祝GIGAスクール元年! コロナ禍で加速したニューノーマルな学校生活とは
教育情報化後進国ニッポンの教育はどう変わる?|デジタルネイティブの育て方#1
2021.04.05
いま、全国の学校現場でタブレットやPC端末が児童・生徒に配布されていることをご存知でしょうか? 文部科学省は、令和5年達成を目指して「GIGAスクール構想」をすすめてきました。生徒ひとり1台の端末配布、学校のネットワーク環境整備などを支援するものです。コロナ禍によって前倒しですすめられ、令和3年はGIGAスクール元年となりました。これから子どもたちの学びがどう変わっていくのか、国際大学GLOCOM主幹研究員で教育学者の豊福晋平先生にお話をうかがいました。
「電子立国日本」も今は昔 コロナで露呈した「教育情報化後進国」
「日本は技術大国・教育大国だから、教育情報化も先進的でしょう?」——教育学者として、教育のICT(Information and Communication Technology=情報通信技術)化などを研究する豊福晋平先生は、リサーチで訪れた諸外国の学校現場でくり返されるこの質問に、たびたび困惑してきました。
「実際のICT学習活用度スコアを調べると、日本はトップランナーどころか最底辺にいます。特にこの10年で、諸外国に大きく差をつけられてしまいました。これに危機感をもって、やっと動き始めたのがGIGAスクール構想です。次世代を育てる大人は、まずこの危機感を共有しなくてはいけません」(豊福晋平先生)
現在の日本では、多くの家庭にWi-Fiが整備され、PCやモバイル端末が身近にあります。子どもたちも、物心ついたときからスマホで写真を撮ったり、YouTubeを観たり、Skypeで祖父母と交流したりと、デジタルネイティブとして育っているはずです。
それなのに、コロナ禍で世界中の学校がオンライン授業に切り替わったなか、日本の多くの学校は苦戦を強いられました。学校だけがデジタルの世界から遠く離れた陸の孤島のようになっていたのです。
「これまで、日本の学校はデジタルを“危険なもの”として扱ってきました。基本的にICTは先生が使うものであり、子どもたちが年に数回だけ、先生の監視下で使わせる“教具”でしかなかったのです。これが、日本が諸外国に出遅れた大きな要因です。
もはや学校は、『デジタルにまみれた世俗から隔絶された聖域』をきどってはいられません。ひとり1台配られる端末を、教員の“教具”ではなく、子どもたちが主体的に使える“文具”にしていかなければならないのです」(豊福晋平先生)
お道具箱の中に、えんぴつやノートと一緒にタブレット端末が入っている。そんな未来がもう現実になりつつあります。では、これまで通りに紙とえんぴつを使った学びだけでは、なにが足りないのでしょうか?
「現代の子どもたちが生きているのは、将来が予測不能な情報社会です。ICTスキルは個人の資質・能力と一体化します。20年後、子どもたちが社会に出た時に、求められる職能も変わっていくでしょう。
どんな未来にも対応できる力を育むために、公教育も変わらなければいけません。標準カリキュラムを効率よく提供する教育から、個別最適な学びへの転換。そのためにも、ICTの活用は必須なのです」(豊福晋平先生)
<ボストン在住ママに聞く! ICT教育の実際>
「コロナ以前から、iPadがひとり1台支給されていたので、オンライン授業への移行はスムーズでした。休校中は、1日3回のZoom授業のほか、お友だちとおしゃべりをする時間もあって、ストレスも少なかったようです」(ボストン在住保護者)
Zoom授業以外に注目なのが、Flipgridという教育向けの動画共有アプリを使った“発表会”。オンラインでは不向きと思われていた「発表」の授業も、難なく行われていたのです。
「たとえば、 “好きな偉人”とテーマが出たら、それぞれ調べたことを動画にして、Flipgridで共有するんです。このとき、偉人の仮装をしてプレゼンするルールになっていて、娘はツタンカーメンになりました(笑)。クラスメイトも、アンネ・フランクやトーマス・ジェファーソンなど、工夫をこらした仮装で、全員の動画を楽しく見ていましたね」(ボストン在住保護者)
また、iPadを使った学力考査も広く行われています。代表的なのが、“MAP(Measures of Academic Progress)テスト”。全国共通テストのようなもので、マサチューセッツ州だけでなく、全米のほとんどの州で採用されています。
「4年生の娘は、math(算数)、reading(読解)、language(文法)の3教科を受けました。MAPテストは、正答が続くと問題の難易度が上がるようにプログラムされています。つまり、同時に試験を受けていても、個人のレベルに合わせて問題が変わる “コンピューター適応型テスト”なんです。難しい問題が解ける子には、学校では習っていない中学生レベルの問題も出ます」(ボストン在住保護者)
ちなみに、このMAPテスト、その結果で公立学校のランキングが決まることもあり、上位校の先生や保護者は一丸となって受験生を応援することでも知られています。
「試験日には保護者が軽食の差し入れをして受験生を応援するという話も聞きました。娘の学校は私立なのでそこまで盛り上がりませんが、MAPテストが近づくと宿題も減りますし、前日には『早く寝るように』と、先生からお達しがあります。高学年になると、このテストで能力別のクラス編成になるそうです」(ボストン在住保護者)
ICT利用で、テストまで個別最適化されているとは……。しかも、全米規模の大きなテストです。やっとGIGAスクールが始まったばかりの日本からは、映画のような未来の教育に見えます。
今後は日本でも教育のICT化がどんどん進んでいきます。保護者世代が未経験の “GIGAスクールライフ”を、いたずらに恐れることなく、ICTを武器に未来を生きる子どもたちの応援をしていきたいものです。
取材・文/湯地真理子
豊福 晋平
国際大学GLOCOM主幹研究員/准教授。修士(教育学)。1967年北海道生まれ。横浜国立大学大学院教育学研究科修了、東京工業大学大学院総合理工学研究科博士課程中退。 専門は学校教育心理学・教育工学・学校経営。教育の情報化をテーマに研究を続けるとともに、学校におけるプログラミング教育やGIGAスクール構想などへの提言も積極的に行っている。 豊福晋平HP
国際大学GLOCOM主幹研究員/准教授。修士(教育学)。1967年北海道生まれ。横浜国立大学大学院教育学研究科修了、東京工業大学大学院総合理工学研究科博士課程中退。 専門は学校教育心理学・教育工学・学校経営。教育の情報化をテーマに研究を続けるとともに、学校におけるプログラミング教育やGIGAスクール構想などへの提言も積極的に行っている。 豊福晋平HP