「学び直し」 ママが始めたら子ども・夫と大ゲンカ! 「学びと家庭」を両立させる“コミュ術“を専門家が解説
ママパパの学び直し(リスキリング)#5~学びと家庭円満両立のコミュニケーション術~
2024.07.12
ライター:桜田 容子
昨今、注目されているママパパの学び直し(リスキリング)。一番避けたい“バッドケース”とは、試験の不合格や中断などの挫折ではなく、「家族関係がこじれること」だと、専門家は口を揃えます。
では、学び直しで家族関係を円満にたもつにどうしたらよいのでしょうか。
●三宮真智子(さんのみや・まちこ)PROFILE
大阪大学名誉教授、鳴門教育大学名誉教授。専門は認知心理学、教育心理学、教育工学。鳴門教育大学で助手、講師、助教授、教授、大阪大学大学院人間科学研究科教授などを歴任。著書多数。
●丸山晴美(まるやま・はるみ)PROFILE
ファイナンシャル・プランナー(FP)、節約アドバイザー。2002年に大学へ入学し現在も在籍で学びを継続。保有資格はアフィリエイテッド・ファイナンシャル・プランナー(AFP)、FP技能士2級、ジュニア食育マイスター、宅地建物取引士(登録)、認定心理士など多数。
子どもに『うるさい』『話しかけないで』は厳禁
「学び直しを始める際には、何よりも家族とのコミュニケーション、それから接し方に十分配慮することが必要です」
こう話すのは、教育心理学が専門の大阪大学名誉教授・三宮真智子さん。
例えば集中して勉強している最中に子どもが寄ってきたとき。心の中で「うるさいな~」「あっちに行って!」と思ったとしても、そうした気持ちを口に出すか出さないかで、子どもへの影響は大きく変わってくると言います。
「『うるさいな~』『話しかけないで!』『あっちへ行って』といった発言は親子関係を台無しにしかねない言葉です。子どもの側からすると、親から拒絶されたと感じてしまうからです。
フォローもなく、こうした発言を何度も繰り返していると、子どもは物心ついたころからだんだん親に何も言ってくれなくなる可能性が出てきます」(三宮さん)
できれば、「今は忙しいから、あとでゆっくりお話聞かせてね。○時からなら大丈夫だよ」というように、子どもの話をすごく聞きたいという気持ちを、言葉と表情で伝えるようにしたいと、三宮さんは続けます。
「特に小さい子どもは、言葉の内容だけではなく、親の表情をしっかり見ていて、それに反応します。口では優しいことを言っていても顔が怖かったり、顔がノートやパソコンのほうを向いているのはNG。相手の目を見て、優しいトーンで穏やかに。だけれども、きっぱりと伝えるのです。
そもそも、子どもがひんぱんに話しかけてくるのは、健全な親子関係ができているからこそ。ですから、うるさいぐらいに我が子が話しかけてくれるのは、親としては喜ぶべきで、本当にありがたいことと、念頭に置いておきたいですね。何らかの理由で、子どもから話しかけてくれないケースもあるわけですから」(三宮さん)
「学びと家庭の両立」はマメな意思疎通と頼み方
夫婦とはいえ、パートナーにも配慮は必要。三宮さんは、一方が勉強に必死になり、家庭をおろそかにしたことで、離婚に至ったケースもあると言います。
「夫婦間に亀裂が入らないようにするには、勉強を始める前に、自分の考えやプランなどを伝えて、十分に理解してもらい、協力を仰いでおく必要があります。そのうえで、今後の家庭生活をどう維持していくか相談しましょう。
また、勉強のスケジュールを壁に貼るなどして“見える化して共有”もおすすめ。事前に見込みの期間がお互いわかっていれば、パートナーも仕事などの予定を調整しやすくなります」(三宮さん)
勉強すると伝えるときは、資格の取得など目指す先だけでなくその背景や理由もしっかりと理解してもらう必要があります。
「例えば、急にママから『私は英語力を高めるために、明日から毎日2時間ずつ勉強を始めるのでよろしく』と言われても、パパとしては戸惑うでしょう。
でも、『私は英語を、○○の理由で学びたい。学ぶことで、今後のキャリアにどんなメリットがあって、それは家族の将来、幸せにどうつながっていくか』といった学び直しの理由やメリットを説明するのです。
