子どもの探究心や学習意欲を引き出す「ナビゲーション」 親の人生観も変えるスゴい効果とは

【今こそ学力観のアップデートをするとき】子どもの好奇心が爆発する親の接し方#4 大人も子どもも変えるナビゲーション

自己肯定感と自信を育むナビゲーション

では、ナビゲーションを受けて育った子どもたちは、どのような道に進んでいるのでしょうか。

炭谷氏が運営するラーンネット・グローバルスクール(以下、ラーンネット)は、子どもの興味や好奇心を出発点にした学びを行い、ナビゲータが子どもをよく観察して必要に応じてサポートしています(#1を読む)。

ラーンネットで小学校や中学校時代を過ごした子どもたちは現在、経営コンサルタント、ITエンジニア、医者、農業経営者、音楽プロデューサーなど、多様な職業に就いています。ラーンネット卒業後も自信を持って自分の進路を選び、それぞれの場所で活躍しています。

酪農に興味を持ち、牧場経営をしている卒業生もいます(右側が卒業生)。  写真提供:ラーンネット・グローバルスクール

「卒業生の一人は、『ラーンネットで好きなことに徹底的に取り組み、それが自分の原点になっている』と話していますね。ラーンネットには『とことん!』という名前の探究プログラムがあり、そこでは子どもたちが具体的な目標を立てて、好きなことに取り組んでいきます。

その時間に彼は1年間ひたすら穴を掘って、大人が10人くらい入れる大きな秘密基地のような場所を作ったんです。左右両方から掘っていた穴を貫通させ、その後は天井に木の板を張って補強するなど、とても子どもだけで作ったとは思えない完成度でした。

穴を掘り始めた当時の様子。  写真提供:ラーンネット・グローバルスクール

彼は上智大学に進学し、学生時代もサークル同士をつなぐプラットフォームを作ったり、イベントを企画したり、いろいろな人を巻き込みながらたくさん活動をしたと聞いています。現在は、そうした人と人を結びつける経験を生かして、外資系の会社で経営コンサルタントとして活躍しています」(炭谷氏)

以前、彼の大学の同級生が、ラーンネットに見学に来たことがありました。

「自分の友だちですごい子がいて、どうやったらこんなふうに育つのか知りたくて見に来た、と言うんです。それまで誰もやらなかったことをどんどん形にしていったので、周りも驚いたようですね。

なぜそんな前例のない動き方ができたかというと、本人は『ひたすら穴を掘ったから』だと言っていますね。『あんなに難しいことを小学生時代にできたんだから、自分は何でもできる』と。

大人から止められたり否定されたりせず、好きなことに徹底的に打ち込む経験は、自己肯定感・効力感をものすごく高めるんですね。それはその後の人生にとっても役に立つ、大きな力になるんだと改めて実感しました。

同時に、大人が子どものやりたいことを尊重して、サポートや応援をするナビゲーションの意義を再確認しました」(炭谷氏)

ラーンネットには、やりたいことを追求する時間がたくさんあります。  写真提供:ラーンネット・グローバルスクール

ちなみに、ラーンネットには、前述の探究学習「とことん!」のほかにも、テーマ学習やプロジェクト学習、さらには基礎学習の時間もあります。何の制限もなく、好きなことだけをしてすごしているわけではありません。ですが、決められた内容を学ぶ基礎学習の時間も、子どもたちは主体的に学びに向かうといいます。

「好きなことをじっくりできる時間があれば、子どもは意外と基礎学習にも真面目に取り組みますよ。計算や漢字など嫌いな子が多いイメージのある学習も、自分に合った方法を選択できれば楽しみながら学んでいきますね。

何度も申し上げますが、やり方やペースを強制するから嫌いになってしまうだけで、最初から学ぶこと自体が嫌いなわけではないんです」(炭谷氏)

親も探究することが必須!

