【子どもの歯列矯正】専門家がわかりやすく解説 「7割は時期尚早?」安心できる歯科医選びと治療のタイミング

歯列矯正専門医に聞く「子どもの歯並びと歯列矯正」#1 治療と歯科医師の選び方

はやし矯正・歯列育成クリニック院長:林 亮助

子どもの歯列矯正は、親と子どもと歯科医師の3者が協力しあってこそ、成功します。  写真:アフロ

少子化が叫ばれて久しいですが、この20年で市場規模が格段に上昇しているのが小児歯科です。厚生労働省の国民医療費統計データによると小児歯科(0~14歳)の医療費は2003年の約1900億円から2021年には約2600億円へと上昇。

歯の健康を保つことが長い人生において重要という認識が広がり、子どものころから歯列矯正を考える保護者も増えています。

そこで今回は、矯正歯科医で、長年小児歯科医としても多くの子どもたちの歯を見守ってきた、はやし矯正・歯列育成クリニックの林亮助先生に、最新の子どもの歯列矯正事情と保護者でもできる子どもの歯を守るためのヒントについて教えていただきます。

※全3回の1回目

●林亮助PROFILE
はやし矯正・歯列育成クリニック院長。歯学博士・日本大学兼任講師・日本矯正歯科学会認定医。20年以上、矯正歯科を専門に研究と臨床を行う。2022年、小児矯正から成人矯正までを扱う矯正歯科専門の「はやし矯正・歯列育成クリニック」(東京都世田谷区)を開院。

小児歯科の受診者が増えている!?

日々、子どもたちの歯の健康を見守っている矯正歯科医の林先生は、最近、保護者から子どもの歯列矯正についての相談が増えてきたと言います。

「インターネットなどで情報収集することが当たり前になったことに加えて、コロナ禍で健康に対する意識が高まったことも多少影響はあるかもしれません。

少子化という中ではありますが、習い事などと同じで、お子さんひとりに対する保護者の意識が高まっているというのは実感しています」

セカンド、サードオピニオンが急増

かかりつけの歯科医院ではなく、わざわざ矯正歯科専門医へ相談しにくるのはどのような人が多いのでしょうか。

「最近増えた印象が強いのが、セカンドオピニオン、サードオピニオンを求める方々です。かかりつけの歯科医ですぐに歯列矯正をしないといけないと言われて不安になってしまい、矯正歯科専門医での診察も受けたいという方が増えましたね。

ただ、正直、歯列矯正を勧められて来たというお子さんの口中を見てみると、まだ必要がない、時期尚早という場合も多いです。カウンセリングや、診察、検査などをした結果、しばらくは経過観察しましょうというケースは7割くらいです」

いったい、矯正歯科専門医は子どもの歯のどこをみて経過観察という診断に至るのかは気になるところです。

「経過観察にする理由としては、あごの成長のピークである5~7歳のときに無理な矯正は避けたほうが良いケースが多いからです。まだ、永久歯を受け入れる環境が整っていないのに、無理に土台を矯正するのはお勧めできません。

ただ、お口の機能に問題があることで自然成長を期待できなかったり、嚙み合わせが極端に悪い場合は、早めの治療が必要なときもあるので、まずはなぜその歯科医師が矯正を勧めているのか、診断理由をきちんと聞くことは大切です」

歯並びは何歳から気にするべきか

保護者としては、具体的には、何歳ごろから子どもの歯並びを気にするべきかは知っておきたいポイントです。

当たり前ではありますが、幼児期の子どもの歯は乳歯であり、5歳ごろから徐々に永久歯に生え変わっていきます。これには個人差があり、いつごろから気にすべきかということは専門家でも判断が難しいと林先生は語ります。

「5~6歳くらいだと、まだあごが成長していないので、矯正には少し早いケースもあります。大体7~8歳くらいであごの成長に個人差が出てくるため、そのときに歯並びの問題が明確に出てくることが多いです。

ただ、5~6歳でも気になるポイントがあるのであれば、専門医に一度見てもらうということはとても大切だと思います。たとえ、経過観察となっても、なぜ今はそうなのかということを歯科医師に説明してもらえたら、安心できますよね。

実際、私のクリニックにも、セカンドオピニオンやサードオピニオン以外にも、学校の健診で嚙み合わせを指摘されたという方や、歯磨きチェックをしていて、上あごの出っ張りが気になったという方もいらっしゃいます。タイミングはそれぞれですが、気になったら診てもらうのはよいことですよね」

子どもの歯列矯正は専門性が高い

ひとくくりに、歯列矯正と言っても大人と子どもでは、治療方針も気にすべきポイントも全く違うと林先生は語ります。

「大人の歯列矯正は、ある意味とてもシンプルです。悪い歯並びを治すという道筋を立てて、そこを目指してひたすら進んでいきます。また、大人は自分で決めて治療を始める人も多いので、比較的スムーズに進むことが多いですね。

しかし、子どもの歯列矯正は成長過程に行うので、そうはいきません。留意すべきポイントがたくさんあって、とても専門性が必要な分野です。さらに、小学生や中学生は保護者の意向でスタートする場合が多いので、子ども自身のモチベーションを保つことも大切な要素です」

親の口腔内も治療のヒントに

「子どもは成長過程にあるので、不確定要素を観察し、数年後を予想しながら治療していきます。口腔内の状態はもちろん、親からの遺伝や環境因子なども確認しながら進めていきます。うちのクリニックでは、矯正を始める前に、可能な限りお父さん・お母さんの口腔診察もさせてもらっています」

子どもだけでなく、親の口腔環境も確認するというのは驚きです。

「口腔環境って遺伝要素がかなりある部分なので、参考になるんです。それくらい、子どもの口腔環境はさまざまな要素が入り組んでいるので、より慎重な診察と治療が必要になってきます」

費用と期間はどれくらい?

