④入試頻出作者から出題
本の読み方のひとつとして、作者指名買いというのがあります。司馬遼太郎作品を次々読むというような感じです。このように、好きな作家で次に読む作品を選ぶ方も多いのではないでしょうか?
入試頻出作者の新作、数年前の作品は要注意です。2025年出題が予想されるのが入試頻出作家のいとうみくさん〔数年前の『朔と新』(ラ・サール、淑徳与野、浦和明の星、栄光学園で出題)、今年の『夜空にひらく』(栄東で出題)〕の新作『真実の口』は注目しておきたいです。
“……そうだった。七海を呼び出したのは、おれのエゴだ。一人で抱え込むのが怖くて悶々と悩むのが苦痛だから、考えもせずに勢いだけで。けど、いざとなったら尻ごみをした。”(『真実の口』p.73より)
親による子への虐待がテーマなので、まずは親御さんが目を通したほうがよいでしょう。読む際はある程度覚悟が必要です。「BANされる」「既読」「Ado」「児相」など今どきのキーワードも出てきます。一方、「かぶりを振る」「首肯した」「怪訝そうな」「ひとりごちる」など中学の先生が好きそうな表現も多数出てきます。
『朔と新』のときは、入試問題を解いている最中に感動してしまいました。読み終わったあと少し余韻に浸ってしまって、すぐに入試問題に取り組めなかった思い出があります。そしてすぐに全部読みたくなって本を買って帰りました。
今回の『真実の口』もそのようになりそうです。本音をいうと問題を解くのに支障をきたすほど続きが気になる作品を入試に出さないでほしいという気持ちもあります。
少し前(2023年4月発刊)の作品ですがこまつあやこさんの『雨にシュクラン』(神奈川大附属で出題)を紹介します。
“何となく、はもうやめよう。そのとき握りしめた心の中の筆が、今も私の原動力になっている。”(『雨にシュクラン』p.17より)
こまつさんと言えば『リマ・トゥジュ・リマ・トゥジュ・トゥジュ』で中学受験界では有名です。2019年の最多出題作品でした。まずこのタイトルに惹かれますよね。リマ・トゥジュ・リマ・トゥジュ・トゥジュとはいったいなんだろう。言いにくいけど何か気になるタイトルがいいですよね。今回紹介する『雨にシュクラン』のシュクランとは何か? 聞きなれない言葉です。
本のいいところは自分の経験できないようなことが経験できること。新しい世界が知れることです。この本は新しいことでいっぱいです。「約束は雲、実行は雨」アラブのことわざです。どんな意味か知りたい方はぜひ手に取ってみてください。ジーンと感動できる一冊です。
まだ出題校が少なく、2025年以降も出題の可能性が高いので今回紹介させていただきました。
こちらも入試頻出作者佐藤いつ子さんの作品です。佐藤さんの作品では2023年に『ソノリティ』が多くの中学で出題されました(学習院、洗足、春日部共栄、浦和実業他で出題)。今回紹介するのは4月に発刊したばかりの『透明なルール』です。
“たまたまSNSにあげられた、たかが一枚の写真。そんなものにいちいち心を惑わされている自分が痛い。でもやっぱり、されど一枚の写真、なのだ。”(『透明なルール』p.47より)
2025年に出題される可能性が高い、透明なルールこと同調圧力がテーマの本です。今どきのSNSなども話題に上がってきます。明文化されていないまさに透明なルールについて登場人物たちが悩み、克服していくストーリーです。
⑤受賞作品からの出題
本屋大賞作品も侮れません。続編も先日発売された成瀬シリーズ『成瀬は天下を取りにいく』『成瀬は信じた道をいく』(豊島岡女子、栄東で出題)です。池袋西武百貨店が舞台に登場してくるとあって池袋西武では特設コーナーも作られていました。それだけ学校の先生の目に留まるというものなのでしょう。このように、注目作品は書店店頭で大きく取り上げられているケースも多いので、Amazonだけで本を買わずたまにはリアルな書店で本を買おうと思います。
また、先日直木賞を受賞した『プリンセス・トヨトミ』などで有名な万城目学さんの『八月の御所グラウンド』(筑波大附属、田園調布学園で出題)も書店で平積みされていますね。中学受験でも直木賞作品は出題されることもあるのでチェックしておきたいです。
読書とは本来自分が読みたい本を読むべきです。受験のために読むというのでは少し味気ないです。
私も子どもたちにおすすめの本を聞かれたときには答えますし、保護者会でおすすめ本を毎回紹介します。ただそれは受験に出るから読むだけでなくおもしろいから読んでみてという視点のほうが強いかもしれません。
それがきっかけで読書の習慣がついてほしい、本のおもしろさを知ってほしい、書店に行く楽しみを知ってほしいと思っています。今回多くの本を紹介しましたが、すべて読む必要はありません。自分が気に入った本を見つけて手に取ってみてください。読書の楽しさが伝われば幸いです。
『ぼくの色、見つけた!』好評発売中!
第24回ちゅうでん児童文学賞で大賞をとった志津栄子が、当事者やその家族、眼科医など多くの関係者に取材を行い、「色覚障がい」に正面から向き合った意欲作。
〈先読み読者も絶賛!〉
──少年の心のきらめきが読者の生き方にも働きかけてくるような、とびきりの作品。(レビュアー)
──自分の弱みに悩む人の心に刺さる物語。(レビュアー)
──できないことをできないと言うことは、恥ずかしいことでもダサいことでもないのだ。知らないことは聞こう、できないことは教わろう、素直なメッセージに心が軽くなった。(レビュアー)
〈あらすじ〉
トマトを区別できない、肉が焼けたタイミングがわからないことから、色覚障がいが発覚し苦しむ信太朗。母親は悪気なく「かわいそう」といい、試すようなことをしてくるし、症状を知らないクラスメイトから似顔絵のくちびるを茶色に塗ったことを馬鹿にされ、すっかり自信を失ってしまう。眼科の先生は個性のひとつと言ってくれるけれど、まわりがそうはとらえてくれないし……。
学年が上がり、クラス担任が変わり自分自身に向き合ってくれたことで、信太朗は自分の目へのとらえ方がすこしずつ変わっていくことに気が付く。
akira
学生時代から塾講師として中学受験指導に携わり、大学卒業後は塾業界に就職。2023年、関東圏にある現在の教室に室長として就任。保護者や生徒に対するきめ細かいコミュニケーションを重視した教室運営を行うことにより、御三家をはじめ、早稲田、渋谷幕張の合格者数は高い進学実績がある。SNSでも独自の学習指導法を公開している。保護者はもちろん、塾関係者からもそのノウハウに注目が集まっている。 X(旧Twitter):@AArukikata
学生時代から塾講師として中学受験指導に携わり、大学卒業後は塾業界に就職。2023年、関東圏にある現在の教室に室長として就任。保護者や生徒に対するきめ細かいコミュニケーションを重視した教室運営を行うことにより、御三家をはじめ、早稲田、渋谷幕張の合格者数は高い進学実績がある。SNSでも独自の学習指導法を公開している。保護者はもちろん、塾関係者からもそのノウハウに注目が集まっている。 X(旧Twitter):@AArukikata