注意すべきは、一度伝えたからといってわかってくれたと期待しないこと。パートナーからすれば、一度聞いても忘れてしまったり、思いつきや、誰かに影響されて言ってるのではないかと、相手の本気度合いを測りかねたりすることがあります。
何度も折に触れて説明して伝えておくと、相手の意識も次第に変わり、協力しようという気持ちになりやすいと思います」(三宮さん)
とはいえ、考え方や感じ方は人それぞれ。ましてや、仕事や立場が違えば、理解できるまでに時間がかかるし、反対される可能性もゼロではありません。
「反対するには理由がありますので、何を心配しているのか聞いてみては。そして、『確かにその意見ももっともだね』と、相手の意見をいったん受け入れ、そのうえでお互いどうすることがベストかを十分に話し合って、歩み寄れる解決策を一緒に考えるといいでしょう。
調整が進んだら、学びの進捗状況や成果をコマメに報告して。真剣さが伝わり、安心感や納得感も生まれやすくなり『じゃあ応援しようか』という気持ちも強まると思います」(三宮さん)
ときには、勉強時間を捻出するために、家事や育児の負担を多めに頼むこともあるでしょう。
「普段から相手はどう頼んだら快く引き受けてくれるのかを観察して、頼み方もひと工夫を。そして、普段より多くのことをしてもらったら、感謝の言葉『ありがとう』と『大変だったでしょう』というねぎらいの言葉を忘れずに。それも1回だけではなく、毎回言葉にして伝えると、次も気持ちよく引き受けてくれると思います」(三宮さん)
不合格でも中断しても得るものがある
かくして一生懸命勉強したけれど、残念ながら資格試験が不合格だった、成果が形として表れなかった、あるいは、途中でがんばることをあきらめてしまった場合もあります。
「子どもに良くないお手本を見せてしまった……」と考えてしまいがちですが、三宮さんは「それは決してバッドケースではない」と強調します。
「残念ながら試験に不合格だった場合、『ママ(パパ)はがんばった。だけど、これは合格が難しく、すごく大変な試験だった』ということを説明し、そのうえで『でも、勉強したことは無駄にはなっていない』と丁寧に伝える必要があります。
子どももいずれ高校や大学の入試を受けます。仮に失敗したとき、敗北したとは思ってほしくないですよね。ですから、一生懸命勉強したことは、資格を得るには至らなかったとしても、こういう面で役に立つ、と伝えるのです。学んだことはいずれ何らかの形で役に立つことが多いのは事実ですから。
この学びが自分に向いていなかったと途中で気づいたとしても、それは失敗ではなく、『気が付けてよかった』『自分のことがよくわかった。その意味では学びだった』とポジティブに捉えてください。
また、人生において、がんばってもうまくいかないことがあること、途中で方向転換しなければいけないことがあることもきちんと説明すれば、それは子どもにとって学びになります」(三宮さん)
家庭をおろそかにするのは本末転倒
2024年6月現在、中学3年生の息子を育てながら、長年学び直しを続けてきたFP(ファイナンシャル・プランナー)の丸山晴美さんは、「学びの目的を見失わないで」と話します。
「資格を取ること、学ぶことで、昇進や転職の成功で収入が増え、その結果、家族がハッピーになる──というように、学び直しの最終目標を“家族のハッピー”と定めている場合、その過程で家族関係が悪化したり家族の誰かがアンハッピーになったりしたら本末転倒です。
もし、最近子どもの様子がおかしい、夫婦間がギクシャクしていると感じてきたら、『何が何でも一発合格』を目指そうと思わず、家族に寄り添う時間を設けてもいいかもしれません」(丸山さん)
また丸山さんは学び直しが子どもへ想定外のいい影響ももたらしたそうです。
「子どもは『大人になると勉強しなくてもいいからずるい!』って言いがち。そんなとき、子どもの傍らであえて一緒に各々の勉強をするのも、お互いのよい刺激になりますよ。
我が家はそのおかげもあり、ゲーム好きな息子ですが、私が何も言わなくても自分で目標を作って勉強をするようになりました」(丸山さん)
─・─・─・─・─・
