子どもの「やる気と探究心」を出す 親や教育関係者のサポート力がアップする「ナビゲーション」の仕組み

【今こそ学力観のアップデートをするとき】子どもの好奇心が爆発する親の接し方#2 ナビゲータとナビゲーション

大人の適切な関わりで子どもの好奇心や探究心は大きく育ちます。  写真提供:ラーンネット・グローバルスクール
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子どものやる気を奪っているのは大人の行動や考え方。

#1(#1を読む)ではそんなショッキングな事実を、25年以上探究教育の実践に携わる炭谷俊樹氏に解説していただきました。では、子どもが主体的に学び、行動できるようになるために、大人はどのように接したらいいのでしょうか。

第2回は、炭谷氏が親や教育関係者向けに行っている「探究ナビ講座」(基礎編)の内容に触れながら、子どもが自らの好奇心や探究心をフル回転させ、主体的・探究的に学ぶことを適切にサポートするための考え方、具体的な方法論である「ナビゲーション」について紹介します。

※全4回の第2回

【炭谷俊樹 プロフィール】
ラーンネット・グローバルスクール代表。神戸情報大学院大学学長。マッキンゼーにて10年間日本及び北欧企業のコンサルティングに携わる。デンマークの社会や教育に感銘したことがきっかけとなり、1996年に神戸で子どもの個性を活かす「ラーンネット・グローバルスクール」を開校。3歳の幼児から企業のエグゼクティブまで幅広い年齢対象で、探究型の教育を実践している。

◆探究ナビ講座(基礎編)とは
ラーンネット・グローバルスクールが主催する、子どもの探究心や学習意欲をより高めて行く接し方や方法論について学ぶプログラム。全4日間の日程で、座学(オンライン開催)に加え、参加型のワークショップ(リアル開催)などを交えて、体系的・体験的に学びを深める。現場で探究プログラムを行う人向けの教育実践編もある。
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【子どもの好奇心が爆発する親の接し方:第1回 第3回 第4回を読む】
※公開日までリンク無効

「探究のレベル」とは?

炭谷氏は、子どもが学習や遊びなどの活動に取り組んでいるときの状態を「探究レベル」で観察します。

画像:ラーンネット・グローバルスクールの提供を受け作成

子どもの「探究レベル」は「受身的」「反応的」「自発的」の3つのレベルがあります。学校や塾、家庭などでの勉強は、これまで「受身的」なレベルで行われてきたことがほとんどでした。勉強する内容や進め方が大人側から与えられ、子どもが選択する余地はほとんどない。与えられたこと、言われたことを素直にこなすモードです。

このようなやり方では、知識や正解のある問題に答えを出す力は身につくかもしれませんが、主体的に探究する力はむしろ削がれてしまいます。与えられ、マイナスの評価をされる中で勉強嫌いになってしまうことも多いです。

最近では「主体的、対話的で、深い学び」という探究的な方針が文部科学省から出されたこともあり、先生方も、子どもに考えさせる問いかけをしたり、子ども同士でディスカッションをさせたりすることも行われるようになってきました。このレベルが「反応的」のレベルです。

「受身的」よりは子どもが自分で考えたり工夫したりする余地が増え、より楽しんで主体的な学習に取り組めるようになるので、これは大きな進歩といえます。

しかし、炭谷氏は「子どもはもっとすごい探究のエネルギーを持っている」といいます。それが「自発的」レベルの探究です。

「第1回(#1を読む)でも少しお話ししましたが、ゲームなど、好きなことに夢中になっている子どもはすごくエネルギーがあり、『ゲームをしなさい』などといわなくても夢中になって取り組んで工夫していますね。それがこの『自発的』レベルのイメージです。

ではなぜ、ゲームは夢中に取り組み、勉強は嫌々取り組むのか? そこに探究心を引き出すナビゲーションのヒントがあるのです。

遊びでも勉強でも同じですが、自分が主体的に選択して取り組んだことで、『できた』『やり遂げた』という満足感や自信を得ることができれば、より積極的に挑戦するようになります」(炭谷氏)

