【子どもの花粉症】何歳から発症する?「舌下免疫療法」とは?小児科医がわかりやすく解説

専門医に聞く子どものアレルギーQ&A 2024年・春夏版 前編

ライター:山口 真央

▲くしゃみや鼻水でつらい花粉症。何歳くらいから発症する?(写真:アフロ)

春に子どもにくしゃみや鼻水の症状が出ると「風邪と花粉症のどっちだろう」と悩んだことはありませんか。また親のアレルギーは子どもに遺伝するのか、心配する親御さんもたくさんいるでしょう。

そんな花粉症やアレルギーにまつわる悩みを解決するべく、小児とアレルギーの専門医である岡本光宏先生にQ&A方式でお答えいただきました。

第1回は、子どもの花粉症について。花粉症が低年齢化している理由、病院を受診する前に親御さんに心がけてほしいこと、話題の「舌下免疫療法」についても、わかりやすくご解説いただきます。

【岡本光宏(おかもと・みつひろ)先生:小児科専門医・アレルギー専門医。姫路赤十字病院、明石医療センター勤務後、兵庫県立丹波医療センター小児科医長を経て、「おかもと小児科・アレルギー科」を開院。新生児から思春期の心の疾患まで幅広く診察。3児の父】

子どもの花粉症が増えている

Q.子どもは花粉症にかかりますか?

A.はい、かかります。

5歳から9歳で「スギ花粉症」と診断されたのは全体の30.1%、また、ダニによるアレルギー性鼻炎は20.9%という数字がでています。

スギ花粉症のピークは、2008年は40代の人がもっとも多いとされていましたが、2019年の調査では10代の49.5%がスギ花粉症というデータが出て、10代の発症率がもっとも多くなりました。

ダニによる「通年性アレルギー性鼻炎」も10代が38.5%発症しているデータがあり、アレルギー性疾患の低年齢化が進んでいます。

Q.どうして花粉症の低年齢化が進んでいるのですか。

A.あくまでも仮説ですが、早期のダニ暴露が原因ではないかと言われています。近年、地球温暖化や住居の気密性が向上したことから、室内のダニが増加しているのです。

子どもがダニアレルギーを発症し、それをきっかけに、他のアレルゲン(アレルギー原因物質)も排除しようとする傾向にあるのではないか、と言われています。

花粉症の受診・注意点

Q.子どもの花粉症で病院を受診する場合、何科を受診すればいいですか。また受診する際に気をつけるべきことはありますか。

A.鼻炎だけであれば耳鼻科、鼻炎以外の症状もあるなら小児科を受診しましょう。

鼻炎の子どもの、20%から30%が喘息を合併して発症しています。鼻炎の治療をすることで、喘息の発症をコントロールすることができるので、治療を同時におこなうとベストです。

Q.お医者さんの立場から、病院を受診する前にやってほしいことはありますか。

A.鼻粘膜を診るだけでは、花粉症と診断するのは難しいため、診断には、エピソード(病相)が大切です。

エピソードとは、どういう状況で鼻炎になるのか、また1年前の同じ時期に似たような症状があったかどうか、などの症状が出ている時の様子のこと​。子どもを観察し、いくつかエピソードをためてから受診すると、診断がスムーズです。

Q.赤ちゃんも花粉症にかかることはありますか。

A.私は2歳以下の子どもに「花粉症」と安易に診断しないようにしています。なぜなら、そもそも2歳以下のお子さんが花粉症である確率は低いからです。

また、花粉症の診断にはエピソードが大事ですが、「目がかゆい」「鼻がムズムズする」などの症状を、自分で訴えられるようになるのは3歳くらいから。 
2歳以下では、自分で症状を訴えることも難しく、正確なエピソードを得ることは困難です。

血液検査を診断の参考にすることもありますが、もともと血液検査の正確性は高くない上に、2歳以下では血液検査の正確性がさらに低くなります。

つまり、2歳以下では、花粉症の診断で誤診してしまうリスクが高くなります。2歳以下のくしゃみ、鼻水、鼻づまりは、風邪の症状として出現している場合がほとんどです。


安易に花粉症と診断してしまうと、患者さんに病名がついてまわるので、私は慎重に診断しています。「来年も同じ時期に症状が出ていないか診ましょうね」といった具合です。

初診から1〜2年ほど経過をみて診断することもよくあります。親御さんも過敏になりすぎず、子どもの症状を記録しながら様子をみましょう。

花粉症を治す「舌下免疫療法」

Q.子どものアレルギー性鼻炎に効く薬は、どんなものがあるか教えてください。

A.複数の薬を組み合わせて、しっかりとアレルギー性鼻炎の症状をコントロールすることが大切です。

症状を抑えるには、抗ヒスタミン薬(内服・点眼)、抗ロイコトリエン受容体拮抗薬、ステロイド点鼻薬が有効です。特にステロイド点鼻薬は、炎症が起きている鼻粘膜に直接届くので、とても合理的な治療です。

