【生理の貧困】ナプキン配布が必要な日本 「タンポン税」を軽減したフランス

誰もが生理用品にアクセスしやすい社会になるには #1

在仏ライター:髙崎 順子

そもそも「生理」って?「生理の貧困」の何が問題?

思春期に初潮を迎えてから、50 歳前後で閉経するまで続く女性の生理現象「月経」。月に1週間ほど出血する月経の期間、それがないと生活に支障をきたす生理用品は、トイレットペーパーと同様の生活必需品と言えます。
 
それなのに月経は長年「恥ずかしいこと」とタブー視され、生理用品の必要性も、表立って語られてはきませんでした。コロナ禍を機に、定職を失った女性たちの間で生理用品の入手困難が深刻化し、「生理の貧困」が社会問題となりました。
 
とはいえ「生理の貧困」の背景は、「生理用品を買うお金がない」という経済的な問題だけではありません。なかには、保護者が必要分を買い与えない虐待や、専業主婦が夫の給与から生理用品の購入費用を得られない経済的DVなども。また被災地では生理用品の支援が後回しにされ、月経の女性たちが困窮する事態がありました。生理用品にアクセスできない状況は、女性の尊厳と生活を脅かす、女性特有の人権問題なのです。

現在では日本以外の多くの国でも、生理用品へのアクセスが、社会問題として捉えられています。

生理用品は嗜好品じゃない!「消費税」を下げたフランス

私の住むフランスでも長年、月経は日本のようにタブー視され、生理用品へのアクセス困難は「発展途上の外国の女性問題」と考えられがちでした。国内の現実として大きく注目されたのは、2014年頃からです。

先んじてアメリカやイギリスで社会問題として議論され、それが伝わって後発的に知られていきました。2022年の今では「月経の生活不安定 Précarité menstruelle」との用語で、国から市町村まで、広範な取り組みがなされています。

フランスではどのように、国家の問題として「生理の貧困」に取り組むようになったのでしょう。時系列でご紹介していきましょう。

まず初めのアクションは、貧困支援の非営利団体による、生理用品の寄付と配給です。それと同時期に女性の権利擁護を掲げる団体から、生理用品の付加価値税(仏の消費税)の税率を下げよう、との声が上がります。

生活必需品のために、月経中の女性はより多く課税されている(写真アフロ)

それまでフランスの生理用品には、酒類などの嗜好品と同じ20%の税率が適用されていましたが、生活必需品用の軽減税率5.5%に下げるべきだと訴えたのです。

男性は使う必要のない生理用品への税を、女性特有の「タンポン税」と呼び、2015年には全国的な署名運動に発展します。「生活必需品のために、月経中の女性はより多く課税されている」との論旨です。

この訴えはすぐに国会議員たちの耳に届き、早速、翌年度予算の修正法案として審議にかけられます。この税軽減の影響が見込まれるのは、フランス全人口の4分の1弱にあたる約1500万人。

税収に少なからぬ影響が出るため、フランス政府は改革に消極的でしたが、上院・下院両議会の側の決定を受け、必要な予算繰りをして2016年1月から実施されることになりました。

生理は「国民の保健衛生問題」実態調査で認める

社会問題として注目が集まる中、次に行われたのは官民による実態調査でした。

たとえば2019年には、大手リサーチ会社IFOPは「フランスの衛生と生活不安定」調査の一環で、生理用品へのアクセスを調べています。

これらの調査で明らかになったのは、「税率軽減だけではこの困難をカバーできない」という現実でした。

フランス高等教育・研究・改革省によると当時フランス国内で約170万人の女性が、諸般の事情で「生理用品を必要なだけ入手できていない」と発覚。靴下や化粧用コットン、トイレットペーパーなどで代用し、皮膚炎を発症しているケースもありました。ここで生理用品へのアクセスは、「国内の保健衛生問題」として、改めて認識されたのです。

翌2020年2月、フランス政府は「月経をめぐる社会的なスキームを変える」との方針を打ち出します。女男平等担当大臣の管轄で、公共施設での生理用品の無料配布を実験的に実施。刑務所、保護シェルター、食品配給団体、学校施設などを対象に、100万ユーロの予算を確保しました。

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