子育て中の「学び直し」 子どもが何歳が良い? ベストタイミングを専門家・経験者が解説

ママパパの学び直し(リスキリング)#3~勉強スタートのベストタイミング~

ライター:桜田 容子

親になってからの学び直しに取り組むとしたら、子どもが何歳のときがベストなのか。専門家と経験者の話を聞きました。  イメージ写真:アフロ

国や自治体が経済的支援をするなど、最近注目されている学び直し(リスキリング)。

子育て中のママパパが、いざ「学び直しをしよう!」と思っても、「今はまだ子どもが小さいから時間がない」「じゃあ、子どもがいったい何歳になったら勉強できるの?」等々、始める時期に迷う人は多いのではないでしょうか。

専門家や学び直しと子育てを両立した経験者に、アドバイスをもらいました。

※3回目/全5回(#1#2#4#5を読む)公開までリンク無効

●三宮真智子(さんのみや・まちこ)PROFILE
大阪大学名誉教授、鳴門教育大学名誉教授。専門は認知心理学、教育心理学、教育工学。鳴門教育大学で助手、講師、助教授、教授、大阪大学大学院人間科学研究科教授などを歴任。著書多数。

●丸山晴美(まるやま・はるみ)PROFILE
ファイナンシャル・プランナー(FP)、節約アドバイザー。2002年に大学へ入学し現在も在籍で学びを継続。保有資格はアフィリエイテッド・ファイナンシャル・プランナー(AFP)、FP技能士2級、ジュニア食育マイスター、宅地建物取引士(登録)、認定心理士など多数。

勉強を始めるベストタイミングとは?

子どもが小学校低学年までは、子どものお世話はもちろん、PTA活動などの当番、習い事の送迎などやるべきことはたくさん。中・高学年になっても突発事態に追われたり、学童の卒業で子どもが自宅で過ごす時間が増え、やはり自分の勉強どころではない。

では、産休中や育休中がいいのか、それともいっそ子どもの手が離れ始める中学生以降がいいのか、でもそのころにはママは更年期真っただ中で勉強どころではない!?──考えても考えても答えが出ない学び直しのベストタイミング。

大阪大学名誉教授で、認知心理学や教育心理学が専門の三宮真智子さんは、こう話します。

「学びをいつ始めるのがよいか。子どもはいつになったら落ち着き、手が離れるのか──。これは一概にはいえません。人によってさまざまで、非常に個人差があります。

妊娠中も体調がよければ学ぶことができますが、悪いと難しい。お子さんが夜泣きも少ないよく眠るタイプというラッキーな場合には学びの時間が取りやすいかもしれません。子どもが小さいうちは特に発達の個人差が大きいですし、ご両親や周囲の手助けが得られるかということでも変わってきます。

こうしたところを考慮しながら、特にママの学び直しについては、体と気持ちに無理のない範囲で始めるのがいいと思いますが、一つの目安としては、お子さんがある程度聞き分けられるようになってから、親の言うことを理解できるようになってからだと、比較的うまくいきやすいでしょう。

もちろん、“まだ聞き分けられない状態だから始めないほうがいい”というわけではありません。ご自身の学びの意欲が高いなら、お子さんの年齢にかかわらず、“今ならできる!”というタイミングを見計らって、できるだけ自分の気持ちに素直に従うといいと思いますね」(三宮さん)

学びの形態によってスケジュールは変わる

では、子育て中に学び直しをしてきたママたちの声は?

2024年7月現在、中学3年生の息子がいるFP(ファイナンシャル・プランナー)の丸山晴美さんは、出産前の2002年28歳のときからずっと継続して勉強している、学び直し歴22年のベテラン。自らの体験を踏まえ、こう話します。

「学びの形態によって、時間の取り方は変わります。まず何をどこで学ぶかを考えたうえで、スタート時期を決めるのも一つの手です」(丸山さん)

学び方には、大きく分けて3パターン。

①【通学】 大学や専門学校、養成学校などのスクールに入学して通学、または自宅でオンライン授業を受ける(※近年はオンライン動画配信などリモートで授業やテストを受けられレポート提出できるスクールも増加中。また、スクールでも年に何度か通学して授業を受ける「スクーリング」がある場合も)

