「勉強しなさい」が子どものやる気を潰す…元マッキンゼーの教育者が指摘する「親の思い込み」

【今こそ学力観のアップデートをするとき】子どもの好奇心が爆発する親の接し方#1 子どものやる気を奪う大人の思い込み

子どもがやる気を見せないのは、親の接し方のせいかもしれません。  写真:アフロ
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AIの発達が目覚ましい近年、これからの社会を生きる子どもたちには思考力や創造力が不可欠といわれ、それらを育てる「主体的な学び」や「探究学習」に注目が集まっています。

一方で、目の前の子どもを見ると「主体的」とは程遠い状況……。ダラダラとゲームや動画視聴を続け、なかなか宿題をしないと悩む方も多いのではないでしょうか。

どうしたら子どもが自らやる気になるのか。親にとって、それが今一番知りたいことかもしれません。

そこで本連載では、27年前にゼロからマイクロスクール「ラーンネット・グローバルスクール」を立ち上げて探究的な学びを実践し、子どもたちの“好奇心を爆発させる瞬間”に何度も立ち会ってきた炭谷俊樹氏(元マッキンゼーコンサルタント)にインタビュー。

さらに、炭谷氏が親や教育関係者向けに開催している「探究ナビ講座」も取材し、子どもの意欲や好奇心を引き出す考え方、具体的な方法論などについてうかがいました。

※全4回の第1回

【炭谷俊樹 プロフィール】
ラーンネット・グローバルスクール代表。神戸情報大学院大学学長。マッキンゼーにて10年間日本及び北欧企業のコンサルティングに携わる。デンマークの社会や教育に感銘したことがきっかけとなり、1996年に神戸で子どもの個性を活かす「ラーンネット・グローバルスクール」を開校。3歳の幼児から企業のエグゼクティブまで幅広い年齢対象で、探究型の教育を実践している。

【子どもの好奇心が爆発する親の接し方:第2回 第3回 第4回を読む】
※公開日までリンク無効

親の「勉強しなさい」が子どものやる気を潰している

子どもに自ら勉強してほしいと思いつつ、実際は言わないとやらないから……と口を出し、ついつい喧嘩をしてしまう。どこの家庭にも起こっている日常の風景だと思います。子どもが自分でやる気を出し、言われなくても勉強するためにはどうしたらいいのでしょうか。

「まずは親が『勉強しなさい』『◯◯ばかりやっていないで宿題しなさい』といった声がけをやめることですね」

炭谷氏はこう断言し、次のように続けます。

ラーンネット・グローバルスクール代表の炭谷俊樹さん。  写真提供:ラーンネット・グローバルスクール

「勉強であれその他のことであれ、大人が子どもの意志を無視して無理やり何かをさせることに、何の意味もありません。むしろ、マイナス面のほうが圧倒的に大きいです。

宿題しない子を𠮟ってしまうというのは、よくあるお悩みですよね。でも、子どもの立場に立って考えてみてほしいんです。好きなことに熱中しているとき、ワクワクしながら楽しんでいるときに『そんなことばかりやって』と否定され、さらには強制的に中断させられたら……。

これってすごくつらいと思いませんか? こんなことが毎日毎日繰り返されていたら、本来子どもが持っているやる気やエネルギーはどんどん失われてしまいます」(炭谷氏)

確かに、大好きなドラマを見ている最中に話しかけられたら……と想像すると、イラっとする気持ちもわかるような気がします。ですが、そもそもゲームなどの遊びと勉強では、やる気の種類が違うのでは? という疑問も湧いてきます。

「いえいえ、ゲームも勉強も、夢中になるエネルギーの源はどちらも同じ、好奇心や探究心です。その『熱中』が勉強で起これば、親が止めてもやり続ける『無敵状態』になります。

やりたくないことを強制してエネルギーを止めてしまうのは、非常にもったいないことなんです」(炭谷氏)

「好きなことがない」の原因は与えすぎ

ゲームや動画などに熱中する子どもがいる一方で、最近は「何に対しても無気力」「好きなことを聞いても答えられない」といった子も多いようです。こうした場合はどうでしょうか。

「『うちの子、好きなことがないんです』とおっしゃる親御さんがよくいますが、もしそんな状態になっているとしたら、それは多くの場合、“与えすぎ”が原因です。

好奇心や探究心は、食欲によく似ています。誰もが生まれつき持っている本能なので、それがない子どもなんて一人もいないですよ。

通常なら、子どもは自分で好きなものを探してきて食べるんです。だけど、これがおいしいよ、次はこっちを食べよう、とお腹が空く前にどんどん他人から食べ物を与え続けられると、子どもは常に満腹で好奇心が出てこない状態になってしまう。こうしたお子さんは、最近とても多いですね」(炭谷氏)

さらには、好きなことがあっても隠している子もいるといいます。

「話しても意味がないと思えば、子どもは絶対に口にしません。好きなことを聞かれて答えても、『それはあまり意味がないからやめなさい』などと否定される経験を何度もすると、だんだん言わなくなってしまうんです。

僕自身も子どものころはこのタイプでした。好きなことがないわけではなく、言っても損をするだけなので口を閉ざしている状態です」(炭谷氏)

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