足の健康を損ない災害時は危険!? 知っておくべき「上履き」のリスク

3万人以上の足をみた専門家・伊藤笑子氏に聞く「子どもの足育」#3~上履き編~

合同会社フェルゼCEO・マスターシューアドバイザー:伊藤 笑子

園や学校で当たり前のように毎日、子どもが履く上履き。親が知っておくべき大切なこととは?  写真:アフロ

おなじみの上履きといえば、布やビニール製のバレーシューズや前ゴムシューズ。幼稚園から中学まで、当たり前のように毎日履き続けます。高校ではビニールスリッパのところもあり、保育園では一年中はだしで過ごすことも多いようです。

そんな日本の上履き文化に異を唱えるのが、足育の第一人者でもある子ども靴の専門家、伊藤笑子(いとう・えみこ)さん。「体育にも避難にも向いていない靴」と訴えます。親が知っておきたい上履きの重要性について伺いました。

※これまでを読む(#1#2

子ども靴のパイオニアとして、靴業界のほか、幼稚園、保育園、子育てのサークルなどで一般向けの講演活動も行ってきた伊藤笑子さん。  Zoom取材にて

小学生の上履きを履く時間は「1日6〜8時間×6年間」で足に影響大

子どもが1日で最も長く履く靴、それが上履きです。小学校に入ると、1日6~8時間くらい履き続けることに。体育館での体育の授業も、運動用に適した靴ではなく、上履きのまま行う小学校も少なくないようです。

日本で広く普及しているのは、白の布、またはビニール製で甲にゴムテープを通した「バレーシューズ」や甲の部分に半円形や三角のゴムが入った「前ゴムシューズ」。多くの学校で指定や推奨されている定番品です。

そんな日本の教育現場に警鐘を鳴らすのは、子ども靴の専門家、伊藤笑子(いとう・えみこ)さんです。「バレーシューズはスリッパと変わらない履物です」と目からウロコの言葉が……。かかとを支える機能がなく、柔らかすぎる靴底が一因のようです。

「上履きに採用されている靴の多くは、足の重要部分のかかとをしっかり支えられず、少しの力で靴底がぐにゃっとねじれ、片手で簡単に半分に折れ曲がったり、潰れたりします。

子どもの足はまだ骨や関節が出来上がっていない未完成な状態で、外的な要因で変形しやすいため、ぐにゃぐにゃの靴を毎日履き続けることはよくありません。

ですが、そんな靴で小学校の6年間を過ごすことに先生方も保護者の方も〝昔からの決まりだから〟と改善されることなく現在に至っています」(伊藤さん)

脱げそうで体が緊張状態になるバレーシューズ

とくにバレーシューズは「足の裏が汚れないことくらいしかメリットがない」と伊藤さんは断じます。

「バレーシューズはゴムテープを通しただけで〝留め具〟にならず、歩くたびに脱げそうになりますので、スリッパ歩きになります。

来客用スリッパをずっと履いているような感覚です。歩くときも運動するときも靴が脱げないようにと足が緊張状態になって、思う存分自由に動けません。もちろん体育にも向いていません。

その毎日の積み重ねが一生の歩き方に影響します。脱げない上履きを選ぶなら、小さめのサイズを履かざるを得ない。

そうすると今度は足のゆびが詰め詰めになってしまい、外反母趾や陥入爪(かんにゅうそう)の原因になります」(伊藤さん)

運動不足に加えて、1日で一番長く履いている靴が、合わない上履き。足が変形し、登下校や体育で疲れやすくなり、授業中の姿勢も崩れている……そんな負の連鎖が教育現場で起きていたらと伊藤さんは懸念します。

「重たいランドセルを背負うには、まず足です。通学で疲れてしまって授業中に集中できない、帰宅してぐったり寝転がっているなんて本末転倒です。

通学も、体育も、授業中も履物によって足がストレスを受けないように、体を支えられる足の骨格をきちんとつくってあげられる靴選びをすることがとても大事です」(伊藤さん)

人権侵害!? 日本ならではの「指定の上履き」

そもそも上履き文化とは日本独自のもの。土足のままでは衛生環境が保てないことや、校舎の床を汚さないことを主目的に戦後の1950年代ごろから前ゴムシューズやバレーシューズが上履きとして採用されました。

現代も約7割の幼小中高では上履きに指定があるという調査結果もあります。安価なバレーシューズは、一律に指定するには保護者の負担が少ないという理由から、全国に普及しました。

しかし、そもそも足の形は一人ひとり違うもの。同じ型の靴が指定されること自体に問題があるようです。

「靴の先進国のドイツに視察に行き、インタビューしましたが、靴を半ば強制的に指定するなんて人権侵害じゃないか? という感覚すらあります。

ところが日本は当たり前のように決められた上履きをみんなで揃えて履いていますよね。『足が痛いからこの指定靴をやめたいです』と園や学校に訴えても、なかなか聞き入れてもらえない。それが日本の現実です。

また保護者自身が『みんなと違う靴を履かせるといじめられないだろうか』と気に病まれることで、子どもは合わない靴で過ごさなければなりません。

例えばドイツでは靴への意識が高いので、靴を選ぶ権限があるのは保護者だけ。足が変形したら元には戻りませんし、責任を負えないと分かっていますから学校や園が指定することはありません」(伊藤さん)

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