②【通信講座】 通信教育講座に入会してeラーニング(動画配信授業)などを受講し自宅で学ぶ

③【独学】 教本や問題集を買うなどして独学する

「私の場合、息子が保育園に通っていた時期は、①の通学スタイルでした。平日、保育園に預けている間に通信制の放送大学のスクーリングに通い、息子が寝た後の1~2時間でオンライン授業やテキストなどで学んでいました。

息子が中学生になった今では、コロナ禍を経てオンライン化が進んだこともあり、自宅にいながらオンライン授業やテキストで学んでいます。放送大学は通信制で、科目によってはスクーリングがありますが、基本はオンライン。自宅で完結できるのはありがたいですね。

フルタイムで働く知人のAさんは、③の独学型で税理士の資格を取りました。Aさんは両親と同居しながらお子さんを3人育てていますが、3人目を産むときに1年間の産休と育休を取得。その間は子どもが保育園や学校にいる時間と寝た後に自宅で勉強し、税理士試験の合格で必要な5教科を一発で取ったそうです。

彼女は、産前産後の体調、祖父母や夫の協力、お子さんの育てやすさなど、あらゆる面で恵まれていたのかもしれません。逆に言えば、条件次第では、学び直しのタイミングやハードルは大きく変わるということ。

私自身も、祖父母の協力は得られない中でも、時間に融通がきく仕事で、補助制度を利用して、ベビーシッターさんの力も借りることができ、かつ息子は夜泣きが少なく病気もほとんどかからない、育てやすい子だったというのも続けられた要因だったと思います」(丸山さん)

子どもが留守番可能になってから学びを開始

現在小学4年生の子を育てながら、通信制の養成校に入学し、福祉系の資格習得の勉強をしているシングルママのBさん(45歳・フリーランス)は、頼れる身内は皆無の完全ワンオペタイプです。

Bさんの場合、資格試験を受けるには養成校などの一般養成施設を卒業する必要があり、どの年度から入学するか、タイミングを決めかねていました。

「私は、子どもが保育園年長のころから学びたい気持ちはあったのですが、年数回、土日にスクーリングがある養成課程を受けるとなれば、その都度一日10時間近く有料のシッターサービスに預けることになり膨大なお金がかかるし、行政のひとり親を対象とした子ども見守りサービスは、土日などの単発では使えないといった制約がありました。

そこで、子どもが小学2年生のうちにPTAの役員を済ませつつ留守番の練習も少しずつ始め、3年生になってまあ安心して留守番できるようになったタイミングで、ようやく養成校に入学し、勉強をスタート。

子どもは繊細でそそっかしくて何かと手がかかるうえ、急に『おなか痛い。今日は絶対に学校を休む』と言い出して対応に追われることも多々。仕事もある。さらに最近は本人の望みで中学受験をすることになり、サポートに奔走……などなど、今でも時間はいくらあっても足りません」(Bさん)

聞くだけでスーパーハードなBさんの学び直し。じゃあ時期尚早だったのかと聞くと、決してそうではないと言います。

「それでも、ずっと学びたかったことを学べているという充実感は想像以上に大きく、無理してでも始めて良かったと思っています。逆に、スタートがあと1~2年遅かったら、子どもの受験や自分の更年期のピークと重なり、もっとキツかったかもしれません」(Bさん)

かくして、ベストタイミングの見極めは非常に困難。

三宮さんは、「早く学びたい、一刻も早く学び始めたいんだという強い気持ちがあれば、その気持ちを押さえ込む必要はありません」と話します。

「一つ言えるのは、可能な時期に少しでも勉強を始めておいたほうが、あとあと有利になるということ。たとえ中断したとしても、再開するときにゼロから始めるよりはずっと楽だということは、覚えておいたほうがいいでしょう」(三宮さん)

次回は、時間の作り方と効率的な学び方について、体験談を交えつつ、教えてもらいます。

心理学の専門家である三宮真智子先生が、賢い頭の使い方を指南する新書『メタ認知‐あなたの頭はもっとよくなる』(中央公論新社)。
お金まわりに詳しい丸山晴美さんが監修した、マネー関係のエンディングノート。『お金を活かす ハッピーエンディングノート』(東京新聞)。

