睡眠中の子どもを襲う 乳幼児突然死症候群・添い寝・掛け布団のリスクとは?

乳幼児睡眠コンサルタントが教える「睡眠時の危険から子どもを守る予防策#1」

日本とアメリカの予防策の違いとは?

乳幼児突然死症候群は、国が普及啓発を行ってきたため、予防策の知識を持っているママ・パパも多いと思います。しかし、アメリカで子育てをし、乳幼児の睡眠について学んでいると、アメリカと日本の予防策に違いがあることに気づきました。

それは、日本では掛け布団の使用をOKとしていること。下記は、厚生労働省が普及啓発用として出しているポスターです。

このポスターに記載されている赤ちゃんのイラストには、掛け布団が描かれており、窒息事故防止のためのチェック項目には、「掛け布団は軽いものを使いましょう」と書かれています。

しかし、先に紹介したとおり、窒息事故が起きたときの状況に「掛け布団等の寝具が顔を覆う・首に巻きつく」がありました。つまり、掛け布団は、窒息の原因になり得るということです。

また、消費者庁による窒息事故を防止する具体的な注意ポイントにも、「掛け布団は、子どもが払いのけられる軽いものを使用し、顔に被らないようにしましょう」とあります。しかし、次の項目では「寝ている子どもの顔の近くに、口や鼻を覆ったり、首に巻きついてしまったりするものは置かないようにしましょう」とも書いてあります。​

出典:消費者庁ホームページ
※『0歳児の就寝時の窒息死に御注意ください! 』(消費者庁)を加工して作成

こういった一貫性のないメッセージでは、ママ・パパたちはどうすればよいのかがわからない状態になってしまい、混乱してしまうのも無理はありません。

一方、アメリカの米国小児科学会では、1994年から「掛け布団の使用は危険」ということを伝えています。実際に、以下のアメリカの啓蒙ポスターを見てみると、赤ちゃんに掛け布団はかけられていません。​

また、同会は2022年新たに乳幼児突然死症候群と窒息死の原因についてのエビデンスを示す論文を発表。

これによると、ブランケットなどの柔らかい寝具は、乳幼児突然死症候群や睡眠中の窒息リスクを大幅に上昇させることがわかったそうです。この論文を要約してお伝えします。

・乳児の睡眠死亡例の中で、ブランケットによる窒素死がもっとも多かった。
・乳幼児突然死症候群で死亡した乳児の多くが、仰向け姿勢で寝ていたにも関わらず、ブランケットで顔が覆われてしまったため窒息死した。
・米国消費者製品安全委員会(CPSC)の調査によると、2009年から2011年の間で起きた乳児の睡眠関連死のほとんどは柔らかい枕やブランケットによる窒息死だった。
・2011年から2014年の250件の窒息事故のうち、69%がブランケットなどの柔らかい寝具により乳児の気道を閉塞してしまったためであった。
・特に、5〜11ヵ月の寝返りが打てるようになった乳児は、ブランケットなどによる窒息事故のリスクはより高い。
出典:https://publications.aap.org/

日本においても、乳幼児の睡眠の知識を持った小児科医の先生たちは「掛け布団は危ない」と伝えています。重い軽い関係なく、睡眠中の乳児死亡のリスクを下げるために、掛け布団は使用するべきではないのです。

添い寝にも危険が潜んでいる?

睡眠時の死亡リスクを高める一つの原因に、添い寝もあります。一概に添い寝が悪いわけではなく、安全な睡眠環境が整っていない場合、また添い寝をしている大人が疲弊している場合は、事故の危険性が高まるのです。

例えば、ママ・パパが疲れていると、自身も赤ちゃんと一緒に寝落ちしてしまうケースは珍しくないでしょう。しかしこのときに、無意識に赤ちゃんを下敷きにしてしまい、窒息させてしまう事故が実際に起きています。2021年7月のNHKのニュースでも、「親が寝転がって授乳する添い乳をしているときに、赤ちゃんが窒息死する事故が相次いでいる」という事故が取り上げられました。
出典:“添い乳”で赤ちゃん窒息死相次ぐ 授乳に注意(NHK)

また、大人と一緒に寝ると赤ちゃんの体温を上げてしまい、乳幼児突然死症候群の発症リスクを高める「うつ熱」を引き起こしてしまうことも考えられます(「うつ熱」の詳細は後編をご参照)。

もちろん、添い寝には「赤ちゃん・親、どちら側にも安心感が得られる」などメリットが多くあります。そのため、私は添い寝を絶対にしてはいけないものとは思っていません。

しかし、添い寝をするのは、ママ・パパが疲弊していないときに行うこと。そして、安全な睡眠環境を整えてから行うことを心がけてほしいと思います。

正しい知識を得ることが重要な一歩

この時期に今一度睡眠環境を見直して、病気や事故から子どもを守りましょう。写真:アフロ

今回は、冬季に発症が増える乳幼児突然死症候群や、十分に安全性が確保されていない睡眠環境により起こりやすい窒息死についてご紹介しました。

乳幼児突然死症候群の原因はいまだ不明で、予防方法は確立していません。しかし、数々の研究結果により、リスクを高めるポイントは明らかになっています。また窒息死に関しては、掛け布団や枕などを寝床に置かないようにするなど、ママ・パパが気をつけるだけで発生リスクを大幅に低くすることができます。

後編では、実際にどのような睡眠環境にするべきなのか、具体的な予防策について紹介していきます。

愛波 あや(あいば あや)
乳幼児睡眠コンサルタント。国際資格認定機関IPHI・日本代表。Sleeping Smart Japan株式会社代表取締役。
出産後、自身が夜泣きや子育てに悩んだことから米国で乳幼児の睡眠科学の勉強を始め、現在は日本を代表する乳幼児睡眠コンサルタントとして、360人以上の乳幼児睡眠コンサルタントを育成。また、ママ・パパ向けに睡眠・子育て・教育について質問に答え、情報を配信する『愛波子育てコミュニティ』を運営。著書に「ママと赤ちゃんのぐっすり本」(講談社)「マンガで読む ぐっすり眠る赤ちゃんの寝かせ方」(主婦の友社)、監修書に「ママにいいこと大全」(主婦の友社)がある。

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取材・文/阿部雅美

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