『鏡の国のアリス』の“王冠をかけた戦い”のケーキを作ろう

読んで楽しい、作っておいしいエッセー&レシピ 児童文学キッチン#10

児童文学作家の小林深雪さんと、お菓子研究家の福田里香さんのかわいい本『児童文学キッチン お菓子と味わう、おいしいブックガイド』から、読んで楽しい、作っておいしい、エッセー&レシピを厳選してお届けします。

第10回目は、『鏡の国のアリス』から。『ふしぎの国のアリス』の次のお話で、あべこべのおかしなお話が展開されるのです。福田里香さんがお菓子にアレンジ。こんなにおいしそうなプラム・ケーキなら、ライオンとユニコーンが争ってしまってもしかたないかも!


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鏡の国のライオンとユニコーンの大好物のプラム・ケーキ!(撮影/青砥茂樹)

王冠を賭けて戦うライオンとユニコーンが、十分休憩で、おやつに食べるプラム・ケーキ(福田里香)

<「おまえは、鏡の国のケーキのあつかいかたを知らないんだよ。」と、ユニコーンがいいました。
「まずはじめにくばるんだ。切るのは、そのあと。」
 ばかばかしいとは思いましたが、アリスはすなおにすぐ立ちあがって、お皿をもってまわりました。すると、ケーキはひとりでに三つに割れました。からになった皿をもってアリスがもとの場所にもどっていくと、ライオンが「さあ、そこで切るんだ。」といいました。> 
『鏡の国のアリス』より
鏡の国は、鏡に映った像のように、なんでも反対、あべこべの世界。

ケーキを切る前に、配らなければいけないなんて、ばかげてる……と思いがちですが、実際社会に出れば、これに似たばかばかしい事態がいくらでも待ち受けているんですから、ルイス・キャロルの皮肉には舌を巻く。

じつはライオンとユニコーンも、英国王の座を巡るイングランドとスコットランドの争いを風刺したものです。

だったら、ライオンとユニコーンの大好物、戦いの合間におやつとして食べるプラム・ケーキって、いったい何の謎かけなんでしょう? 

謎が謎をよんで、考えがまとまりません。だけど、それがアリスの魅力です。(福田里香)

わたしたちは自由。本があれば どこへだって行ける(小林深雪)

<そして鏡はほんとうに、あかるい銀色の霧のようにとけだしていたのです。
 と思うまもなく、アリスはもう鏡を通りぬけて、鏡の国の部屋のなかにひらりととびおりていました。
「わたしが鏡のなかを通りぬけてここへきているのを見ても、家のひとたちがわたしをつかまえることができないなんて、なんてゆかいでしょ!」>
『鏡の国のアリス』より
アリスの物語は、メビウスの帯。
 
表と裏の区別がつかない。物語のはじまりと終わりの区別がつかない。現実と空想の区別がつかない。過去と未来の区別がつかない。

善人と悪人の区別がつかない。だから、この本の読み方にも、正解も間違いもないのです。読み方は、人それぞれ。どんな解釈をしてもいいのです。アリスといえば、『不思議の国』ですが、その続編の『鏡の国』も面白い。

「鏡の国」は、すべてが、あべこべ。

のどが渇いたら、乾いたビスケットを食べろ。

おなじところにとどまっていたかったら全力で走れ。

先に配ってから、切るプラム・ケーキ。

頭がこんがらかってきます。

明日と昨日のジャムはあるけど、今日のジャムはないから、ジャムは永遠に食べられない、とか。
 
でも、「不思議の国」でもそうでしたね。五月なのに、「三月うさぎ」とか。

アリスが、この奇妙な「不思議の国」や「鏡の国」から帰れるのか、読んでいるわたしたちも、はらはらしてしまいます。

でも、ここでは、あらゆる常識も知識も、通用しません。自分の頭で考え、自分の力で対処していかなければなりません。

いまなら、インターネットで検索すれば、すぐに、なんでも情報を得られます。情報の海はあふれかえっていて、溺れそうなくらいです。でも、ほんとうに肝心なことは、ネットではわからないかもしれません。むしろ、わからないことのほうがたくさんあるのかも。

重要なのは、アリスのように、自分で体験すること。体験して、はじめてわかることがたくさんあります。そして、それを自分の頭でちゃんと考えられること。詰め込み式で暗記ばかりしていても、ネットで検索ばかりしていても、机上の空論では、役に立たないよと、作者のルイス・キャロルが、チェシャ猫みたいに、本の向こうでにやにや笑っているような気がします。

それは、百の恋愛論を読むより、たったひとつのときめきのほうが、勝るのといっしょなんですよね。(小林深雪)

ライオンとユニコーンもこのおいしさならにっこり。プラム・ケーキを作りましょう(福田里香)

材料(口径25㎝、高さ13㎝の台形花型1台分)

プルーン 6粒
レーズン 60g
ラム酒 80 ml
有塩バター 100g
きび砂糖 110g
卵 3個
アーモンドプードル 20g
薄力粉 160g
ベーキングパウダー 大さじ1/2
作り方

下準備:作る前日にプルーンとレーズンをラム酒に漬けておく。
型にクッキングシートを敷く。底の抜けない型の場合は、バター(分量外)を塗って、薄力粉(分量外)を茶こしで薄くふる。

   ボウルに指がすっと入るくらい室温でやわらかくしたバターと砂糖を入れ、泡立て器で白っぽくなるまですり混ぜる。溶きほぐした卵を少しずつ加え混ぜる。そこに汁けを切ったレーズン(ラム酒の汁は取っておく)とアーモンドプードルも加える。

