【生理の貧困】ナプキン配布が必要な日本 「タンポン税」を軽減したフランス

誰もが生理用品にアクセスしやすい社会になるには #1

在仏ライター:髙崎 順子

中学・高校では無償ディスペンサーを設置

国の制度が変わっていくのと同じ頃、草の根からもムーブメントが起こります。その好例が、南仏の都市モンペリエ近郊の公立ヴィクトル・ユーゴー高校。

2018年、最高学年の女子生徒が生徒会で提言したのをきっかけに、学校内での生理用品の無償配布が始まったのです。

高校での無料ディスペンサー設置式の様子。ディスペンサーの左側に立つ女性が、当時、生徒会で設置を提案したのをきっかけに、無料配布が実現した(画像提供/ヴィクトル・ユーゴー高校(フランス))

副校長のフロラン・ビュッソンさんは、当時をこう振り返ります。

「私たちは実はその時まで、生理の貧困について詳しく知りませんでした。大人の側より、生徒たちの方が革新的だったのです。生徒会の提案を聴いて、すぐにでもやるべきことだと思いました」

ビュッソンさんが即座に、高校の運営主体である地域圏(県より一つ大きな行政単位)に情報を共有したところ、すぐに助成快諾の返信が来ました。それだけではなく、地域圏の教育委員会でも共有され、瞬く間にその他の高校でも無償配布計画が進められていきました。

「我が校では保健室の前に、取り出し自由のディスペンサーを置くことに決めました。タンポンを2種類と、羽根付きのナプキンを1種類、計3種類から選べるようにしています。エコロジー教育にも力を入れているので、リサイクル可能な包装資材の商品を探しました」

ディスペンサーの設置時には、この問題を全校で考えるための「学びの日」を設定。設置式の後、月経を題材にした演劇と、意見交換会を催しました。

「学びの日」のイベントの一つ、生理に関する書籍の著者による講演会の様子(画像提供/ヴィクトル・ユーゴー高校(フランス))

「生理用品へのアクセスは我が校の女子生徒、つまり全校の半数に関わっています。経済的な平等、保健衛生、エコロジーの問題として、男女問わず考えるべき課題です。フランスには女男平等のための法律がありますが、実態はまだまだ追いついていませんからね」

ディスペンサー設置の初期費用と「学びの日」開催にかかった費用1200ユーロ(約16万円)は、地域圏教育委員会からの助成金でカバー。年間の維持費は350ユーロ(約4万5千円)ほどで、無償配布は現在も続いています。

「生徒たちは必要な分だけを、節度を持って使ってくれています。生徒たちの学校生活をより良くでき、校長として満足しています。2022年からは高校附属の寮にも、同じディスペンサーを設置することになりました」

月経は人口の半分に関わる衛生・人権問題

コロナ禍の前から始まった、フランスの「生理の貧困」対策。感染症の影響で普及のスピードが遅れたものの、重要性は変わらずに認識され、支援は続けられています。2021年には、対策に充てる国家予算が前年比5倍に増額されました。その発表には、担当大臣の力強いメッセージが添えられています。

「いかなる女性も、次の月経のために不安になるべきではない」
「生理用品へのアクセスは重大な保健問題であると同時に、社会の連帯と機会の平等の課題でもある」

取り組みの方法は国によってさまざまですが、全世界で共通するのは、月経が人口の半分に関わる衛生・人権問題ということ。日本でも官民の連携で始まっている支援が、今後ますます活発化し、広がっていくことを願っています。(了)

【シリーズ】誰もが生理用品にアクセスしやすい社会になるには

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たかさき じゅんこ

髙崎 順子

Junko Takasaki
ライター

1974年東京生まれ。東京大学文学部卒業後、都内の出版社勤務を経て渡仏。書籍や新聞雑誌、ウェブなど幅広い日本語メディアで、フランスの文化・社会を題材に寄稿している。著書に『フランスはどう少子化を克服したか』(新潮新書)、『パリのごちそう』(主婦と生活社)、『休暇のマネジメント 28連休を実現するための仕組みと働き方』(KADOKAWA)などがある。得意分野は子育て環境。

1974年東京生まれ。東京大学文学部卒業後、都内の出版社勤務を経て渡仏。書籍や新聞雑誌、ウェブなど幅広い日本語メディアで、フランスの文化・社会を題材に寄稿している。著書に『フランスはどう少子化を克服したか』(新潮新書)、『パリのごちそう』(主婦と生活社)、『休暇のマネジメント 28連休を実現するための仕組みと働き方』(KADOKAWA)などがある。得意分野は子育て環境。