子どもの「やり抜く力」を「漫画」が育てる! マンガ研究家「厳選5作品」を親子で読もう!
マンガナイト代表理事・山内康裕さんに聞く学べる漫画 #1 やり抜く力を育む漫画5選「ブルーピリオド」「アオアシ」「NARUTO‐ナルト‐」「BLUE GIANT」「バンビ~ノ!」
2024.09.21
マンガナイト代表理事:山内 康裕
知識を得るだけでなく、人生を豊かに生きるヒントを教えてくれる「学習にもなるエンタメ漫画」が人気上昇中。
そこで、親子で楽しみながら学べる漫画を、東京工芸大学芸術学部マンガ学科非常勤講師であり、マンガ研究家の山内康裕さんに教えていただきました。
1回目は「やり抜く力」を育む漫画5選です。
山内康裕(やまうち・やすひろ)
2009年、マンガを介したコミュニケーションを生み出すユニット「マンガナイト」を結成し、2020年に法人化。「マンガと学び」の普及推進事業や、拠点営業「マンガピット」(日本財団助成)、展示事業等を展開。さいとう・たかを劇画文化財団代表理事、「これも学習マンガだ!」事務局長、東京工芸大学芸術学部マンガ学科非常勤講師なども務める。
トレンドは学習になるエンタメ漫画
──まずは、ここ数年(2024年現在)の漫画界のトレンドですが、学習漫画にもトレンドがあるのでしょうか?
山内康裕さん(以下、山内さん):10年数年以上前までは、学校で習う教科をわかりやすく漫画にした「学習漫画」と、一般の「ストーリー漫画」は、まったく別の分野と考えられていました。しかし、ここ数年はドラマ性がありながら学びにもなるストーリー漫画のニーズが高まっています。
理由は2つあり、1つめは、第一線で活躍している漫画家自身が教育的要素のある作品を書きたいと思っていること。また、そのように評価されるのを歓迎する意識の変化があります。
もう1つは、原作の監修者に30~40代の現役の研究者やスペシャリストが多いということです。彼らは幼いころから漫画に親しんでいるので、喜んで監修を引き受けてくれますし、最先端の知識や知見が作品のリアルな描写と質の高さにつながっています。
今や「学習にもなるエンタメ漫画」は、小・中学校だけでなく、むしろ高校の図書室にも多く普及していますよ。
──高校生に、進路や職業選びの指針として漫画を活用してほしいという狙いもありますよね。それでは、今回のテーマである、「やり抜く力」を育む漫画5選のご紹介をお願いします。
1.『ブルーピリオド』
あらすじ
成績優秀で世渡り上手、充実した毎日を過ごしつつも空虚な焦燥感を抱いている男子高校生・矢口八虎(やぐちやとら)。ある日、美術室で一枚の絵に感動を覚え、自らも描く悦びに目覚めて美術大学を目指す。作者が藝大出身ということもあり、リアルな受験の苦悩や美術にまつわるうんちくが満載、スポ根的な青春群像劇としても評価が高い。
山内さん:主人公は、自分でもよくわからない感動を覚えて美術の道に一歩踏み出す。そのとき、揺れる気持ちに対して、背中を押してくれる美術の先生が重要な役割を果たしています。
内山さん:「好きなことをする努力家はね 最強なんですよ!」と。そのひと言で、主人公は藝大を受験する決心を固めます。
理屈や頭で考えて選んだ進路というのは、つまずいたときに「自分は何が好きだったんだっけ」とか、「何のために続けているのか」と道に迷いがちです。
実は“やり抜く力”というのは、最初の衝動を思い出せるかどうか、初心に帰れるかどうかが“カギ”。その想いが、自分を再び立ち上がらせ、前進させる原動力に。
また、美術という分野はその人にもともと備わった感性やセンスがものをいう、みたいな思い込みがありますが、スポーツや他の分野と同じく、努力の積み重ねが大切なのは言うまでもありません。そのことを改めて示した作品でもあります。
2.『アオアシ』
あらすじ
愛媛県の公立中学で弱小サッカー部に所属する青井葦人(アシト)。強烈なサッカーのセンスを持ちながら、真っ直ぐすぎる性格が災いして挫折するが、「東京シティ・エスペリオンFC」ユースチームの監督・福田達也に見いだされて入団試験を受ける。Jリーグのユースチームを舞台に、プロの世界を目指す高校生たちの熱い戦いと葛藤、成長を描く。
山内さん:多くのスポーツ漫画は「努力」や「根性」がテーマの中心に据えられていますが、この作品は高校サッカー(ユース)からプロ選手になるための道筋がリアルに描かれています。
ただ闇雲に目標に向かって努力するのではなく、達成するには自分の特性を一つ一つ見極め、戦術を理解したり、努力の方向性を知るのも大事なこと。
監督やコーチなど、育成してくれる人に対して自分のことを説明し、どう実力をつけていくのか。あるいは、欠点を直していくのか。読んでいて、綿密なやり取りの積み重ねが、“やり抜く力”には不可欠だとわかります。
──自己解像度を高めることは、スポーツの分野はもちろん、勉強や仕事にも通じる大事な作業であるといえますよね。
山内さん:注目の展開としては、主人公のアシトは点を取るFW(フォワード)として活躍したいと思っているのに、監督はアシトの空間認識能力の高さを見いだして、むしろ守備であるSB(サイドバック)に転向させるんです。
山内さん:自分の得意分野と求められることのギャップ、実力が及ばないことによる挫折感など、主人公はさまざまな壁にぶち当たります。
