的な子育てマニュアルに沿って育てると、子どもにとっては逆効果になることもある」という話を伺いました。

とりわけ発達障害の特性をもつ子どもに、平均や定型発達を目指させることは、多くのリスクを伴うといいます。子どもの特性と、周囲の対応や環境が合わないことで大きなストレスが生まれ、本人の心や身体にさまざまな不調をきたすからです。

その一つが「過剰適応」だと本田秀夫先生(児童精神科医・信州大学医学部子どものこころの発達医学教室教授)は言います。

「これは、周りの大人から『みんなと同じようにやりなさい』などと言われ、その期待に応えるために自分が本当にやりたいことを過剰に我慢して、他人と合わせることばかりを優先してしまう状態のこと。

一見、問題ないように見えても、本人は大きなストレスを抱えています」(本田先生)

さらに、「定型発達のような振る舞いをする子もいる」と言います。

「『普通のフリ』をすることを、社会的カモフラージュ行動といいます。年齢が上がれば上がるほど、カモフラージュ行動をする人が増えていきます。

社会でうまくやっていくコツのようにも見えますが、ASD(自閉スペクトラム症)傾向の人々については、カモフラージュ行動の程度が高ければ高いほど、社会不安やうつなどの症状との関連性も高いというデータもあるんです。

多少はしてもいいとは思いますが、完全に自分を否定することにつながるカモフラージュ行動は、メンタルヘルスに悪影響を及ぼすことがあります」(本田先生)

考え方や感じ方が周りの子どもたちと違っているにもかかわらず、自分の価値観に蓋をして、周囲と同じように振る舞う「社会的カモフラージュ行動」。

発達障害の特性をもつ子どもたちをそうさせてしまうのは、昔から日本社会にある「これが普通」「みんなと同じがいい」といった同調圧力的な風潮にも原因があるのかもしれません。

「発達障害の子は、他人から見れば多動や対人関係の異常などと判断されますが、本人の中ではあちこちに気持ちが向いたり、興味が他の人とズレるだけなんですよ。

自分は熱中して話しているのに、他の人は同じ話題に乗ってくれないとか、そういったことで悩むんです。

学校の先生からは授業を聞いていないと見られても、本人からしたらその授業に興味が持てないだけ。興味がないのに、周囲に合わせて聞いているフリすることを教えるのが本当に正しいのかという話です。

大人になっても興味が偏っていたり独特な世界を作る人もいて、むしろその個性でいい味を出したり、それが仕事や趣味につながったりする。そういった可能性があるので、特性を否定するようなことはしないほうがいいんです」(本田先生)

子どものために「こうしたい」の真逆をいく

過剰適応の状態や、社会的カモフラージュ行動などの延長線上に起こってしまうのが、「二次障害」です。

二次障害とは、発達障害の特性などの一次障害を要因として、周囲からの理解を得づらい環境のなかで、うつや不安など心身の症状を発症している状態像のこと。不登校や引きこもりになることもあります。

「小学校でいうと、集団が苦手で大勢の中では緊張して不安を強く感じる子に対して、周囲から特別支援学級を勧められても絶対入れさせないという親御さんがいます。

こうして子どもの個性を理解せず受け入れないまま、『みんなと一緒に』というスタンスでやっていると、子どもはその状況に適応できず、精神的に参ってしまい不登校になってしまうことが実に多いんです。不登校の理由は、他にもさまざまあるので、これは一例ですが。

特別支援学級に入れば、少人数の小さいサークルの中で日々の流れを習得することで少しずつ自信をつけていくことだってできます。そうして高学年になったときには、通常学級で過ごせるという子もいるんですよ」(清水亜矢子先生/小児科医・信州大学医学部子どものこころの発達医学教室特任助教)

発達障害の特性があるからといって二次障害を発症するとも限りません。どのようにすれば回避できるのでしょうか?

「極論を言うと、親御さんが『こうしたい』ことの真逆をやること。要は『定型に近づけたい』という思いの逆をいくということです。

世間に対して『うちの子にはこういう特徴がある』ということをなるべく隠したいのであれば、オープンにしたほうがうまくいく。子ども自身にも、自分の特徴を自覚してもらうほうがメリットが大きいからです。

そこに踏ん切りをつけるのは難しいポイントでもありますね。私たちが開発したアプリ『TOIRO(トイロ)』は、そういった親御さんの気持ちを支援する一環でもあるんですよ」(本田先生)

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