学び直しで試験をめざす場合、もちろん一発合格できればそれに越したことはありません。しかし、家庭を大事にしながら数年かけて合格をつかむ道も、決して悪くはないこと。むしろ、あきらめない姿勢を子どもに見せ続けることは、親子で成長していくきっかけになるかもしれません。
学び直しに挑戦するならば、この学びは何が目的なのか、子どもと過ごせる時間はあと何年間なのか、いま優先すべきは何なのか──折に触れて自分に問い直しながら、その時々のベストを選びつつ、続けていくことが成功への道といえそうです。
※ママパパの学び直し(リスキリング)は全5回
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丸山 晴美
1974年、新潟県生まれ。東京でフリーターをしていた21歳のときに「家を買おう!」と思い立ち、会社員となり、頭金を貯め始める。それから5年後、コンビニエンスストアで店長をしていた26歳のときにマンションを購入。 少ない収入で一人暮らしをしながら貯蓄してきた経験をいかし、2001年に節約アドバイザーになる。同年、アフィリエイテッド・ファイナンシャル・プランナー(AFP)に合格。 2002年に通信制の放送大学教養学部教養学科に入学し、「生活と福祉」から「心理と教育」コースまで多ジャンルな科目を受講。現在も大学に籍を置きながら学びを継続している。 保有資格は秘書検定2級、調理師免許、FP技能士2級、ジュニア食育マイスター、宅地建物取引士(登録)、認定心理士、ITパスポート、家庭の省エネエキスパート検定合格など多数。プライベートでは、2016年からシングルマザーに。 著書や監修書も多く、最近では「お金を活かす ハッピーエンディングノート」(東京新聞)を監修。
1974年、新潟県生まれ。東京でフリーターをしていた21歳のときに「家を買おう!」と思い立ち、会社員となり、頭金を貯め始める。それから5年後、コンビニエンスストアで店長をしていた26歳のときにマンションを購入。 少ない収入で一人暮らしをしながら貯蓄してきた経験をいかし、2001年に節約アドバイザーになる。同年、アフィリエイテッド・ファイナンシャル・プランナー(AFP)に合格。 2002年に通信制の放送大学教養学部教養学科に入学し、「生活と福祉」から「心理と教育」コースまで多ジャンルな科目を受講。現在も大学に籍を置きながら学びを継続している。 保有資格は秘書検定2級、調理師免許、FP技能士2級、ジュニア食育マイスター、宅地建物取引士(登録)、認定心理士、ITパスポート、家庭の省エネエキスパート検定合格など多数。プライベートでは、2016年からシングルマザーに。 著書や監修書も多く、最近では「お金を活かす ハッピーエンディングノート」(東京新聞)を監修。
桜田 容子
ライター。主に女性誌やウェブメディアで、女性の生き方、子育て、マネー分野などの取材・執筆を行う。2014年生まれの男児のママ。息子に揚げ足を取られてばかりの日々で、子育て・仕事・家事と、力戦奮闘している。
ライター。主に女性誌やウェブメディアで、女性の生き方、子育て、マネー分野などの取材・執筆を行う。2014年生まれの男児のママ。息子に揚げ足を取られてばかりの日々で、子育て・仕事・家事と、力戦奮闘している。
三宮 真智子
専門は認知心理学、教育心理学、教育工学。大阪大学人間科学部を卒業後、同大学大学院で学びを続け、1985年に大阪大学で学術博士を取得。その後は鳴門教育大学で助手、講師、助教授、教授、大阪大学大学院人間科学研究科教授などを歴任。 主な著書に『メタ認知:あなたの頭はもっとよくなる』(中央公論新社)、『メタ認知で〈学ぶ力〉を高める:認知心理学が解き明かす効果的学習法』(北大路書房)、『誤解の心理学:コミュニケーションのメタ認知』(ナカニシヤ出版)など。
専門は認知心理学、教育心理学、教育工学。大阪大学人間科学部を卒業後、同大学大学院で学びを続け、1985年に大阪大学で学術博士を取得。その後は鳴門教育大学で助手、講師、助教授、教授、大阪大学大学院人間科学研究科教授などを歴任。 主な著書に『メタ認知:あなたの頭はもっとよくなる』(中央公論新社)、『メタ認知で〈学ぶ力〉を高める:認知心理学が解き明かす効果的学習法』(北大路書房)、『誤解の心理学:コミュニケーションのメタ認知』(ナカニシヤ出版)など。