また近年は、小児から「舌下免疫療法(ぜっかめんえきりょうほう)」が受けられるようになりました。

Q.「舌下免疫療法」について詳しく教えてください。

A.舌下免疫療法はアレルゲン(アレルギーの原因物質)のエキスを摂取して、免疫をつける治療法です。

舌の下に薬を入れて1分経ったら飲みこみ、それを3年以上、毎日続ける必要があります。治療後の約8年間は効果があり、効果が弱まっても1年ほど追加治療をすれば、再び長期的な効果が続きます。

また、舌下免疫療法には保険が適用されます(※)

(※編集部注:舌下免疫療法には保険が適用される。初回のアレルギー検査・その後の診療費は、クリニックによって実質の負担金額が異なる。薬は、3割負担の場合1ヵ月あたり2000円前後が目安)

Q.「舌下免疫療法」は何歳から開始できますか?

A.舌下免疫療法に年齢制限はありません。

ただ、1分間、舌の下に薬を置いてから飲み込む必要があるので、それができる年齢からということになります。5歳くらいからできるお子さんが多いです。

アレルギー性鼻炎は、一度発症すると多くの方が数10年と付き合っていく病気です。薬を飲み続けるのは大変かもしれませんが、長い目でみれば効果的といえるでしょう。

【小児とアレルギーの専門医である岡本光宏先生に、子どもの花粉症について、低年齢化している理由や治療法についてお聞きしました。続く「後編」では、子どもにまつわるアレルギーの知識を解説。アレルギーを発症する割合や遺伝について、アレルギーを抑えるためにできることや、抑えておきたい疾患の情報などをお伝えします】

※後編「【子どものアレルギー】親から遺伝する? 「アレルギーマーチ」「寒暖差アレルギー」などを専門医が解説」は2024年4月6日(土)に公開・配信予定です。

おかもと みつひろ

岡本 光宏

小児科専門医・アレルギー専門医

おかもと小児科・アレルギー科院長。日本小児科学会小児科専門医、認定小児科指導医、日本アレルギー学会アレルギー専門医、臨床研修指導医、日本周産期・新生児医学会新生児蘇生法インストラクター、アメリカ心臓協会小児二次救命処置法インストラクター。 2009年奈良県立医科大学部卒業。同年神戸大学大学院医学研究科小児科学分野に入局。姫路赤十字病院、明石医療センターを経て、2019年より兵庫県立丹波医療センター 小児科医長。 2023年7月、兵庫県三田市で「おかもと小児科・アレルギー科」を開院。新生児から思春期の心の疾患まで幅広く診察している。3児の父として、子育てにも積極的に関わる。 著書に『研修医24人が選ぶ小児科ベストクエスチョン』(中外医学社)、『小児科ファーストタッチ』(じほう)など。 サイト「笑顔が好き」 https://pediatrics.bz/

おかもと小児科・アレルギー科院長。日本小児科学会小児科専門医、認定小児科指導医、日本アレルギー学会アレルギー専門医、臨床研修指導医、日本周産期・新生児医学会新生児蘇生法インストラクター、アメリカ心臓協会小児二次救命処置法インストラクター。 2009年奈良県立医科大学部卒業。同年神戸大学大学院医学研究科小児科学分野に入局。姫路赤十字病院、明石医療センターを経て、2019年より兵庫県立丹波医療センター 小児科医長。 2023年7月、兵庫県三田市で「おかもと小児科・アレルギー科」を開院。新生児から思春期の心の疾患まで幅広く診察している。3児の父として、子育てにも積極的に関わる。 著書に『研修医24人が選ぶ小児科ベストクエスチョン』(中外医学社)、『小児科ファーストタッチ』(じほう)など。 サイト「笑顔が好き」 https://pediatrics.bz/

やまぐち まお

山口 真央

編集者・ライター

幼児雑誌「げんき」「NHKのおかあさんといっしょ」「おともだち」「たのしい幼稚園」「テレビマガジン」の編集者兼ライター。2018年生まれの男子を育てる母。趣味はドラマとお笑いを観ること。

幼児雑誌「げんき」「NHKのおかあさんといっしょ」「おともだち」「たのしい幼稚園」「テレビマガジン」の編集者兼ライター。2018年生まれの男子を育てる母。趣味はドラマとお笑いを観ること。