   薄力粉とベーキングパウダーを合わせて、1にふるい入れる。ゴムべらでさっくり切るように混ぜる。

   用意した型の底に汁けを切ったプルーンを並べる(ラム酒の汁は取っておく)。その上から2を流し込む。表面を平らにならし、180℃に温めたオーブンで35~45分焼く。

   3に竹串を刺して何もつかなければ焼きあがり。金網の上に取り、1と3で取っておいた漬け汁のラム酒をまわしかける。そのまま冷まし、粗熱が取れたら型から出す。1日置いたら食べ頃になる。ケーキの底面を上にして皿に盛る。

*写真はめずらしいアンティークの台形型で焼いています。同じような型が手に入らない場合は、直径20~22㎝の丸型で焼くとちょうどいいレシピです。

『鏡の国のアリス』についてあれこれ(小林深雪)

ルイス・キャロル(1832~1898)は、イギリスの作家・数学者。オックスフォード大学卒業後、数学の教授に。

「アリス」には、不思議な食べ物がたくさん出てきます。飲むと身長が伸び縮みするドリンクやケーキ、羽がバターつきのパンでできている蝶など、まさに「アリスの国の不思議なお料理」に興味津々。

『鏡の国のアリス』の最後の詩は、「人生とはしょせん夢……」という言葉で終わります。人生という夢から覚めたとき、不思議の国に行けるのかもしれませんね。
鏡の国のアリス(新装版)』
作:ルイス・キャロル 訳:高杉一郎 絵:山本容子 講談社青い鳥文庫

むずかしい漢字にふりがなつきで、小さいお子さんでも読みやすい児童文庫版。
『不思議の国のアリス 鏡の国のアリス』
作:ルイス・キャロル 訳:高杉一郎 絵:北澤平祐

アリスのふたつのお話が1冊になり、北澤平祐氏の挿絵がたっぷり楽しめる愛蔵版。

お話から生まれた23のかわいいお菓子がレシピ付きで作れる!

『児童文学キッチン  お菓子と味わう、おいしいブックガイド』
文:小林深雪  料理:福田里香  講談社

読んで楽しい、作っておいしい!小林深雪先生の大好きな児童文学作品にインスパイアされたかわいいお菓子を福田里香さんのレシピつきで紹介!
*現在入手困難です。図書館などで探してみてくださいね。
(編集協力/俵ゆり)
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こばやし みゆき

小林 深雪

Miyuki Kobayashi
作家

埼玉県生まれ。東京在住。武蔵野美術大学卒。ライター、編集者を経て、1990年作家デビュー。 「泣いちゃいそうだよ」「これが恋かな?」「作家になりたい!」シリーズ(すべて講談社青い鳥文庫)や、 エッセイ集『児童文学キッチン』、『おはなしSDGs /つくる責任つかう責任 未来を変えるレストラン』『スポーツのおはなし/体操 わたしの魔法の羽』、『どうぶつのかぞく/ホッキョクグマ ちびしろくまのねがいごと』『おしごとのおはなし/まんが家 ゆめはまんが家』(以上、すべて講談社)など著書は200冊を超える。 『デリシャス!』『恋人をつくる100の方法』など、漫画原作も多数手がけ、『キッチンのお姫さま』で講談社漫画賞受賞。

埼玉県生まれ。東京在住。武蔵野美術大学卒。ライター、編集者を経て、1990年作家デビュー。 「泣いちゃいそうだよ」「これが恋かな?」「作家になりたい!」シリーズ(すべて講談社青い鳥文庫)や、 エッセイ集『児童文学キッチン』、『おはなしSDGs /つくる責任つかう責任 未来を変えるレストラン』『スポーツのおはなし/体操 わたしの魔法の羽』、『どうぶつのかぞく/ホッキョクグマ ちびしろくまのねがいごと』『おしごとのおはなし/まんが家 ゆめはまんが家』(以上、すべて講談社)など著書は200冊を超える。 『デリシャス!』『恋人をつくる100の方法』など、漫画原作も多数手がけ、『キッチンのお姫さま』で講談社漫画賞受賞。

ふくだ りか

福田 里香

Rika Fukuda
菓子研究家

福岡県生まれ。武蔵野美術大学卒。大学の同級生だった小林深雪さんの書籍に携わったことから、この道に入る。これまでに小林深雪さんの4冊のレシピブック『キッチンへおいでよ』『ランチはいかが?(編集)』、『デリシャス! スイート・クッキング(スタイリング)』、『児童文学キッチン(共著)』(以上、講談社)に携わる。 単著に『民芸お菓子』(Discover Japan)『いちじく好きのためのレシピ』(文化出版局)、『新しいサラダ』(KADOKAWA)、『フードを包む』(柴田書店)、『まんがキッチン』(文春文庫)、『まんがキッチン おかわり』(太田出版)、共著に『R先生のおやつ』(文藝春秋)がある。

福岡県生まれ。武蔵野美術大学卒。大学の同級生だった小林深雪さんの書籍に携わったことから、この道に入る。これまでに小林深雪さんの4冊のレシピブック『キッチンへおいでよ』『ランチはいかが?(編集)』、『デリシャス! スイート・クッキング(スタイリング)』、『児童文学キッチン(共著)』(以上、講談社)に携わる。 単著に『民芸お菓子』(Discover Japan)『いちじく好きのためのレシピ』(文化出版局)、『新しいサラダ』(KADOKAWA)、『フードを包む』(柴田書店)、『まんがキッチン』(文春文庫)、『まんがキッチン おかわり』(太田出版)、共著に『R先生のおやつ』(文藝春秋)がある。