子どもの「不登校」に悩む親へ 発達脳科学者が「学校より家が大切 心配よりも信頼を」と助言

シリーズ「不登校のキミとその親へ」#3‐4 小児科医・発達脳科学者・成田奈緒子先生~子育ての究極の目標と家庭の役割~

小児科医・医学博士・発達脳科学者:成田 奈緒子

成田先生が代表を務める「子育て科学アクシス」にて。アクシスルームには大人と子どもが一緒に遊べるようなゲームがたくさん置かれている。  写真:日下部真紀
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小中学校の不登校は約30万人(2022年度文科省調べ)と過去最多。不登校児を抱える親の多くは「学校に行くのは当然」と教えられてきた世代だけに、我が子の不登校に戸惑い、悩む人も多いでしょう。

新しい価値観と、自分たちに刷り込まれた古い価値観が錯綜する今、どのように子育てするのが子どものためになるのか。小児科医で発達脳科学者として、臨床と研究を続けてきた成田奈緒子先生に教わりました。

※4回目/全4回(#1#2#3を読む)

成田奈緒子PROFILE
小児科医・医学博士・発達脳科学者。公認心理師。子育て科学アクシス代表。文教大学教育学部教授。臨床医、研究者の活動を続けながら新しい子育て理論を展開。『「発達障害」と間違われる子どもたち』(青春出版社)、『高学歴親という病』(講談社)、『山中教授、同級生の小児脳科学者と子育てを語る』(共著、講談社)などがベストセラーに。

ヘリコプターで知らない町に我が子を置いたら

子どもの幸せを願わない親はいません。幸せを願って、ああでもないこうでもないと迷いながら、子育てをしていきます。

だけど子育てって、幼いころも成長してからも、親の思いどおりにいくことなんてほとんどありませんよね。親の望みを子どもに押しつけようとすればするほど、子どもは違う方向に行ってしまいます。

2014年に私が仲間と立ち上げ、独自の子育て支援サポートをしている「子育て科学アクシス」(以下アクシス)には、子育てに不安や悩みを抱えた親御さんがたくさん訪れます。高校生以上であれば子ども自身が相談に来ることもあります(※原則として小中学生の子どもは対象外)。

子ども自身も、親以上に不安や悩みを抱えています。学校とはどうしても合わない子もいるし、学校に行きたいと思ってはいるけど行けない子もいます。たくさんお話はしますけど、カウンセリングは原則ではしていません。

親御さんは、これまで刷り込まれてきたことでがんじがらめになっています。ワークショップで勉強してもらって、親の役割や子どもとの関わり方をあらためて考えてもらう。そういう活動をしています。

私たちの究極の目標は、子どもをヘリコプターで見知らぬ町に連れていってポトンと落としてきても、きっと生き延びることができると、親が確信を持てるようになることです。

言葉がわからなくたって、身振り手振りでコミュニケーションを取り、住むところを探したりお金を稼ぐ方法を見つけたりできる。困ったときには「助けて」が言えて、助けてもらったときには笑顔で「ありがとう」と感謝を伝えられる。間違ったら、ヘンな意地を張らずに「ごめんなさい」と謝れる。

そういうことがちゃんとできる子なら、どこに行っても大丈夫だと親は確信できます。その心境に至ることが、子育ての究極の目標と言ってもいいでしょう。二次関数や三次関数がいくら解けても、知らない町で生きていく役には立ちません。

周囲と同じじゃないことはその子の武器になる

アクシスに来た最初のころは、「高校に行くなんて絶対に無理」と言っていた中学生の子がいました。その後、親が変化していくにつれて気持ちが安定し、自分の未来に目が向くようになっていく。

その子は「調べてみたら、中卒と高卒とでは給料がぜんぜん違うんだよね」と言って、また学校に通って勉強し、高校に入学しました。「こういう仕事をしたいから、大学の○○学部を目指したい」と学校に行き始めるパターンもあります。

自分で考えて、自分で答えを出して、それに向かって行動できるようになったら、もう大丈夫です。まわりと同じタイミングじゃなくても、ぜんぜんかまわない。勉強したくなったときが、その子にとっての最適なタイミングです。

