熊本発・探究学習で成績もアップ! 子どもたちに「生きた知識」が身についた理由

【小学校教育2.0】熊本市立弓削(ゆげ)小学校・松永先生の挑戦#2 「探究学習の成果」

こうした「問い」を立てる訓練は、探究学習だけでなく、普段の授業でも行うことができるといいます。

松永先生は、探究学習を始める前の昨年(2021年)度前半、一定の資料を示した後にみんなでその学習内容についての質問、疑問を考えるといった実践を、社会科の授業のなかで取り入れてきました。

有機栽培の大規模農場を取り上げ、みんなで疑問や質問を出し合いました。その後、希望者がテレビ電話で直接質問しました。  写真提供 松永賢斗氏

こうして子どもたちが少しずつ慣れてきたころに、プロジェクト型の探究学習を開始。まずは発表形式を、ポスター、動画などと一つに限定した探究学習を行い、その先に、#1のような発表形式も子どもたちで自由に決める、発展系の探究学習を行いました。

社会と国語の内容を横断的に扱う「クロスカリキュラム」では、防災ポスターの作成をプロジェクト型探究学習で行いました。  写真提供 松永賢斗氏
実際に完成した防災ポスター。子どもたちが自発的にお店を訪問、調査した内容が反映されています。  写真提供 松永賢斗氏

「選べる部分は多いほうがいいですが、慣れていないうちに『すべて自由にやっていいよ』と言われても、子どもたちは戸惑ってしまいます。

なので、段階を踏んで一緒に経験した後に、自分で選べるようにしています。

最終発表を、動画作成と決めて探究学習を行ったときの様子。  写真提供 松永賢斗氏

探究学習で経験した調査や発表の方法などは、子どもたちの中にしっかり残っていますね。一度学んだことは、次の学習で自然と生かしていることが多いです。

本当に『生きた知識(技術)』になっていると実感します」(松永先生)

特別支援学級の子どももいきいき学習

松永先生が2022年1学期に行ったプロジェクト型の探究学習(#1)には、実は、先生が担任を務めるクラスだけではなく、同学年の特別支援学級の子どもたち3名も参加していました。

当初、特別支援学級の担任の河津敬子先生は、探究型のプロジェクト学習に特別支援学級の子どもたちが取り組むのは難しいのではないか、と思われていたそうです。

河津敬子先生(特別支援学級担任)  写真提供 松永賢斗氏

しかし、実際に始めてみると、特別支援学級の子どもたちも、他の子どもと変わりなく、グループの友だちの力を借りながら自分のテーマをしっかりと深めていき、最後の発表までやり遂げることができました。

「グループをベースにして探究学習を行っていたので、友達の学んだ内容が自分のテーマの材料になることもあれば、自分の学びが相手の役に立つこともある。子どもたちは、これを肌で実感していたと思います。

だから、お互いの学びを尊重するし、グループの仲間が困っていれば積極的にサポートする、そんな雰囲気が広がっていました。

こうした信頼関係のなかで、子どもたちは、『特別支援学級の子だから』という意識ではなく、普通に助け合いながら、学びを進めているように見えました」(松永先生)

そして、一連の様子を見た特別支援学級の河津先生からは、こんなフィードバックをもらったといいます。

「(特別支援学級の子どもたちが)他の子たちの力を借りて新しいことができるようになる、という体験そのものに、大きな意味があったのではないかと思います。

普段、特別支援学級の子どもだけで過ごしていると、誰かを頼ろうとか、助け合おうという発想自体がありません。

探究学習で一緒に学んだことで、何かをするときは友達の力を借りてもいいんだ、と実感できたと思いますし、『共に学び合うって楽しい』というポジティブな感覚を持つことができたと感じます」

次のページへ 広がる「自分のペースで、ともに学び合う」授業
30 件