小泉悠に聞く「子どもに戦争をどう教えるか?」 ドローンやAIの登場で「古典的な戦争」になった理由

東京大学准教授・小泉悠先生に聞く、AI・ドローンと現代の戦争 #1 (4/4) 1ページ目に戻る

東京大学准教授:小泉 悠

AIは戦争を終わらせない

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──スマホや家電、そしてチャット形式のサービスまで、私たちは生活を一層便利にするためにAIを利用していますが、AIは戦場で具体的にどのようにつかわれているのでしょうか?

小泉先生:今は戦闘指揮システムに使われています。アメリカのイラン攻撃で使われたとされるパランティア社の「メイヴン」や、ウクライナの「デルタ」システムは、いかに効率よく戦うかを実現する軍事指揮AIです。この活用で自軍の損害は減らせても、AIと戦わなければならない生身の兵士はどんどん死んでいく。

サイバー戦も同じで、地上部隊がぶつかり合っている間に、敵の指揮システムにサイバー攻撃を仕掛ける、ということが行われています。つまりAIもサイバーも、生身の人間が命のやり取りをするフィジカルな戦場と、切り離せないかたちで結びついているんです。

サイバーやAIは、それだけで戦争に勝つ「主役」ではありません。軍事では、「イネーブラー(戦いを可能にするもの)」や「フォース・マルチプライヤー(戦力を何倍にも高めるもの)」と考えられています。

例えば、1000人の兵士がいるとします。同じ1000人でも、昔ながらの方法で戦う場合と、AIが戦況を分析して最適な作戦を示したり、サイバー部隊が相手の通信を妨害したりする場合では、発揮できる力はまったく違います。兵士の数は変わらなくても、AIやサイバー技術が加わることで、同じ部隊が何倍もの力を発揮できるようになるのです。これが「フォース・マルチプライヤー」という考え方です。

最新なのに古典的な現代の戦争

──私たちの生活を潤すAIが、戦地ではいかに効果的に敵を痛めつけるかを考えていると思うと、先ほどの「道具は使いよう」という言葉の持つ意味が、重く響きます。

小泉先生:でも実はこれ、非常に古典的な戦争の構造なんですよね。あくまで「主役は鉄砲を持った兵士」で、「AIやサイバーは従」にすぎない。マルチプライヤーの道具立てが、時代によって変わるだけなんです。三国志で言えば、「偽情報を撒いてこい」と命じられた兵が走っていく場面がありますが、あれと同じこと。諸葛孔明の代わりにAIがいて、偽情報を撒く兵の代わりに、SNSで偽情報を流す人がいる、というだけの話です。

一方で、「戦うこと」そのものではなく、情報戦を主役にする戦い方も考えられてきました。例えば、AIで作った偽情報をSNSで一気に拡散し、人々を混乱させたり世論を動かしたりする。そして、その効果をさらに高めるために巡航ミサイルを撃ち込む――。つまり、軍事攻撃が主役ではなく、「情報で相手を揺さぶること」が主役で、軍事力はその効果を高めるための手段になる、という発想です。

こうした戦い方はロシア軍の中で長く議論されてきました。しかし、実際に始まったウクライナ戦争を見てみると、戦争の中心は結局、兵士が前線で戦い、砲兵や戦車で攻撃し、陣地を奪い合うという、非常に古典的なものでした。

南北戦争のさなかには機関銃が発明され、鉄条網もほぼ同じ時期に実用化されました。鉄条網で兵士の動きを止め、機関銃で攻撃する――。

その戦い方は、日露戦争や第一次世界大戦へと受け継がれ、近代の消耗戦の原型になっています。当時の人々も、「新しい兵器が戦争をどう変えるのか」という関心を抱いていたはずです。しかし、その先にあったのは、より効率的に人命が失われる現実でした。

だからこそ私は、今の子どもたちには、ドローンやAIといった最新技術だけを見て戦争を捉えてほしくないと思っています。最新技術に目を奪われるのではなく、その先で何が起き、人がどのような犠牲を払っているのかまで含めて考えてほしいのです。

―――◆―――◆―――

次回2回目では今年(2026年)の4月、開戦後初めてウクライナの首都・キーウを訪れ、そこで見た現地の日常について、引き続き小泉先生にお話しいただきます。

撮影/葛西亜理紗
取材・文/知野美紀子


小泉悠先生の連載は全3回。
2回目を読む。※2026年8月11日よりリンク有効
3回目を読む。※2026年8月12日よりリンク有効

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『現代戦争論 ──ロシア・ウクライナから考える世界の行方』著:小泉悠(筑摩書房)

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小泉 悠
こいずみ ゆう

小泉 悠

Yu Koizumi
東京大学先端科学技術研究センター准教授

東京大学先端科学技術研究センター(国際安全保障構想分野)准教授。 1982年千葉県生まれ。早稲田大学社会科学部、同大学院政治学研究科修了。政治学修士。民間企業勤務、外務省専門分析員、ロシア科学アカデミー世界経済国際関係研究所(IMEMO)客員研究員、公益財団法人未来工学研究所客員研究員を経て、現在東京大学先端科学技術研究センター(国際安全保障構想分野)准教授。専門はロシアの軍事・安全保障。 主な著書に『現代戦争論 ――ロシア・ウクライナから考える世界の行方』『ウクライナ戦争』『現代ロシアの軍事戦略』(ともに筑摩書房)、『「帝国」ロシアの地政学 「勢力圏」で読むユーラシア戦略』(東京堂出版)で、サントリー学芸賞受賞。他に『オホーツク核要塞』(朝日新聞出版)、『軍事大国ロシア  新たな世界戦略と行動原理』(作品社)、『プーチンの国家戦略 岐路に立つ「強国」ロシア』(東京堂出版)など。

東京大学先端科学技術研究センター(国際安全保障構想分野)准教授。 1982年千葉県生まれ。早稲田大学社会科学部、同大学院政治学研究科修了。政治学修士。民間企業勤務、外務省専門分析員、ロシア科学アカデミー世界経済国際関係研究所(IMEMO)客員研究員、公益財団法人未来工学研究所客員研究員を経て、現在東京大学先端科学技術研究センター(国際安全保障構想分野)准教授。専門はロシアの軍事・安全保障。 主な著書に『現代戦争論 ――ロシア・ウクライナから考える世界の行方』『ウクライナ戦争』『現代ロシアの軍事戦略』(ともに筑摩書房)、『「帝国」ロシアの地政学 「勢力圏」で読むユーラシア戦略』(東京堂出版)で、サントリー学芸賞受賞。他に『オホーツク核要塞』(朝日新聞出版)、『軍事大国ロシア  新たな世界戦略と行動原理』(作品社)、『プーチンの国家戦略 岐路に立つ「強国」ロシア』(東京堂出版)など。