隠し要素を探せ! 講談社絵本新人賞受賞作家が描く新しい「猫」絵本
最初は悪い猫だった? こだわりたっぷりの、はっとりひろきさん特別インタビュー
2024.02.22
狭いところも、高いところもお手のもの! 変幻自在のおにゃんこタクシーが、お客さんのニーズにこたえ、さまざまな場所へと送り届けます。
猫好きにはたまらない新刊絵本『おにゃんこタクシー』の作者は、第39回(2017年)講談社絵本新人賞受賞作家のはっとりひろきさん。
2018年に『いっぺん やって みたかってん』でデビューして、今年絵本作家歴6年目を迎えるはっとりさんに、『おにゃんこタクシー』の制作秘話や、見どころについておうかがいしました。
目次
「おにゃんこタクシー」は、悪い奴だった!?
はっとりひろきさん(以下、はっとりさん):僕は絵本のネタ出しのときによく、1つのワードと、もう1つ別のワードをくっつけて、何か面白いイメージが湧かないかなって考えるんです。絵本『トイレロケット』も一緒で、「トイレ」と「ロケット」をあわせたら面白いなと思って。
──どら猫ということは、最初、猫型タクシーは悪い奴だったんですか?
はっとりさん:そうなんです。どら猫みたいな、ちょっと悪っぽいタクシーがあったら面白いなって。でも、それではお話が成立しなくなってきたので、可愛らしい方向に変わっていきました。
タイトル自体も『どらねこタクシー』とか『ねこすけタクシー』とかいろいろ迷いながら、最終的に『おにゃんこタクシー』に落ち着きました。
人間より動物より、機械を描くのが一番「楽」!
はっとりさん:作品に機械的なものが出てくることについて、最初は意識していませんでした。『いっぺん やって みたかってん』で講談社絵本新人賞をいただいたときに初めて、審査員の先生に「整備士だからか、遊具のつじつまが合ってるよね。どう動いててもちゃんと繫がってるよね」というようなことを言っていただいたんですよ。
それでそういう絵本が自分としては作りやすいのかなって自覚したといいますか、それまでは自分が持っている強みがわかっていなかったので、ご指摘いただいてからは、あえて意識して作っている部分もありますね。
はっとりさん:猫はね、大好きです! 今は飼っていないんですけど、幼いころから高校生くらいまでのあいだは飼っていました。ずっと可愛がっていた黒猫が病気で亡くなってしまって、それ以来、自分で育てるっていうことができなくなってしまって……。でも、まだ実家に帰ると猫だらけです。
──おにゃんこタクシーは体がものすごく伸びたり、伸びてそのまま柵の下をくぐったり、すごい動きをしますよね。猫を飼っていた経験を活かして、「猫あるある」を取り入れようとしたんでしょうか?
はっとりさん:そうですね。猫の特徴を全部洗い出して、猫ってこういう動きするよね、猫ってこういうふうに動くよねっていうところを、必ず入れたいなと思って作りました。
猫って狭いところから「にゅーん」って出てくるあれがめちゃめちゃかわいいじゃないですか。猫好きさんに「わかるわかる」となってもらえそうな動きや特徴を絵本に入れていったので、そういう部分も楽しんでいただけたらうれしいです。
はっとりさん:動物は見る人が見ればわかるので、そこはできるだけ不自然にならないように、自分なりに描いてはみました。ただ、わからないです。人間も動物も難しい! 機械を描いているほうが僕は全然楽です。
──逆に機械が描かれた絵本は、つい見ちゃったり。
はっとりさん:見ちゃいます(笑)「ここにこれがついているのはおかしいよね」とか思ってしまう自分がいるので、同じように僕の絵を見て、「この猫、ちょっとここが違うよ」って思う方もいるかもしれませんね。そうならないよう、できる限り気をつけています。
──絵本に出てくる動物の家族たちは、みんな楽しそうなのが印象的です。何か意識したことはあるんですか?