学校に行くことだけが、その子にとっての“正解”ではありません。周囲とはタイミングが違っていても、行きたくなったら高校でも大学でも行けます。

「普通」というレールに乗って何となく進学していく子と、自分で「行きたい」と思って入学した子、どっちが多くのものを学べるか、言うまでもありませんよね。

周囲と同じじゃなくてはみ出しているというのは、むしろその子の大きな武器になるんです。

友達がいなくても大丈夫

学校に行ってないと、友達ができないんじゃないかって心配する親御さんもいます。私に言わせれば、中学や高校の友達関係ってフェイク(偽物)に過ぎません。

とくに女子の友達関係。たまたま同じクラスになっただけで「私たち、友達よね」なんて言い合ってるだけです。卒業してからもつき合いが続くことはほとんどない。そんな「友達」なんて、いてもいなくてもかまいません。

本当に心が通じ合って価値観も似通っている人って、人生で1人か2人しか見つからないんじゃないかって、私は思ってます。学校に行かなかったから友達が少ないなんて、まったく気にする必要はありません。うわべの付き合いが上手になるのは、むしろ友達付き合いが下手になることだと言えます。

友達とのトラブルが原因で不登校になる子も多い。それは、家庭の中で「友達なんていなくても大丈夫」という価値観を作り上げてもらってないからです。人間関係の行き違いやトラブルは昔からあって、この先も残念ながらあり続けるでしょう。

家庭の外で嫌なことや困ったことがあっても、家に帰れば家庭の中で自分の役割がある、価値を感じられるということが、ものすごく大事。

自分がいないとこの家は回らないんだという自信があったら、外で嫌なことがあっても何とかなるんです。

子育てで大事なのは親が役割を手放すこと

子育てって、赤ん坊から幼児、幼児から小学生、小学生から中学生へと成長していくにつれて、だんだんラクになるはずじゃないですか。

でも、多くの親御さんは、子どもが成長していくにつれて、心配が増えて苦しくなっていく。とくに母親に顕著ですね。

それは、すべてを自分が背負い込んでいるから。子どもに対して、どうして私の言うとおりにしてくれないのか、こんなに心配しているのになぜわかってくれないのかと思ってしまう。

我が子が靴下を裏返したまま洗濯機に入れたりすると、腹が立って仕方がない。逆に、裏返して入れないと腹が立つ人もいるみたいですけど、まあどっちでもいいじゃないですか。洗えば汚れは落ちますから。

子育てで大事なのは、親が自分の役割を手放すことです。許容範囲を広げていくことだと言ってもいい。

そうすれば洗濯機の中の靴下が裏だろうが表だろうが、どっちでもいいと思えるようになります。子どもがやろうとしていることに対して、いちいち先回りしてキリキリしていないで、ほったらかしておけるようにもなるでしょう。

「子育てとは何か?」と聞かれたら、私は迷わず「子育てとは『心配』を『信頼』に変える旅です」と答えます。

小さいころは、親がスプーンを子どもの口もとに差しだしてご飯を食べさせていたけど、やがてひとりで食べられるようになる。もっと大きくなれば、見ていなくても大丈夫と信頼できるようなります。

心配だからって、いつまでも「はい、あーん」とスプーンを差し出してあげるわけにはいきません。でも、手を放すことができない親は、すべてにおいて似たことをしてしまいます。

たくさんの「心配」をひとつひとつ「信頼」に変えていく。一筋縄ではいかない長い旅ではありますが、間違いなく楽しい旅でもあります。

宿題に最後までつきそう、スマホやゲームを親が管理するなど、よくある親の行動が子どもの脳には逆効果だと成田先生が指摘。子育てが劇的にうまくいく45の方法を解説する『誤解だらけの子育て』(扶桑社新書)。

