“発達特性のある新1年生“の親が知っておきたい「3つの対処法」を専門家が解説

発達障害の専門家が語る「発達特性のある子どもの小1プロブレム」#1~入学後に多いトラブルと対処法~

一般社団法人WAKUWAKU PROJECT JAPAN代表・言語聴覚士・社会福祉士:原 哲也

入学後の相次ぐトラブルで、学校から電話がかかってくることも。また、度重なるトラブルがきっかけで初めてわが子の発達障害を疑う親も少なくないと言います。  写真:アフロ
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この春、新1年生になるわが子。成長を実感し、うれしい反面、不安もあるでしょう。特に、集団行動が苦手、集中力が続かない、ミスや忘れ物が多いなど、発達特性のある子どもの親は心配事が多いかもしれません。

そこで、入学後に起こりがちなトラブルや家庭でできることについて1996年から27年にわたり、発達特性のある子どもに関わってきた言語聴覚士・社会福祉士の原哲也さんに伺いました。

4月以降、親子で向き合うことになるかもしれない“壁”について今から知っておきましょう。

※第1回(全3回)

原哲也(はら・てつや)PROFILE
言語聴覚士・社会福祉士。一般社団法人WAKUWAKU PROJECT JAPAN代表理事。1966年生まれ。国内外の障害児施設などで勤務後、2015年「発達障害のある子の家族を幸せにする」ことを志し、一般社団法人WAKUWAKU PROJECT JAPAN、児童発達支援事業所WAKUWAKUすたじおを設立・これまでに5000件以上の相談に対応。

『発達障害の子の療育が全部わかる本』(講談社)などの著書を持つ原哲也さんに話を聞いた。  Zoom取材にて

入学後はさまざまなトラブルに直面することも

私が代表を務める児童発達支援事業所「WAKUWAKUすたじお」で関わる子どもは、いわゆる発達障害のある子どもです。

発達障害には「ASD(自閉症スペクトラム障害)」、「ADHD(注意欠如・多動症)」、「LD(学習障害)」があります。それぞれに強いこだわりや注意欠如など、さまざまな特性があり、それを発達特性と言います。発達特性は子どもひとりひとりで異なります。

これからお話することは、いわゆる「グレーゾーン」の子どもにも、発達障害の診断を受けている子どもにもいえることです。

まず、発達特性がある子どもたちが、小学校という新しい環境の中で、どんな行動を起こす可能性があるか、ということからお話しします。

考えられることとして、教室に入ってこないで校庭などにいる、他の教室に行ってしまう、教室にいても学習が進まない、廊下へ、ときには校門からも出て行ってしまう、休み時間に何をしていいかわからない、などがあります。

発達障害とは診断名ではなく、症状も対処法も異なる3種類の障害の総称。  引用:『発達障害の子の療育が全部わかる本』(講談社)

ほかの児童とのトラブル、放課後のトラブルも

学校や学童、また登下校中に他の児童とトラブルが起こることもあります。

例えば、自閉症スペクトラム障害の子どもの中には、定型発達の子に比べて、特定の物事に強いこだわりを持つ子がいます。そのようなタイプの子の場合、例えば、休み時間に、自分が作ったものを触られたり壊されたりすることに強い抵抗感を示すことがあります。

そしてそれに対し、他の児童がその子の作ったものをわざと触って、その子がひどく嫌がって泣いたり怒ったりするのをおもしろがる──といったケースはよく聞きます。こうしたことがやがていじめや不登校へとつながることもあります。

また、放課後、学童に行かず勝手に家に帰ってしまったという話も珍しくありません。フラフラとどこかへ行ってしまう傾向のある子には、子どもの現在地や移動経路などを親のスマホから確認できるGPSツールを持たせることをおすすめしています。

本当は学校がつらいのに「楽しい」と言ってしまう子も

自分の気持ちを押し殺して、無理して周りに合わせようとがんばってしまう「過剰適応」の状態になる子も少なくありません。

本当は、なかなか学校という新しい環境についていけず、心も頭も体も調整できていないし疲弊している。にもかかわらず、例えば「学校ではきちんと座って勉強しなきゃいけない」「学校は楽しいところなんだ」「そうでなくてはならない」と自分で思いつめて、なんとか周りに自分を合わせようとする。

そして親には「学校は楽しいよ」と言ってしまう。彼らはやがて、心も体も疲れきって大きなストレスを抱えてしまうことになります。

トラブルの裏にある学校生活への不安

このように、さまざまなトラブルが起こり得るわけですが、保護者に覚えていてほしいのは、子どものこうした行動の裏には、学校生活への「不安」があるということです。

授業の内容がわからない、一日の流れにおける教室の移動、休み時間や授業の合間の過ごし方がよくわからない、学校生活の中でしばしば起きるスケジュールの変更に対応できない。

掃除中のトラブル、教室内や音楽の時間の音が耐えられない、登下校中に上級生にいじめられる、先生や友だち、学童で一緒になる上級生との対人関係など。見通しを立てることが苦手な、発達特性のある子にとってはひとつひとつの場面がストレスであり、安心できません。

さらには、運動会、音楽会、学芸会、卒業式など多くの行事、そのための練習など、非日常的な時間が数多くあります。

ある塾が行った全国調査によると36%の保護者は学校行事が多すぎると感じているという結果(※1)もあり、こうした非日常的なイベントで、変化が苦手な発達特性のある子どもたちが不安になったり情緒が不安定になったりすることもあるのです。

宿題に関する課題も多いです。宿題が多すぎる、難しい、宿題をめぐる親子喧嘩、反対に、上のきょうだいには宿題が出ているのに自分だけ出ないことに悩む子もいます。

発達特性のある子にとって園とのギャップが高い“壁”に

以上のように、子どもたちはさまざまな不安を抱えながら学校生活を送っています。

そもそも小学校生活は、保育園や幼稚園と、環境や先生との関わり方が大きく変わります。

保育園や幼稚園は、遊びや楽しみが中心で、身体を動かす場面が多く、比較的自由度が高い。そして先生はさまざまな場面で子どもの気持ちに寄り添ってくれ、困っていれば「どうしたの?」と聞いてくれます。

他方、小学校では、授業の間は動かず座っている、時間割りにしたがって行動する、何か問題が起きたら自分から先生に伝える――といったことが求められます。

この大きな変化に対応することが難しいのは、もちろん定型発達の子も同じです。いわゆる“小1プロブレム”と呼ばれる問題ですね。ただ、変化に弱い発達特性のある子には、このギャップが、より大きな問題として立ちはだかるのです。

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