幼児期は勉強より遊びが大事! 「早期教育」が学力につながらないこれだけの理由

【今こそ学力観のアップデートをするとき】本当の学びとは何か#3「思考力を育てる遊び」

子どもは遊びからたくさんのことを学びます。  写真:アフロ
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「思考力」や「問題解決能力」には、「言葉の力」が大きく関係しています。幼児期に、こうした考える基礎になる「言葉の力」を育むためには、何が有効なのでしょうか。

世界的に著名な発達心理学者である今井むつみ先生は、就学前からドリルや問題集を解くことではなく、「たくさん遊ぶこと」だと断言します。

どんな遊びが「言葉の力」、そして「思考力」につながるのでしょうか。

第3回は、幼児期に言葉の力を育む「遊び」の効果、おもちゃ選びのポイントなどについてうかがいます。

※全6回の第3回

今井むつみ
慶應義塾大学環境情報学部教授。認知科学、特に認知心理学、発達心理学、言語心理学などを専門に研究。言語に関する研究から教育や学びにも関心を持ち、近年は一般読者向け書籍の執筆、講演活動にも力を入れている。また、国境を越えて学びを考えるコミュニティABLE(Agents for Bridging Learning and Education)をつくり、ワークショップなどを開催している。

「早期教育」は逆効果

「思考力」や「問題解決能力」には、「言葉の力」が大きく関係しています(#2を読む)。

これらの力は、今後社会を生きていく上で欠かすことのできない力です。就学前から鍛えるために、幼児教室に通わせて言葉の力を育てなければ! と考える方もいるかもしれません。

しかし、こうした先取り学習について、今井先生は「逆効果」だと警鐘を鳴らします。

#1でも触れましたが、人が『生きた知識』を獲得できるのは、その知識を自分で発見したときです。子どもを机の前に座らせて言葉や足し算・引き算などを教え、それらの問題を解く練習をさせたとしても、『思考力』や『問題解決能力』が育つことはありません。

このような勉強をさせれば、同じ単元の、非常に似た形式で同じ内容を問うテストを正解することはできるようになるでしょうが、ちょっと形式が変わったり、問題のシチュエーションが変わったりすると、解けないでしょう。応用がまったく利かないのです。

さらには、大人が『覚えさせよう』という姿勢で教えていくと、子どもは本来持っている興味や好奇心を失ってしまいます。結果や方法を教えられても、自分で発見したときのワクワクする気持ちを感じることができないため、自ら考えて学ぶことをしなくなってしまうのです。

つまり、早期教育で『死んだ知識』を詰め込むことは、効果が期待できないだけでなく、本来、子どもたちの中にある『学びへの意欲』を削ぎ、学習嫌いの子どもを生み出してしまうということです」(今井先生)

言葉の発達と「遊び」の深い関係

では、言葉の力を育み、思考力・問題解決能力を伸ばしていくために、幼児期に大切なのはどのようなことなのでしょうか。

「子どもの言葉の発達にとって、『遊び』は非常に大きな役割を果たしています。遊びで運動能力や創造力が育まれることはよく知られていますが、実は、『言葉の力』もそうなのです。

子どもは、遊びの中で五感を駆使して身の回りの世界と触れ合い、同時にたくさんの言葉を使います。そして、大人や子どもとたくさんコミュニケーションを取りながら、言葉への興味を育て、言葉を覚えていきます。

特に、『ごっこ遊び』と言葉の発達には、密接な関係があります。『ごっこ遊び』を通して、子どもはたくさんの『見立て』を行っています。木の葉が落ちていれば、器として使ったり、お金として使ったりして遊ぶことはよくありますよね。

こうした『見立てる』という行為は、『器とは食べ物を入れるもの』『お金とは何かを買うときに渡すもの』といった物の役割を子どもが理解した上で、木の葉に同じ役割を与えたということです。こうした力を『象徴能力』といいますが、これは言葉を学ぶために不可欠な力です。

実際に『ごっこ遊び』は、子どもの言葉の発達と連動しています。ごく小さいときは、子どもは哺乳瓶の形をしたおもちゃがないと人形にミルクを飲ませることができませんが、もう少し大きくなると、つみ木など他のおもちゃで代用するようになります。そして、物がなくても『ふり』だけでミルクをあげることができるようになるのです。

つまり、ごっこ遊びをすることで、言葉を学ぶために必要な力を育て、それによって言葉の力も育っているということです」(今井先生)

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