ラーンネットで25年以上実践されている「ナビゲーション」。好きなこと、やりたいことを尊重することで子どものエネルギーを引き出す関わり方は、社会に出ても「自分自身で人生を切り開く力」となっていることがわかりました。

最後に、親が「ナビゲータ」として子どもと関わる上で、もう一つ「忘れてはいけない視点」を炭谷氏に教えてもらいました。

「親御さんご自身に好きなこと、やりたいことがあること。それにイキイキ取り組んでいる姿を見せること。見落としがちですが、実はこれがものすごく重要です。子どもに探究してほしいなら、自分から学んでほしいなら、まずは自分が素敵な探究者になることですね」(炭谷氏)

子どもは大人をよく見ているので、自分でやっていないことを子どもにやらせようとしていれば、説得力がないと感じてしまい、信頼関係を築くことはできません。

「子どもは自分のことをわかってくれた上で、その人の視点や経験からアドバイスしてくれる人を信用するんです。ただ一方的に話を聞いているだけ、子どもに合わせているだけでは信頼されません。

ですから、親も自分が好きなことを探究し、そこから考えを共有したり、時にはしっかりと『こう思うよ』と意見を伝えたりしてください。そういうコミュニケーションを続けていれば、信頼し、尊敬し合う関係になり、子どもも安心して自分の好きなことを探究するようになります」(炭谷氏)


探究ナビ講座(基礎編)に参加すると、確実に子どもを見る目や捉え方が変わります。日々の生活で好きなゲームや動画を否定せず、子どもの話をよく聞いてみる。そうすると、新しい発見がたくさんあるのです。

「宿題はめんどくさい」「勉強なんてつまらない」と言う子にも、積極的に学ぶ教科や張り切って取り組む時間があります。それを認め、興味を持って聞いてあげるだけで、子どものエネルギーは高まります。

そうやって子どもと丁寧に向き合い続けるためには、炭谷氏が言うように、親もありのままの自分を認め、人生に向き合っていくことが大切なのかもしれません。その先に、大人も子どもも幸せに生きられる社会があるのではないでしょうか。

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【炭谷俊樹 プロフィール】
ラーンネット・グローバルスクール代表。神戸情報大学院大学学長。1960年神戸市生まれ。マッキンゼーにて10年間日本及び北欧企業のコンサルティングに携わる。新人コンサルタント採用・研修の責任者も担当。デンマークの社会や教育に感銘したことがきっかけとなり、1996年に神戸で子どもの個性を活かす「ラーンネット・グローバルスクール」を開校。1997年、大前研一氏とともに企業のビジネスリーダー育成事業を創業、2005年よりビジネス・ブレークスルー大学大学院経営学研究科教授(2010年より客員教授)。2010年に神戸情報大学院大学学長に就任。3歳の幼児から企業のエグゼクティブまで幅広い年齢対象で、探究型の教育を実践している。東京大学大学院理学系研究科修士(物理学専攻)。著書に『第3の教育』(角川書店)『ゼロからはじめる社会起業』(日本能率協会マネジメントセンター)などがある。学びを探究するメディア『Q』責任編集。

取材・文 川崎ちづる

【子どもの好奇心が爆発する親の接し方】の連載は、全4回。

第1回を読む。
第2回を読む。
第3回を読む。

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かわさき ちづる

川崎 ちづる

Chizuru Kawasaki
ライター

ライター。東京都内で2人の子育て中(2014年生まれ、2019年生まれ)。環境や地域活性化関連の業務に長く携わり、その後ライターへ転身。経験を活かし、環境教育や各種オルタナティブ関連の記事などを執筆している。WEBコラムの他、環境系企業や教育機関などのPR記事も担当。

ライター。東京都内で2人の子育て中(2014年生まれ、2019年生まれ)。環境や地域活性化関連の業務に長く携わり、その後ライターへ転身。経験を活かし、環境教育や各種オルタナティブ関連の記事などを執筆している。WEBコラムの他、環境系企業や教育機関などのPR記事も担当。