「おちんちんはむけてないとダメ!」は間違い! ママ泌尿器科医と考える新しい性の価値観

ママ泌尿器科医・岡田百合香先生「おちんちんの教科書」#4 ~変わりゆく性の価値観~

泌尿器科医:岡田 百合香

パパママの育った時代と、今の子どもに向けた性の価値観が違うのは当然だから、家族で新たな価値観を共有すればいいとママ泌尿器科医・岡田百合香先生は語ります。  写真:アフロ
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約7000人の男性器を診察した泌尿器科医で、2児のママでもある岡田百合香先生。助産院などで行う「おちんちん講座」は今や、キャンセル待ちが出るほどの人気です。

2022年7月にはおちんちんのケアや正しい知識を紹介した書籍『泌尿器科医ママが伝えたい おちんちんの教科書』(誠文堂新光社刊)を出版。

本の出版以降、パパ友などから「ずっと娘のおまたの扱いに悩んでいた」、「親としてもっと性教育に関わっていきたい」などの声が聞こえてくるようになったと言います。

一方で「うちのパパは全然関心がなくって、子どもに何も伝えてくれない!」なんて嘆くママの声も。

今回は、ママだけでなくパパにも知っておいてほしい、おちんちんを通した性教育のさまざまなトピックスについて、岡田先生に話を聞きました。

※全4回の4回目(#1#2#3を読む)

「子育て中のママだけでなく、娘を持つパパ、おちんちんについて悩む男の子、みんなに読んでほしいです」と岡田先生。  zoom取材にて

PROFILE 岡田百合香(おかだ・ゆりか)
泌尿器科医。1990年岐阜県生まれ。2014年岐阜大学医学部卒業。愛知県内の総合病院泌尿器科に勤務する傍ら、助産院や子育て支援センターで乳幼児の保護者を対象にした「おちんちん講座」や「トイレトレーニング講座」、思春期の学生向けの性に関する授業などを行っている。男児(2018年生まれ)と女児(2021年生まれ)の母。

パパは無関心派? それとも介入派?

おちんちんのむく・むかない問題(#1)でもあったように、ママが性器ケアや性教育に奮闘する一方で、パパは「子どもの性」と、どういった関わりをしているのでしょう。

泌尿器科医の岡田百合香先生は「“おちんちん”や性教育への関心は、パパ自身の思春期や、大人になるまでのエピソードによっても変わってくるもの」と話します。

「男性であるパパたちは、自分が包茎のことで悩んできたとか、男性コミュニティのなかで性器についていじられたことがあるとか、なんらかの思いのある人は、おちんちんに対して関心が強い=介入派だと思います。

逆に、おちんちんや性について、思春期に特に困ってこなかったパパは、放任主義=無関心派の傾向にあります」(岡田先生)

世代や育った環境が違えば、性に対する考え方に乖離(かいり)があるのは当然のことです。

「パパが育ってきた時代の価値観はそれで間違いのないことだったので否定せず、今の価値観や性教育について、家族で改めて共有してもらえばいいのかなと思います」(岡田先生)

減少する包茎手術 親でも子どもの性に介入しない

これまで岡田先生は「おちんちんは無理にむく必要はない。男性の中に圧倒的に“むけているほうがいい”という価値観が蔓延(まんえん)していることが問題」と教えてくれました。

では「おちんちんはむけていたほうがいい」として譲らないパパには、どう伝えていくべきなのでしょう。むく・むかない問題には、大人が受けてきた性教育の価値観、コンプレックスや自己肯定感につながる話もひそんでいます。

「近年、不安やコンプレックスを煽った美容外科による包茎手術推奨の影響は薄れてきており、性教育に取り組む医師たちが『仮性包茎でも問題ない』ということをきちんと発信するようになりました。

世界的な動向を見てみると、海外では、若い世代は包茎手術離れの傾向にあります。日本における美容目的の包茎手術件数の推移は公表されていないのですが、2000年代までは約9割が包茎手術を受けていた韓国では、2010年にはその件数が約3分の1に激減しているという論文が出ています」(岡田先生)

割礼(※)を主流としてきた宗教がある国でも、子どもが小さいうちに保護者の意思や信仰で手術を受けさせることに反対する声が高まっているといいます。

※割礼(かつれい)=性器の一部を切除すること。文化的・宗教的・衛生的・慣習的などさまざまな理由から、生まれてすぐの男児に包皮の一部などを切除する手術が施されることがある。

「父親やその上の世代が当たり前のように受け継いできた価値観が、今、大きく変わろうとしています。現代では、いくら親であっても、子どもの性器や性について過剰に介入すべきでないというのが当たり前の風潮になってきました」(岡田先生)

なかなか価値観を変えられないパパには、こういった世界の動向も伝えれば理解してくれるかもしれません。

「おちんちんはもちろん、身体のパーツに優劣をつける価値観を子どもに引き継がせないこと。家庭でこれをしっかりと意識をしていけば、性器や性の悩みに人生を支配される人は減らせるはずです」(岡田先生)

こころの性とからだの性について

おちんちんのことを突き詰めて考えて知っていくと、ジェンダーの話にも直面することになります。

「年齢によってどれくらい深い話をしていくかは違うので、対象が幼児なのか、小学生なのかで対応がかわるもの」としながらも、「小さなころから性的差別についての理解は深めることができる」と、岡田先生は語ります。

「性別的なことを決めるときに、性器の形は重要な情報なので、『おちんちんがついているから男の子だよね』という判断や物事のとらえ方は正しい。ジェンダーの多様性を気にするあまりに『おちんちんがついているけど男の子とは限らない』と小さいうちから伝えても、子どもは混乱します。

ただ、『これはピンクだから女の子のものでしょ』、とか『僕は男の子だからリボンがついているのは嫌』などの発言に対して『誰がどんな色、どんなものを好きでもいいんだよ』というようなことをメッセージとして入れ込んでいくのは重要。ジェンダー差別的な発言は、日頃から正して理解を深めていくべきです」(岡田先生)

子どもが成長すると、からだの性やこころの性の違い、トランスジェンダーという話題に出会うときがくるでしょう。

そんなときに、「性差で決めつけや思い込みをしないということがベースにあるのは大事」と、岡田先生は教えてくれます。

「難しいテーマですが、そういうことを伝えるうえで、絵本は参考になりますよ。我が家では性教育や性器をテーマにした絵本を、他の本と一緒にいくつか並べています」(岡田先生)

岡田先生がオススメするのは、『せかいでさいしょにズボンをはいた女の子』(キース・ネグレー著・光村教育図書刊)という絵本。

「『服装』というのは、子どもにとっても日常的でありながら、性別による区別がはっきりと見えやすいもの。

『昔は、女の子はズボンをはいちゃいけなかったんだね』『今でも、男の子はあまりスカートをはかないね。なんでかな?』など、身近なテーマについて対話しながらジェンダーについて考えられる一冊。息子のお気に入りです」(岡田先生)

岡田先生がジェンダー教育を兼ねて読む絵本『せかいでさいしょにズボンをはいた女の子』(キース・ネグレー著・光村教育図書刊)。
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