取材・文/石原壮一郎

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なりた なおこ

成田 奈緒子

Naoko Narita
小児科医・医学博士・発達脳科学者

小児科医・医学博士・発達脳科学者。公認心理師。子育て科学アクシス代表。1963年、仙台市生まれ。神戸大学医学部卒業後、米国セントルイスワシントン大学医学部や筑波大学基礎医学系で分子生物学・発生学・解剖学・脳科学の研究をする。2009年より文教大学教育学部教授。臨床医、研究者としての活動も続けながら、医療、心理、教育、福祉を融合した新しい子育て理論を展開している。 『誤解だらけの子育て』(扶桑社新書)、『その「一言」が子どもの脳をダメにする』(SBクリエイティブ)、『「発達障害」と間違われる子どもたち』(青春出版社)、『高学歴親という病』(講談社)、『山中教授、同級生の小児脳科学者と子育てを語る』(共著、講談社)など著書多数。 ●子育て科学アクシス

小児科医・医学博士・発達脳科学者。公認心理師。子育て科学アクシス代表。1963年、仙台市生まれ。神戸大学医学部卒業後、米国セントルイスワシントン大学医学部や筑波大学基礎医学系で分子生物学・発生学・解剖学・脳科学の研究をする。2009年より文教大学教育学部教授。臨床医、研究者としての活動も続けながら、医療、心理、教育、福祉を融合した新しい子育て理論を展開している。 『誤解だらけの子育て』(扶桑社新書)、『その「一言」が子どもの脳をダメにする』(SBクリエイティブ)、『「発達障害」と間違われる子どもたち』(青春出版社)、『高学歴親という病』(講談社)、『山中教授、同級生の小児脳科学者と子育てを語る』(共著、講談社)など著書多数。 ●子育て科学アクシス

いしはら そういちろう

石原 壮一郎

コラムニスト

コラムニスト。1963年三重県生まれ。月刊誌の編集者を経て、1993年に『大人養成講座』でデビュー。以来、数多くの著作や各種メディアでの発信を通して、大人としてのコミュニケーションのあり方や、その重要性と素晴らしさと実践的な知恵を日本に根付かせている。女児(2019年生まれ)の現役ジイジ。 おもな著書に『大人力検定』『コミュマスター養成ドリル』『大人の超ネットマナー講座』『昭和だョ!全員集合』『大人の言葉の選び方』など。故郷の名物を応援する「伊勢うどん大使」「松阪市ブランド大使」も務める。ホンネをやわらげる言い換えフレーズ652本を集めた『【超実用】好感度UPの言い方・伝え方』も大好評。 林家木久扇がバカの素晴らしさを伝える『バカのすすめ』(ダイヤモンド社)では構成を担当。2023年1月には、さまざまな角度のモヤモヤがスッとラクになる108もの提言を記した著書『無理をしない快感 「ラクにしてOK」のキーワード108』(KADOKAWA)が発売。 2023年5月発売の最新刊『失礼な一言』(新潮新書)では、日常会話からメール、LINE、SNSまで、さまざまな局面で知っておきたい言葉のレッドラインを石原壮一郎氏がレクチャー。 写真:いしはらなつか

コラムニスト。1963年三重県生まれ。月刊誌の編集者を経て、1993年に『大人養成講座』でデビュー。以来、数多くの著作や各種メディアでの発信を通して、大人としてのコミュニケーションのあり方や、その重要性と素晴らしさと実践的な知恵を日本に根付かせている。女児(2019年生まれ)の現役ジイジ。 おもな著書に『大人力検定』『コミュマスター養成ドリル』『大人の超ネットマナー講座』『昭和だョ!全員集合』『大人の言葉の選び方』など。故郷の名物を応援する「伊勢うどん大使」「松阪市ブランド大使」も務める。ホンネをやわらげる言い換えフレーズ652本を集めた『【超実用】好感度UPの言い方・伝え方』も大好評。 林家木久扇がバカの素晴らしさを伝える『バカのすすめ』(ダイヤモンド社)では構成を担当。2023年1月には、さまざまな角度のモヤモヤがスッとラクになる108もの提言を記した著書『無理をしない快感 「ラクにしてOK」のキーワード108』(KADOKAWA)が発売。 2023年5月発売の最新刊『失礼な一言』(新潮新書)では、日常会話からメール、LINE、SNSまで、さまざまな局面で知っておきたい言葉のレッドラインを石原壮一郎氏がレクチャー。 写真:いしはらなつか