検査等を経て実際に歯列矯正を始めるとなったときには、どの程度の期間と費用がかかるのでしょうか?

「もちろん個人の症状によって違いますが、最初のカウンセリングから終了まで3~5年ほどかかるお子さんが多いですね。

歯列矯正は保険適用外なので自費です。料金は病院によって異なりますが、一般的に小学生のうちに始める場合は、3~4年で50万円くらい。中学生になってからのスタートだと80万円ほどです」

自費治療ということで料金は歯科医院によってかなり差があり、支払い条件も異なるので、始める前には詳しい説明をうけ、納得してからスタートさせることも大切です。

歯科医選びに大切なこと

そして、気になるのが歯科医選びのポイント。林先生はきちんとコミュニケーションをとれることが一番大切だと言います。

「歯列矯正の歯科医師は、スタートしてゴールするまで長い期間一緒に子どもを見守っていくことになります。疑問や不安があったら、都度きちんと相談できるドクターであるかを考えることは大切ですね。子どもとの相性もありますが、保護者としても歯科医師とコミュニケーションが無理なくとれることは本当に大切です。

また、歯列矯正に関していえば、『すぐに始めないといけない!』とか『手遅れになりますよ!』などと脅すように言う歯科医師の場合は、少し考えたほうが良いかもしれません。始める年齢が遅くても、その時々に最適な治療方法はありますので、手遅れということはありません」

ほかには、ドクターが何を理由にその治療方法を取り入れるのか、ゴールはどこなのかを示してくれるかどうかも重要だと話します。

「うちのクリニックに来られる方で、『矯正を勧められて始めたものの、前歯のみで奥歯は見てもらえなかった』など途中で治療を終わりにされてしまったという患者さんもいます。

子どもの歯列矯正でいうと、成長期を経た永久歯の歯並びまで、きちんと管理してもらえるクリニックがいいですね。一概には言えませんが、その点を考えると矯正歯科の専門医は安心できるかもしれません」

ただ、矯正歯科では、子どもの歯列矯正を受け付けていないクリニックもあるので、事前に調べることも必要です。

歯列矯正には、痛い・長い・高いというイメージを持つ方も多いかもしれません。大切な時間とお金を使う治療だからこそ、本当に安心してまかせられる歯科医師がいるクリニックに出会いたいものです。

次回は、ワイヤー(針金型)やマウスピースなど、具体的な治療方法について解説していただきます。


取材・文/関口千鶴

※歯列矯正専門医に聞く「子どもの歯並びと歯列矯正」は全3回(公開日までリンク無効)
第2回
第3回

【参考】国民医療費/令和3年度国民医療費 統計表

●関連サイト
はやし矯正・歯列育成クリニック

はやし りょうすけ

林 亮助

Ryosuke Hayashi
はやし矯正・歯列育成クリニック院長

はやし矯正・歯列育成クリニック院長。歯学博士・日本大学兼任講師・日本矯正歯科学会認定医/代議員。日本歯科大学卒業後、日本大学松戸歯学部歯科矯正学講座に入局。20年以上にわたり、矯正歯科を専門に研究と臨床を行う。大学病院退職後は、小児歯科専門クリニックに従事し、2022年、東京都世田谷区にはやし矯正・歯列育成クリニックを開院する。 共著に『子育ての基本 お口を育てよう!わが子に贈る最高のギフト』(現代書林)などがある。 ●関連サイト はやし矯正・歯列育成クリニック

はやし矯正・歯列育成クリニック院長。歯学博士・日本大学兼任講師・日本矯正歯科学会認定医/代議員。日本歯科大学卒業後、日本大学松戸歯学部歯科矯正学講座に入局。20年以上にわたり、矯正歯科を専門に研究と臨床を行う。大学病院退職後は、小児歯科専門クリニックに従事し、2022年、東京都世田谷区にはやし矯正・歯列育成クリニックを開院する。 共著に『子育ての基本 お口を育てよう!わが子に贈る最高のギフト』(現代書林)などがある。 ●関連サイト はやし矯正・歯列育成クリニック

せきぐち ちづる

関口 千鶴

Sekiguchi Chizuru
編集者・ライター

大学卒業後、出版社にて編集者として数多くの雑誌・書籍を手掛ける。その後、親子カフェ経営を経て、独学で保育士免許を取得。現在は、幼児教育・子育て支援・絵本などを中心としたフリーランスの編集者・ライターとして活動中。 ●Instagram chise_kanon

大学卒業後、出版社にて編集者として数多くの雑誌・書籍を手掛ける。その後、親子カフェ経営を経て、独学で保育士免許を取得。現在は、幼児教育・子育て支援・絵本などを中心としたフリーランスの編集者・ライターとして活動中。 ●Instagram chise_kanon