東京育ちの母が決めた 3人子連れで人口300人の竹富島へ移住した理由
首都圏から竹富島へ移住! 離島暮らしの子育て&学び【01】
2021.04.14
東京育ちで、結婚後は子ども3人&夫の5人家族で神奈川県に暮らしていたライター・片岡由衣さん。突然、夫の仕事都合で人口約300人の小さな離島・竹富島(沖縄県八重山郡)へ引っ越すことになりました。自然豊かな地での子育てに憧れはあったものの、実際はどんな暮らしが待っていたのでしょうか。
今回は、引っ越しまでのエピソードをお伝えします。
長男の登校しぶりをきっかけに「離島留学」を知る
コートを着ていた神奈川県から、半そで1枚で過ごせる竹富島へやってきました。鉄道好き長男(小5)、生き物好き次男(小3)、ザ・乙女な長女(年長)。ほぼ東京育ちの夫婦と、京都と横浜で育った子どもたちの5人家族です。そんな私たち家族が、どうして竹富島に住むことになったのでしょうか。
2018年4月、長男は小学2年生でした。いわゆる「小1の壁」にぶつかることはなく、楽しそうに小学校生活を送っていました。そう思っていたのに2年生になった矢先、突然「おなかが痛い」と毎朝訴えるようになり、学校へ行けなくなってしまったのです。
はじめは「体調不良かな」と休ませていたところ、学校を休む日がどんどん増えていきました。「これが不登校の始まり……!?」と考えながらも、思い当たる原因もなく、担任やスクールカウンセラー、保健室の先生などに相談する日々。何とかして学校へ行かせた方が良いのか、行きたがらないなら家で過ごせば良いのか。何もかもわからずに悩んでいました。
長男は朝になると体調不良を訴えるものの、学校へ行くととても楽しそうに過ごしています。それでも、「約30名もの人数で同じことをする」のが合わないのかもしれない。長男に合う学校がほかにもあるのかもしれないと、さまざまな学校について調べ始めました。そこで「離島留学」や「山村留学」のことを知ったのです。実際、種子島への留学に参加した子が身近にいて、心身ともに成長して帰ってきた姿を見ていました。自然とふれあいながら育つ環境は素敵だなあと思ったものの、具体的な行動を起こすまでには至りませんでした。
2学期になり、なぜか長男はケロッと学校へ行くようになりました。夫が「竹富島に異動希望を出したい」と言ってきたのはこの頃。まさか転勤という形で離島留学のような暮らしが叶うとは思ってもいません。すぐさま頭の中は妄想トリップ。青い海で遊ぶ子どもたちの姿が思い浮かびます。
でもいざとなったら、未知の生活に怖気づく気持ちもあります。竹富島の情報収集を始めました。
竹富島のコンドイビーチの透明感と青のグラデーションは目をみはる美しさ(左)。ブーゲンビリアやハイビスカス、南国の花が島中を彩ります(右)。
写真提供:片岡由衣
信号さえない竹富島には何があるのか
日本地図をながめ、東京からの遠さ、竹富島の小ささにとても驚きました。竹富島は石垣島からフェリーで約15分南下したところにある、人口およそ300名、周囲9km余りの小さな島です。島全体が国立公園に指定されているうえ、国の「重要伝統的建造物群保存地区」にも指定されています。伝統的な沖縄建築の家屋が並び、一般的な街にあるコンビニ、スーパー、本屋などはもちろん、信号すらありません。
エメラルドグリーンのビーチや、星の砂が拾えるビーチ。島を彩る南国の花。多くの人にとって憧れの場所でもあります。調べれば調べるほど、一生のうち竹富島で暮らせるなんて貴重なことかもしれない……、と感じるようになりました。
2018年10月、正式に竹富島への異動が決定。いざとなると、離島へ行ってやっていけるのか、島の方には受け入れてもらえるのか、生活が想像できず、さまざまな不安がよぎります。
でも、島ではきっと思いきり自然と遊べる、決まったからには楽しもう! とすぐ前向きな考えにチェンジ。
夫の赴任は12月になったので夫だけが一足先に竹富島入り。私と子どもたちは年度が終わる3月末に引っ越すことになりました。
竹富島の自然にふれて子どもたちが輝きだした!
