日本語ができなくても笑いあえた 外国ルーツの子どもが抱える困難と心の居場所

吉川英治文化賞受賞・小林普子さんに聞く「外国にルーツを持つ子どもたちの教育支援」第3回

ライター:太田 美由紀

卒業生の夢は「いつかこんな居場所をつくること」

4月11日、吉川英治文化賞の授賞式。受賞者の招待枠には、こどもクラブ新宿の卒業生たちの姿もありました。

「帝国ホテルの懇親会なんて、貴重な機会だから子どもたちにきてほしいと思って」と、小林さんが声をかけたのです。受賞者が一人一人スピーチする中、小林さんはこんなことを話しました。

「これまで、日本語が十分でない中で学校に通う子どもたちと共に活動してきました。このたび、このような賞をいただき、その子どもたちに光を当てることができた。

私が関わってきた子どもたちが日本でいきいきと生きていける社会になればと思っています。子どもたちに、いっぱいいろいろなものをいただきました。ありがとうございました」(小林さん)

吉川英治文化賞の授賞式でスピーチする小林普子さん。

そう言って声を詰まらせる小林さんを見て、その場に集まった卒業生たちも涙を浮かべていました。

「小林先生の声を聞くと、先生のところに通っていたころのことを思い出します。あのとき出会った友達とは今もずっとつながっています。

その友達と一緒にいつか、小林先生が作ってくれたような、みんなが気軽に集まれるような居場所を作りたい。

みんな歳をとると、きっと自分の人生だけでいっぱいいっぱいになってしまうけど、そういう居場所があればいつでも帰ってこれるでしょう? だから、今、仕事大変だけど、頑張ってお金貯めているんです」(渡辺さん)

そんな卒業生の夢を知ってか知らずか、小林さんは取材の最後に、子どものように笑ってポロリとこんなことをこぼしました。

「正直なところ、そろそろやめて、空き家になっている愛知県の実家で田舎暮らししたいなとも思うんです。やっぱり田舎育ちだからね。そういうところでのんびり暮らしたい。

そう思っていたらこんなに大きな賞をいただいちゃって。すぐにやめるわけに行かないから、あと数年は頑張らなきゃね」(小林さん)

小林さんの活動は、「外国にルーツがある子どもたち」に特化したものですが、その活動を取材していると、日本の子どもたちが抱えるたくさんの問題とのつながりが見えてきます。

子どもの貧困、シングルの子育て、ヤングケアラー、発達障害──。すべての子どもたちがよりよい人生を送るために、私たちに何ができるのでしょうか。

本来すべての子どもたちに保障されるべきことが保障されていない。必要な情報が必要な人に届く環境を整え、支え合える人とのつながりや本当の自分でいられる場所が、公的にも、民間でも、少しでも増えていくことが望まれます。

※1 吉川英治文化賞=公益財団法人・吉川英治国民文化振興会が主催する〈吉川英治賞〉のなかで、日本の文化活動に著しく貢献した人物、並びにグループに対して贈呈されるのが文化賞。他に、吉川英治文学賞、吉川英治文学新人賞、吉川英治文庫賞がある。

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こばやし ひろこ

小林 普子

Hiroko Kobayashi
NPO法人「みんなのおうち」代表

1948年、愛知県生まれ。NPO法人「みんなのおうち」代表。 2000年ごろから日本語・教育支援のボランティアを始める。2004年から大久保小学校で親子日本語教室立ち上げに関わる。2005年、NPO法人「みんなのおうち」設立。2007年に外国にルーツを持つ子どもを対象とした日本語・学習支援教室「こどもクラブ新宿」(新宿区の協働事業制度利用、のちに新宿区の事業)を立ち上げ、2017年から同地域(新宿区大久保)に居場所「みんなのおうち」も開設、現在に至る。 第57回(令和5年度)吉川英治文化賞を受賞。

1948年、愛知県生まれ。NPO法人「みんなのおうち」代表。 2000年ごろから日本語・教育支援のボランティアを始める。2004年から大久保小学校で親子日本語教室立ち上げに関わる。2005年、NPO法人「みんなのおうち」設立。2007年に外国にルーツを持つ子どもを対象とした日本語・学習支援教室「こどもクラブ新宿」(新宿区の協働事業制度利用、のちに新宿区の事業)を立ち上げ、2017年から同地域(新宿区大久保)に居場所「みんなのおうち」も開設、現在に至る。 第57回(令和5年度)吉川英治文化賞を受賞。

おおた みゆき

太田 美由紀

編集者・ライター

1971年大阪府生まれ。早稲田大学第一文学部卒業。雑誌編集部を経て独立。育児、教育、福祉を中心に、誕生から死まで「生きる」を軸に多数の雑誌、書籍に関わる。NHK Eテレ『すくすく子育て』の番組制作やテキスト制作に関わる(2020年まで)。 2011年より新宿区教育委員会・家庭教育ワークシートプロジェクトメンバー。2017年保育士免許取得。子育てコーディネーターとして相談現場でも活動。「人間とは何か」に迫るため取材・執筆を続けている。 初の自著『新しい時代の共生のカタチ~地域の寄り合い所 また明日』(風鳴舎)重版出来、好評発売中。 ●『新しい時代の共生のカタチ~地域の寄り合い所 また明日』公式HP

1971年大阪府生まれ。早稲田大学第一文学部卒業。雑誌編集部を経て独立。育児、教育、福祉を中心に、誕生から死まで「生きる」を軸に多数の雑誌、書籍に関わる。NHK Eテレ『すくすく子育て』の番組制作やテキスト制作に関わる(2020年まで)。 2011年より新宿区教育委員会・家庭教育ワークシートプロジェクトメンバー。2017年保育士免許取得。子育てコーディネーターとして相談現場でも活動。「人間とは何か」に迫るため取材・執筆を続けている。 初の自著『新しい時代の共生のカタチ~地域の寄り合い所 また明日』(風鳴舎)重版出来、好評発売中。 ●『新しい時代の共生のカタチ~地域の寄り合い所 また明日』公式HP