首がすわる、寝返りをする、おしりアップをする、ハイハイをする、おすわりをする、立っちする、歩く……、赤ちゃんはひとつひとつの発達過程を経て大きくなります。発達の順序はほぼ決まっているものの、ペースは子どもそれぞれだと、江田先生は言います。
「みなさんは、ご自身のお子さんの首が、いつすわったのかを覚えていますか? 『何月何日にすわりました』と答えられる方は少ないのではないでしょうか。発達とは、徐々に進んでいくもの。ある日、突然成功して、動作を獲得するものではありません。
食べることも、身体の発達と同じ。小さな過程をひとつひとつ経ながら、赤ちゃんは「食べる」という複雑な動作を獲得します。4〜5ヵ月頃になると、手につかんだものを口元に運べるようになります。
その後、ものを見てそれに手を伸ばし、触って確かめる動作をするように。そして、口に入れて噛んだりして味わう行動をするようになる。こういった一連の発達段階を通って、赤ちゃんたちは食べる練習をしているのです」(江田先生)
「ですから、ペースト食を親がスプーンにのせて食べさせる、という離乳食の進め方は、じつは赤ちゃん自身の食べるという発達を無視していることになります。多くの赤ちゃんは、わざわざ親に食べさせられなくても、じつは自分で食べられるようになるのです」(江田先生)
初めて出合う食材は モンスター!?
「手づかみ食べ」をする意義を親たちに説くワークショップ(※1)で、先生が使っている物があります。
※1=現在は休止中。インスタライブのアーカイブで同様のものが視聴可能。
一見すると食べられるのかどうかすらわからない、おもちゃのような見た目の、奇妙なお菓子。これを親たちに見せて、「この中から、食べられるものを探してください」と聞くのです。
「知らない物を初めて食べるときってどうしますか? 不思議な色、見たことのない形状、それがどういう味がするのか経験値では想像がつかない物を目の前に置かれて、すぐに口に入れられる大人は少ないはず。子どもにとってもそれは同じ。初めての食材は、モンスターと対峙(たいじ)しているようなものなんですよ!」(江田先生)
確かに大人であっても、初めて見る食べ物はまずはよく観察します。おそるおそる匂いをかいでみて、安全そうならちょっと舐めてみて、おいしそうならようやく口に含んでみる。じっくりゆっくりと、食材を五感で確認しながらやっと食べることができます。
「この点においても、スプーンで口に入れられる食事には、デメリットがあるんです。自らじっくり食材を確認するという体験ができないので、赤ちゃんは食べることに関しての興味と意欲が希薄になりがちです」(江田先生)
そういった面からも江田先生が離乳食時に推奨しているのが子どもが自主的に食べ物に手を伸ばし食べる「手づかみ食べ」です。とはいえ、一般的なスプーンで食べさせる離乳食指導を受けてきたお母さんたちからすると、「こんなに早く自分で食べることができるの?」と驚かれるそうです。「手づかみ食べ」を成功させるためのコツを見ていきましょう。
「手づかみ食べ」は離乳食初期からできる!
まずは「手づかみ食べ」を始める時期の目安です。
厚生労働省が制定する「授乳・離乳の支援ガイド」の中では、生後9ヵ月から「手づかみ食べ」が始まると書かれています。しかし、江田先生は「9ヵ月からのスタートでは遅い」と言います。
「私たち小児科医が、子どもの発達において参考にしているデンバー式発達スクリーニング検査という発達指標があります。
ここでは、子どもが『ビスケットを自分で食べる』のが、生後5ヵ月前後とされています。一般的な離乳食マニュアルにある9ヵ月という数字には、なんの根拠もありません」(江田先生)
先生が「手づかみ食べ」の開始目安とするのは、なんと離乳食スタート時から! 月齢の早いうちから手づかみ食べを勧めるのには、食べるスキルを上げていくための理由があるのだそうです。
「興味がある物に自分で手を伸ばせるようになってくる5~8ヵ月頃が、もっとも手づかみ食べの開始に適しているんです。試しに、7ヵ月のお子さんの目の前にお人形を差し出すと、何のためらいもなく、手を伸ばしてひょいっと持ちます。
しかし、生後9ヵ月頃には知らない人やものを警戒するようになります。いわゆる人見知り時期です。この頃には、目の前に差し出された物に対して、躊躇(ちゅうちょ)するということを覚えます。こうなると、「手づかみ食べ」はどんどん難しくなります。
何でも興味を示して、何でも口に入れてしまう5~8ヵ月の頃にこそ、自分で食べる経験をどんどんしていくべき。日本の赤ちゃんはこの大事な時期を逸しているなと感じます」(江田先生)