「探究ナビ講座」(基礎編)では、子どもの主体的な探究を邪魔せず、適切なタイミングでサポートできるようになるための理論や具体的な接し方を学んでいきます。

ナビゲーションを支える3つの教育観

具体的な子どもへの接し方に入る前に、まずはその前提となる教育観について説明してもらいました。炭谷氏は、教育のあり方を3つに分類しています。

画像:ラーンネット・グローバルスクールの提供を受け作成

「第1の教育」は管理型で、学ぶ内容も国や学校、親など権威を持った自分以外の人が決めます。先生などが教え込み、それに従うスタイル。つまり、これまでの日本の公教育と考えればわかりやすいでしょう。

「第2の教育」は第1の教育の反発から出てきたもので、時間割りもなく、したいことは何をしてもいい(したくないことはまったくしなくていい)、といった放任主義がこれにあたります。

また、管理とも放任とも少し違いますが、「なんでもやってあげる」というのも「第2の教育」の一種です。最近の日本ではこの「やってあげる」が増えていると感じます。やっている大人側は親切心なのでしょうが、実は子どもが自分でやる機会を奪っています。

第1の教育と第2の教育は実は表と裏の関係で、どちらも同じ価値観に基づいています。ラーンネットで実践している教育(探究ナビ講座で学ぶ教育)は「第3の教育」で、このどちらでもありません、

「第3の教育は、自立を促す関わり方を基本とします。学び手(子ども)が主体となり、興味や好奇心に従い学ぶ内容や方法を選択できます。さらに、大人(ナビゲータ)は子どもが自立的に生きる力をつけるための手助けをする、という位置づけです。何かを禁止/許可したり、できないことをやってあげたりする存在ではありません。

第3の教育は、私が会社員時代に駐在したデンマークで実践されていた教育方法であり、そこでの考え方を参考に概念化したものです」(炭谷氏)

この3つの教育は、具体的な例を使って考えるとイメージが摑みやすくなります。子どもが危なっかしく木登りをしていたとします。それぞれの教育では、どのような対応を取るでしょうか。各教育の考え方(一例)は次のとおりです。

【3つの教育の具体例】
《子どもが危なっかしく木登りをしている場合》

第1の教育
 ▶「木に登っちゃ危ない!」と𠮟り、
   登れないように柵をする。
第2の教育
 ▶落ちてケガするまで放っておく。
第3の教育
 ▶どのように危ないかやコツを教える。
   見守り、本当に危ないときは助ける。

「第3の教育では、子どもが自主性を持って自らを管理しながら、興味・関心を持ったことに取り組みます。大人はそれを尊重し、成長や発展をサポートすることに集中しているのです」(炭谷氏)

ラーンネットでは第3の教育の考え方に基づいて教育活動を行っていますが、「第3の教育のみが正しく、他が間違っているわけではない」と、炭谷氏は付け加えます。

「時と場合によっては、第1の教育であったり、第2の教育で何も問題ないこともあります。たとえば、子どもの生命に危険が及ぶようなケースでは、第1の教育の考え方で禁止や管理をすることが必要ですよね。

あるいは、人を馬鹿にしたり傷つけたりすることを平気でやっていたら、そこは親や大人がしっかり指摘して、子どもに気づかせるべきです。

テレビや動画などでは、特定の人を笑い物にするなど差別やいじめにつながりかねない映像も目にします。世の中には、子どもに悪影響を与えるものもたくさんありますから、周囲の大人がしっかり価値観を伝えてあげることも大切になります」(炭谷氏)

3つの教育を適宜選択しながらも、主体的な子どもの態度や学びを育むといった観点では「第3の教育」を基本とします。それには、大人が適切にサポートが行える「ナビゲータ」になる必要があります。

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