子育て中の「学び直し」「リスキリング」が必要な理由 メリットとデメリットを専門家・経験者が解説

ママパパの学び直し(リスキリング)#1~メリット・デメリット~

ライター:桜田 容子

子育てに家事・仕事で常に時間に追われるママパパたちも学び直しはしたほうがいいのか。メリット・デメリットを専門家に教わりました。  イメージ写真:アフロ
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今、「大人の学び直し」(リスキリング)に注目が集まっています。岸田首相が国会で「学び直し」を後押しする姿勢を表明し、国や自治体は企業に経済的支援を行うなど、徐々にリスキリングへのバックアップが始まっています。

芸能界では、小倉優子やつるの剛士、相川七瀬など子育て中のタレントらが大学・短大に入学し、仕事や育児のかたわら、勉強に励む様子が報道されています。

とはいえ、子育て真っただ中のママパパ世代は、時間、体力、お金、心の余裕──どれも足りない! と嘆く人が多いのではないでしょうか。それでも学び直しをする意義とは? 専門家や経験者に話を聞きました。

※1回目/全5回(#2#3#4#5を読む)公開までリンク無効

●三宮真智子(さんのみや・まちこ)PROFILE
大阪大学名誉教授、鳴門教育大学名誉教授。専門は認知心理学、教育心理学、教育工学。鳴門教育大学で助手、講師、助教授、教授、大阪大学大学院人間科学研究科教授などを歴任。著書多数。

認知心理学、教育心理学の専門家・三宮真智子先生。

●丸山晴美(まるやま・はるみ)PROFILE
ファイナンシャル・プランナー(FP)、節約アドバイザー。2002年に大学へ入学し現在も在籍で学びを継続。保有資格はアフィリエイテッド・ファイナンシャル・プランナー(AFP)、FP技能士2級、ジュニア食育マイスター、宅地建物取引士(登録)、認定心理士など多数。

1児のシングルママで多忙な中でも学び直しを継続している丸山晴美さん。

知識やスキルのアップデートが求められている

「今の時代、子育て中であろうとなかろうと、学び直しは必要です」と語るのは、大阪大学名誉教授で、認知心理学や教育心理学が専門の三宮真智子さん。

理由のひとつは、急激な社会の変化についていくため。

「今は環境が目まぐるしく変わり、将来の予測が難しい時代。特に職場においては、時代の変化にともなって、ビジネスモデルもどんどん変わり、求められる知識やスキルも多様になってきています。昔の常識が今の非常識になってしまうことさえあります。

そんな現代社会で生きていくには、知識やスキルのアップデートは必須。むしろ、学び直しをすることで、昇進、転職など今後のキャリアの選択肢を広げることもできるわけです。

また、長寿化により定年も延長され、働く期間も少しずつ伸びてきています。かつては、一度仕事を覚えたら定年まで同じやり方を続けて行けばよかった。でも今はそうではありません。同じところで働いていたとしても、やはり要求される仕事内容が変化していくわけです」(三宮さん)

実際、『月刊総務』が全国の総務担当者103名に「社員の学び(リスキリング)」について調査した結果、9割以上の企業が「リスキリングの必要性を感じている」と回答していました。

学び直しが必要なのは、専業主婦であっても同じこと。

「専業主婦をしていたママたちが、何年間かのブランクを経て、経済的な理由などで仕事を始めたいと考えるようになることもあります。その場合にも、資格を取得したほうが定職に就きやすいこともあり、学び直しは大きな武器となるのです」(三宮さん)

学び続けることで頭の働きもよくなる

学び直しは、単発的に短期で行うより何年も継続して行うほうがベターだと三宮さんは話します。

「ずっと学び続けていくことは、本来、私たちの頭の働きにとってはとてもいいこと。筋肉と同じで、頭も鍛えなければだんだん衰えていきます。世代を問わず、ある程度の緊張感を持って学び続けることが、私たち大人には必要です」(三宮さん)