はっとりさん:家族を描くときは、自分の家族をイメージしながら描くことが多いですね。仲が良さそうな、優しそうな雰囲気は作りたいなと思っています。
──ということは、ねこすけさん(おにゃんこタクシーの運転手で、ねこたろうのパパ)は、はっとりさんをイメージしているのでしょうか。
かもわからないですね。うちでの僕は、たいていふざけているだけですが(笑)。
何気ないシーンも、つじつまがあうように
あとは、おにゃんこタクシーがミルクを吸っているところですかね。
ミルクは家の中から補充できるようになっていたり、近くに洗面台があるのでそこでちゃんと吸い口を洗えるようになっていたり……、つじつまがあうように考えました。自分の頭の中で、おにゃんこタクシーはこういうふうに燃料補給しているはずって想像して。
──ストーリー以外の場所も、すみずみまで眺めて楽しい絵本になっているんですね。
はっとりさん:そうですね。それぞれが同じときを生きている感じを出したいなと。あとは、担当編集者さんに途中で原画を見てもらったとき、背景にある家も動物の形の屋根にしたり、そういうのをもうちょっと描き込みをしてみてはどうですかって言っていただいたのが、すごく良かったんだと思います。「そっかそこまでやれてなかった」って気づけたので。
序盤でおにゃんこタクシーが公園の柵にぶつかりそうになるシーンがあるのですが、その迫力を出すために何度も構図を変えて、最後の最後まで粘っていただいたので、そういったアドバイスも本当に助かりました。
担当編集者すら知らない、クロスオーバーの隠し要素!?
はっとりさん:裏表紙のにわとり一家の子どもの数が増えている……とか、さっきお話に出てきた海に向かって走るシーンでは、通りに建っている家の中にいる犬の男の子がお花を持っていて、女の子が車のおもちゃを持って喜んでいるとか。
──それは気づいていなかったです!
はっとりさん:編集者さんにも伝えずに、細かい要素をいろいろ入れちゃってるんです(笑)。
実は他の絵本でも遊んでいて、『トイレロケット』に出てくるオレンジジュースが『ぽっかりライトせんせい』の冷蔵庫の中から飛び出してきているとか。何も伝えずに入れてしまいました(笑)。
はっとりさん:気づかれないですね。気づかれなくてもよかったんですが、あまりに気づかれなかったので、SNSで自分から言っちゃいました(笑)講談社で出させていただいている絵本の中でクロスして遊んでいる、みたいなのはいくつかあります。
──ぜひみなさんにも見つけていただきたいですね!
『おにゃんこタクシー』の楽しみ方とは?
はっとりさん:本当に僕は、見てくれた子どもに「楽しいな」って思ってもらえたらそれが一番なんです。たしかにストーリーを作るときは、ここでこういうふうにしたらつじつまが合うとか、理解してもらえたらいいなっていう要素をできるだけ入れていますが、ただただ楽しんでもらえたらそれが一番面白いと思います。
自分が楽しいと思っているポイントはね、おにゃんこタクシーが水中眼鏡をかけるシーンとかなのですが。そういうところで子どもも楽しんでくれたらいいなと思いつつ、ただ絵本を読んで笑ってもらえたらうれしいです。
──たくさんのお話を聞かせていただきありがとうございました。最後に読者の方へ、お伝えしたいことなどありますか?
はっとりさん:『おにゃんこタクシー』は誕生日のことを描いた絵本にもなっています。幼稚園などの誕生日会で読んでもらうとか、この絵本を読んで「お誕生日おめでとう」とか、そんな楽しみ方もいいなと思います。
はっとり ひろき
1978年岐阜県海津市生まれ。小さいころから絵を描くことと、F1が好きだった。高校卒業後、建設機械及びフォークリフトの整備士として勤める傍ら、絵本作家を目指す。2016年よりメリーゴーランドの絵本塾に通う。 2017年、『いっぺん やって みたかってん』で第39回講談社絵本新人賞受賞。三重県在住。2児の父。
1978年岐阜県海津市生まれ。小さいころから絵を描くことと、F1が好きだった。高校卒業後、建設機械及びフォークリフトの整備士として勤める傍ら、絵本作家を目指す。2016年よりメリーゴーランドの絵本塾に通う。 2017年、『いっぺん やって みたかってん』で第39回講談社絵本新人賞受賞。三重県在住。2児の父。