※ママパパの学び直し(リスキリング)は全5回(公開日までリンク無効)
#1
#2
#4
#5

さんのみや まちこ

三宮 真智子

Machiko Sannomiya
大阪大学名誉教授、鳴門教育大学名誉教授

専門は認知心理学、教育心理学、教育工学。大阪大学人間科学部を卒業後、同大学大学院で学びを続け、1985年に大阪大学で学術博士を取得。その後は鳴門教育大学で助手、講師、助教授、教授、大阪大学大学院人間科学研究科教授などを歴任。 主な著書に『メタ認知:あなたの頭はもっとよくなる』(中央公論新社)、『メタ認知で〈学ぶ力〉を高める:認知心理学が解き明かす効果的学習法』(北大路書房)、『誤解の心理学:コミュニケーションのメタ認知』(ナカニシヤ出版)など。

専門は認知心理学、教育心理学、教育工学。大阪大学人間科学部を卒業後、同大学大学院で学びを続け、1985年に大阪大学で学術博士を取得。その後は鳴門教育大学で助手、講師、助教授、教授、大阪大学大学院人間科学研究科教授などを歴任。 主な著書に『メタ認知:あなたの頭はもっとよくなる』(中央公論新社)、『メタ認知で〈学ぶ力〉を高める:認知心理学が解き明かす効果的学習法』(北大路書房)、『誤解の心理学:コミュニケーションのメタ認知』(ナカニシヤ出版)など。

まるやま はるみ

丸山 晴美

Harumi Maruyama
ファイナンシャル・プランナー

1974年、新潟県生まれ。東京でフリーターをしていた21歳のときに「家を買おう!」と思い立ち、会社員となり、頭金を貯め始める。それから5年後、コンビニエンスストアで店長をしていた26歳のときにマンションを購入。 少ない収入で一人暮らしをしながら貯蓄してきた経験をいかし、2001年に節約アドバイザーになる。同年、アフィリエイテッド・ファイナンシャル・プランナー(AFP)に合格。 2002年に通信制の放送大学教養学部教養学科に入学し、「生活と福祉」から「心理と教育」コースまで多ジャンルな科目を受講。現在も大学に籍を置きながら学びを継続している。 保有資格は秘書検定2級、調理師免許、FP技能士2級、ジュニア食育マイスター、宅地建物取引士(登録)、認定心理士、ITパスポート、家庭の省エネエキスパート検定合格など多数。プライベートでは、2016年からシングルマザーに。 著書や監修書も多く、最近では「お金を活かす ハッピーエンディングノート」(東京新聞)を監修。

1974年、新潟県生まれ。東京でフリーターをしていた21歳のときに「家を買おう!」と思い立ち、会社員となり、頭金を貯め始める。それから5年後、コンビニエンスストアで店長をしていた26歳のときにマンションを購入。 少ない収入で一人暮らしをしながら貯蓄してきた経験をいかし、2001年に節約アドバイザーになる。同年、アフィリエイテッド・ファイナンシャル・プランナー(AFP)に合格。 2002年に通信制の放送大学教養学部教養学科に入学し、「生活と福祉」から「心理と教育」コースまで多ジャンルな科目を受講。現在も大学に籍を置きながら学びを継続している。 保有資格は秘書検定2級、調理師免許、FP技能士2級、ジュニア食育マイスター、宅地建物取引士(登録)、認定心理士、ITパスポート、家庭の省エネエキスパート検定合格など多数。プライベートでは、2016年からシングルマザーに。 著書や監修書も多く、最近では「お金を活かす ハッピーエンディングノート」(東京新聞)を監修。

さくらだ ようこ

桜田 容子

ライター

ライター。主に女性誌やウェブメディアで、女性の生き方、子育て、マネー分野などの取材・執筆を行う。2014年生まれの男児のママ。息子に揚げ足を取られてばかりの日々で、子育て・仕事・家事と、力戦奮闘している。

ライター。主に女性誌やウェブメディアで、女性の生き方、子育て、マネー分野などの取材・執筆を行う。2014年生まれの男児のママ。息子に揚げ足を取られてばかりの日々で、子育て・仕事・家事と、力戦奮闘している。