学び直し歴22年で、現在(2024年7月)中学3年生の息子と暮らすFP(ファイナンシャル・プランナー)の丸山晴美さんも、実感を込めてこう語ります。

「私が学び直しを始めたのは、2002年の28歳からで今は50歳になりました。最終学歴が専門学校卒だったので、国家試験の資格要件を得るために、大学に入って学士を取ろうと思ったのがきっかけです。

2002年に通信制の放送大学に入学してからは、主に自宅で大学のリモート授業を受けながら、さまざまな試験に挑戦。妊娠中の2009年に消費生活アドバイザー、2014年宅地建物取引士、2018年認定心理士、2019年はITパスポートの資格に合格しました。大変でしたけれど、こうした知識が仕事の大きなプラスになると実感してます。

例えば、節約の目的がマイホーム購入という人から相談を受けたとき、不動産の知識があればマネープランに物件の見極め方までアドバイスの幅が広がりますよね。また、人は生きている限りいろんなトラブルにあう可能性がありますが、消費生活アドバイザーの知識があれば、未然に防ぐ方法や事後策をアドバイスできます。

さらに、人はなぜ、どんなときにお金を使いたくなるのかといった心理学もわかっていたほうが、アドバイス全般に深みが出ますよね」(丸山さん)

“勉強慣れ”していれば記憶力も鍛えられる

現在も放送大学に籍を置き、受講可能な講座をジャンル問わず幅広く受け続けている丸山さん。

勉強のペースは、その時々の単元数で異なり、多い日で毎晩1~2時間、最近のように1教科しか取っていないときは週1~2時間程度で、教科書を読んだり、放送授業(動画)を聞き流すくらいだと言います。

「福祉から心理、教育、経済など、年ごとに違うジャンルを学びながら、半年に1回は大きめのテストを受けているため、興味の有無にかかわらず常に勉強することになりますが、これがいい。

継続して学んでいると、いざ新しい分野を学ぼうとしたとき難しい単語や専門用語が入りやすい。“授業を聞ける耳”や、それをちゃんと自分で消化して覚えるトレーニング、要は“勉強脳”ができているから、消化(理解)も早いし記憶力も鍛えられる。もしブランクがあったら、教科書の文字が読めないほどの状態になっていたかも(笑)。

特に40代以降は、継続して勉強している人と、勉強にブランクがある人とでは、スタート地点はもとより、苦労の度合いも大きく変わってくると思います」(丸山さん)

学び方を間違えるとデメリットに!?

こうした学びが仕事に生かされれば、頭のトレーニングにとどまらず、実益にもなりえます。ただし、やり方によっては残念な結果につながることも……。

「学び方が不適切だと、時間を無駄にしてしまったり、達成感を得られなかったりすることはあります。

例えば、ご自分の向き不向きをよく考えないまま、高価な教材を購入したり、なんとなくパッと学校に入ってしまったりすると、無駄な出費になってしまうこともあります。また、一生懸命勉強したけれど、残念ながら資格試験に合格しなかった、成果が形として現れなかった場合もあるでしょう。

家族にしわ寄せがいくこともあります。特に、家事の分担や育児に支障が出るのは、不適切な学び方が原因となって起こること。これをデメリットとも考えられます。

それでも、学んだことはいずれ何らかの形で役に立つことが多いのは事実。すぐに手ごたえがなくても、がっかりする必要はありません。長い目で見れば、学び直しにはメリットしかないとも言えます」(三宮さん)

とはいえ、勉強を始めるとなると、今の生活をガラッと変えることになる人も多いでしょう。そもそも何を、いつから、どこで学べばよいのか──。

スタートラインに立つまでのさまざまな悩みと、準備すべきことを、次回詳しく伺います。

心理学の専門家である三宮真智子先生が、賢い頭の使い方を指南する新書『メタ認知‐あなたの頭はもっとよくなる』(中央公論新社)。
お金まわりに詳しい丸山晴美さんが監修した、マネー関係のエンディングノート。『お金を活かす ハッピーエンディングノート』(東京新聞)。

【参考】
株式会社月刊総務「社員の学び(リスキリング)についての調査」

※ママパパの学び直し(リスキリング)は全5回(公開日までリンク無効)
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さんのみや まちこ