2019年1月、石垣空港へ降り立つと、あたたかな空気と湿気に包まれて南国へ来たことを肌で感じます。候補の家や学校を見るため、竹富島へ下見にやって来たのです。
1泊目は石垣島の市街地を見て回り、2日目に竹富島へ向かいました。石垣島は人口が5万人ほどで、生活に必要なものがひと通り揃っています。実はこの時点では、石垣島で暮らすか、竹富島で暮らすかの選択肢があり、迷いがありました。
竹富島では伝統的な家が並ぶ集落をみんなで見て回り、水牛車にも乗りました。大きな建物は一切なく、子どもたちが大好きなファミレスももちろんありません。石垣島と竹富島を見て、子どもたちがどう感じるのかが、一番気になっていたことです。
竹富島のビーチに行くと、肌寒かったのにもかかわらず、子どもたちはこれまでにないほどイキイキと遊びはじめました。砂浜で山を作り、足を埋め、カニや魚を眺め、波と戦う。3時間以上は夢中で過ごしていたと思います。おもちゃや遊具がなくても遊び続ける姿を見て、大好きな本『センス・オブ・ワンダー』の言葉がよぎりました。著者で海洋生物学者のレイチェル・カーソンによると、「センス・オブ・ワンダー」とは神秘や不思議さに目をみはる感性のことだといいます。
〈子どもたちの世界は、いつも生き生きとして新鮮で美しく、驚きと感激にみちあふれています。(中略)わたしは、子どもにとっても、どのようにして子どもを教育すべきか頭を悩ませている親にとっても、「知る」ことは「感じる」ことの半分も重要ではないと固く信じています。(中略)子どもといっしょに自然を探検するということは、まわりにあるすべてのものに対するあなた自身の感受性にみがきをかけるということです。〉
(レイチェル・カーソン著『センス・オブ・ワンダー』より抜粋)
「このままここにいたい~」「たけとみに住みたい!」
子どもたちには自然があれば良いのかもしれない。すっかり、海と砂浜が気に入った様子でした。
おもちゃがなくても砂浜で永遠と遊んだ子どもたち(左・中)。芝生と建物のコントラストが絵本の世界のように美しい小中学校(右)。
写真提供:片岡由衣
家族全員がハートわしづかみにされた学校見学
小学校へ見学に行くと、鮮やかな花が咲き、芝生が広がる校庭に、雰囲気のある校舎が目に入ります。公立の学校とは思えない、まるで絵本に出てくるような景色にまず私が一目ぼれ! 先生の案内で校内へ入ると、島の子どもたちが集まってきました。「名前なんていうの?」「何年生?」「名前は〇〇と△△だね! 覚えた!」等々、高学年の子も低学年の子も親しげに話しかけてくれたのです。
島の学校は小中学校併置校。全校合わせておよそ30名の子どもたちが通っています。先生が一人一人の子どもたちのことを愛おしそうに紹介してくれました。
「人数が少ないから、一人一人意見を言ったり、みんなの前で発表したりする機会がたくさんあります」「前に出るのが得意な子、引っ込み思案な子、みんな違う個性を持った子たちですよ」「給食はランチルームで小中学生と教職員みんなで食べるんです。一緒に食べたいね」
説明を聞くうちに、隣にいる息子たちの表情がみるみる変わっていきました。「絶対にここの学校がいい!」「早く通いたい!」とすっかりその気になっています。「そうだね、この学校に通いたいね」私も思わず口にしていました。一人一人の個性が見える少人数での教育、先生や島の子たちのあたたかさ。いいな、こんな環境で過ごす時間は、子どもたちにとって宝物のような日々になるだろうなと思ったのです。
こうして、竹富島で暮らすことを決意しました。新学期の4月からいよいよ島での暮らしが始まります。
島暮らしから学んだこと
・子どもは砂浜があれば何時間でも遊べる
・島の学校の子たちはとても人懐こくすぐ仲良しに
・島の学校は楽園のような空間