最終的には「逃げてもどこにもたどり着けない」と、意志を持って、一歩また一歩と進んでいく。そんな主人公の姿に胸を打たれます。
3.『NARUTO‐ナルト‐』
あらすじ
木ノ葉隠れの里の落ちこぼれ忍者・うずまきナルトの夢は、いつか里一番の忍者「火影(ほかげ)」の名を受け継ぐこと。忍者学校(アカデミー)を舞台に、仲間やライバルと切磋琢磨しながら成長していくストーリー。各キャラクターの生い立ちや生き様にもドラマがあり、師との絆、友達を思う気持ちなどが感情豊かに織り込まれている。
山内さん:少年漫画の王道である「才能開眼」「努力」「友情」「勝利」がストーリーの根幹にあるのですが、読者の心に訴えかける言葉の強さが印象的な作品です。
「まっすぐ自分の言葉は曲げねえ。オレの忍道だ!」と、主人公のナルトは折に触れて言うのですが、その行動原理は大人になり、里の長「火影」になるまで貫かれます。
自分の言ったことは必ず実現させる。逃げない。そのために努力をする。そうすれば、次第に周りの人からも認められる。
時代は変わっても、どんな世界でも“やり抜く力”に必要なことは変わりません。ナルトの言う“忍道”とは「耐え忍ぶ」という意味でもあり、地道にがんばることの大切さを子どもたちにも読み取ってもらえたらと思います。
4.『BLUE GIANT』
あらすじ
ジャズに心打たれた高校3年生の宮本大は、川原でサックスを独り、何年も毎日吹き続けている。「世界一のジャズプレーヤーになる!」という無謀ともいえる目標に、真摯に向き合う物語。
山内さん:実績もない、プロとして食べていけるかも半信半疑。なのに、主人公はジャズへの熱い想いだけで現実を変えていきます。
人を魅了する力、感動させる力とは、技術ではなく熱量。主人公の熱い心に、周りの人々が次第に巻き込まれていきます。根拠がなくても、カラ元気かもしれないけれど、自分に自信を持つことが突破力につながると思わされます。
5.『バンビ~ノ!』
あらすじ
伴省吾は、福岡市内のイタリアンレストラン「サンマルツァーノ」でアルバイトしつつ、店を持つことを漠然と夢見る大学3年生。ある日、店のオーナーから、東京・六本木の店へのヘルプを勧められる。が、調理場のペースに全くついていけず、皿洗いに回されてしまい……。
山内さん:料理業界は華やかで楽しそうに見えて、実はものすごく体育会系。理不尽な思いをしながら、コツコツと努力し続けなければならない厳しい世界。
そのなかで主人公は、自分を高めるために一つ一つ細かい目標を設定して達成していきます。職人の世界における“やり抜く力”を、テンポよく、鮮やかに見せてくれる一作です。
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山内さんに「やり抜く力」を育む5作を選んでいただきました。
心の持ち方だったり、人との向き合い方、コミュニケーション力、目標設定の仕方など、さまざまな「やり抜く力」を、漫画をとおして学んでみてくださいね。
親子で読み、感想を言い合うのもおすすめです。
次回2回目では、「お金について学ぶ」をテーマに、引き続き山内さんに漫画4作を選んでいただきます。
お楽しみに!
取材・文/鈴木美和
鈴木 美和
フリーライター。千葉県出身。『dancyu』、『読売新聞』、『UOMO』などの雑誌や新聞、オンラインを中心に食の記事を寄稿。 出産を機に千葉県・房総に移住。2人の男児の子育てに奮闘する中で、育児の悩みや教育の大切さを実感したことから、現在は教育業界を中心に、取材や執筆活動を行っている。 地元の新鮮な食材を使って料理をするのが日々の楽しみ。
フリーライター。千葉県出身。『dancyu』、『読売新聞』、『UOMO』などの雑誌や新聞、オンラインを中心に食の記事を寄稿。 出産を機に千葉県・房総に移住。2人の男児の子育てに奮闘する中で、育児の悩みや教育の大切さを実感したことから、現在は教育業界を中心に、取材や執筆活動を行っている。 地元の新鮮な食材を使って料理をするのが日々の楽しみ。
山内 康裕
1979年生まれ。法政大学イノベーションマネジメント研究科修了(MBA inaccounting)。 2009年、マンガを介したコミュニケーションを生み出すユニット「マンガナイト」を結成し、2020年に法人化し「マンガと学び」の普及推進事業や拠点営業「マンガピット」(日本財団助成)、展示事業等を展開。 さいとう・たかを劇画文化財団代表理事、「これも学習マンガだ!」事務局長、東京工芸大学芸術学部マンガ科非常勤講師他を務める。 共著に「『ONE PIECE』に学ぶ最強ビジネスチームの作り方」(集英社)、『人生と勉強に効く学べるマンガ100冊』(文藝春秋)など。
1979年生まれ。法政大学イノベーションマネジメント研究科修了(MBA inaccounting)。 2009年、マンガを介したコミュニケーションを生み出すユニット「マンガナイト」を結成し、2020年に法人化し「マンガと学び」の普及推進事業や拠点営業「マンガピット」(日本財団助成)、展示事業等を展開。 さいとう・たかを劇画文化財団代表理事、「これも学習マンガだ!」事務局長、東京工芸大学芸術学部マンガ科非常勤講師他を務める。 共著に「『ONE PIECE』に学ぶ最強ビジネスチームの作り方」(集英社)、『人生と勉強に効く学べるマンガ100冊』(文藝春秋)など。