三宮 真智子

Machiko Sannomiya
大阪大学名誉教授、鳴門教育大学名誉教授

専門は認知心理学、教育心理学、教育工学。大阪大学人間科学部を卒業後、同大学大学院で学びを続け、1985年に大阪大学で学術博士を取得。その後は鳴門教育大学で助手、講師、助教授、教授、大阪大学大学院人間科学研究科教授などを歴任。 主な著書に『メタ認知:あなたの頭はもっとよくなる』(中央公論新社)、『メタ認知で〈学ぶ力〉を高める:認知心理学が解き明かす効果的学習法』(北大路書房)、『誤解の心理学:コミュニケーションのメタ認知』(ナカニシヤ出版)など。

専門は認知心理学、教育心理学、教育工学。大阪大学人間科学部を卒業後、同大学大学院で学びを続け、1985年に大阪大学で学術博士を取得。その後は鳴門教育大学で助手、講師、助教授、教授、大阪大学大学院人間科学研究科教授などを歴任。 主な著書に『メタ認知:あなたの頭はもっとよくなる』(中央公論新社)、『メタ認知で〈学ぶ力〉を高める:認知心理学が解き明かす効果的学習法』(北大路書房)、『誤解の心理学:コミュニケーションのメタ認知』(ナカニシヤ出版)など。

まるやま はるみ

丸山 晴美

Harumi Maruyama
ファイナンシャル・プランナー

1974年、新潟県生まれ。東京でフリーターをしていた21歳のときに「家を買おう!」と思い立ち、会社員となり、頭金を貯め始める。それから5年後、コンビニエンスストアで店長をしていた26歳のときにマンションを購入。 少ない収入で一人暮らしをしながら貯蓄してきた経験をいかし、2001年に節約アドバイザーになる。同年、アフィリエイテッド・ファイナンシャル・プランナー(AFP)に合格。 2002年に通信制の放送大学教養学部教養学科に入学し、「生活と福祉」から「心理と教育」コースまで多ジャンルな科目を受講。現在も大学に籍を置きながら学びを継続している。 保有資格は秘書検定2級、調理師免許、FP技能士2級、ジュニア食育マイスター、宅地建物取引士(登録)、認定心理士、ITパスポート、家庭の省エネエキスパート検定合格など多数。プライベートでは、2016年からシングルマザーに。 著書や監修書も多く、最近では「お金を活かす ハッピーエンディングノート」(東京新聞)を監修。

1974年、新潟県生まれ。東京でフリーターをしていた21歳のときに「家を買おう!」と思い立ち、会社員となり、頭金を貯め始める。それから5年後、コンビニエンスストアで店長をしていた26歳のときにマンションを購入。 少ない収入で一人暮らしをしながら貯蓄してきた経験をいかし、2001年に節約アドバイザーになる。同年、アフィリエイテッド・ファイナンシャル・プランナー(AFP)に合格。 2002年に通信制の放送大学教養学部教養学科に入学し、「生活と福祉」から「心理と教育」コースまで多ジャンルな科目を受講。現在も大学に籍を置きながら学びを継続している。 保有資格は秘書検定2級、調理師免許、FP技能士2級、ジュニア食育マイスター、宅地建物取引士(登録)、認定心理士、ITパスポート、家庭の省エネエキスパート検定合格など多数。プライベートでは、2016年からシングルマザーに。 著書や監修書も多く、最近では「お金を活かす ハッピーエンディングノート」(東京新聞)を監修。

さくらだ ようこ

桜田 容子

ライター

ライター。主に女性誌やウェブメディアで、女性の生き方、子育て、マネー分野などの取材・執筆を行う。2014年生まれの男児のママ。息子に揚げ足を取られてばかりの日々で、子育て・仕事・家事と、力戦奮闘している。

ライター。主に女性誌やウェブメディアで、女性の生き方、子育て、マネー分野などの取材・執筆を行う。2014年生まれの男児のママ。息子に揚げ足を取られてばかりの日々で、子育て・仕事・家事と、力戦奮闘している。