13年ぶりの「コックさんシリーズ」待望の新刊発売! デビュー作の前日譚が明らかに

15年間絶版なし!大人気の絵本作家シゲタサヤカはコアな「コックさんオタク」

写真提供/シゲタサヤカ
2024年にデビュー15周年をむかえた、絵本作家のシゲタサヤカさん。デビュー作『まないたに りょうりを あげないこと』にはじまり、『りょうりを してはいけない なべ』『コックの ぼうしは しっている』からなる「コックさんシリーズ」の新刊、『いえいえ、そんなことは ありませんよ』が、ついに発売となりました!

「コックさんシリーズ」に登場するコックさんたちは、いつも同じ10人で、それぞれ髪型などが決まっているのを知っていましたか? キャラクターに注目すると、さらに絵本が楽しめるんです。

今回はシゲタサヤカさんに、新刊を含む「コックさんシリーズ」の魅力や裏話を、たっぷりおうかがいしました。

「コックさんシリーズ」の新刊が、13年ぶりに発売!

左:ネスレさんのノベルティの『いえいえ、そんなことは ありませんよ』。
右:新刊絵本『いえいえ、そんなことは ありませんよ』の校正紙。
写真提供/シゲタサヤカ
──『いえいえ、そんなことは ありませんよ』(以下、「いえいえ」とも表記)は「コックさんシリーズ」13年ぶりの新刊となりましたが、まったくの新作ではないとおうかがいしました。

シゲタサヤカさん(以下シゲタさん):はい。2020年に(食品飲料会社の)ネスレさんから、ノベルティとして絵本をつくりませんかとお話をいただいたのが最初です。けど、テーマが「環境」ということで、真面目な絵本を描いたことがない私には絶対無理だと、一度お断りしてしまったんです。

ですがそのときのネスレの担当の方が私の過去の「コックさんシリーズ」の絵本などを読んでくださっていて、そんなに堅苦しく考えず、今までの感じで大丈夫ですよと言ってくださったんです。それならということで、「コックさんシリーズ」を出していただいていた講談社さんにも相談し、このシリーズで描いてみようとなり、『いえいえ、そんなことは ありませんよ』ができあがりました。

──そうだったのですね。ノベルティの絵本は、その後絵本として書店でも販売する予定でつくられたのでしょうか。

シゲタさん:そうですね。つくりはじめの段階から、いつか単行本にできるようにということで、既刊とサイズ比などはあわせていました。

15年前のデビュー作、前日譚が明らかに!?

「コックさんシリーズ」の全4冊。
写真提供/シゲタサヤカ
──『いえいえ、そんなことは ありませんよ』を読ませていただきました。このお話はもしかして、「コックさんシリーズ」のNo.0的な位置づけなんでしょうか。

シゲタさん:そうなのです! 気がついてくださってうれしいです。私のデビュー作『まないたに りょうりを あげないこと』(以下、「まないた」とも表記)よりもさらに前のお話です。「まないた」の時点でコックさんは10人いるんですけど、「いえいえ」では9人でスタートし、途中でひとり増えて最終的に10人になるんです。

──その増えたひとりが、「いえいえ」の主人公である双子のコックさんの片方でなのですね。ちなみに双子のコックさんのストーリーの構想は、「まないた」のときにはあったのですか?

シゲタさん:ストーリーの構想はまったくなかったのですが、「まないた」のときから脇役として双子を登場させていたので、いつかふたりを主人公にできたらいいなという思いは、どこかにずっとありました。なのでネスレさんからお話をいただいたとき、「じゃああの双子を出そう」と、スムーズに決まっていきました。

──「いえいえ」のネタバレになるので大きな声で言えませんが、それでは「まないた」の時点では、まさか彼らにあんな秘密があるなんて、シゲタさん自身も考えていなかったのでしょうか。

シゲタさん:そうなんです。これまでのシリーズに双子を登場させるときは、動きをシンクロさせたりと楽しく描いていたんですけど、「いえいえ」で自分でもちょっと想定外の設定が生まれ、思いがけない展開になりました。

あの「まないた」も登場します!

──『いえいえ、そんなことは ありませんよ』の中で、お気に入りのシーンはありますか?

シゲタさん:とにかく私はお皿の上に乗ったお料理を描くのがとても好きなので、お料理が画面いっぱいに広がっているこの場面は、楽しく描けましたし、一番気に入っています。
『いえいえ、そんなことは ありませんよ』より。
写真提供/シゲタサヤカ
──インパクトがあって、素敵な見開きですね! でも、こうやって同じお料理をたくさん描くのは、大変じゃなかったですか?

シゲタさん:同じお料理がいっぱい!っていうのが逆に一番好きで、本当にただ楽しく描きました。

──シゲタさん絵本は細かな描き込みも魅力ですが、今回の新刊に隠し要素みたいなものはありますか?

シゲタさん:シリーズの他のキャラを出すのはいつもの恒例なのですが、今回はまだコックさんたちに注目される前のまないたが、こっそり陰で食材を食べていたりします。あと、始まってすぐの見開きが、『まないたに りょうりを あげないこと』に出てくる見開きの反転バージョンになっているんです。

厨房(ちゅうぼう)の構造上は変なんですが、フィクションの世界ならではということで反転で描いてみて、ひとりで楽しんでいました。
上:『まないたに りょうりを あげないこと』より。
下:『いえいえ、そんなことは ありませんよ』より。
写真提供/シゲタサヤカ

個性豊かなコックさんたち、ではなく…

──「コックさんシリーズ」の絵本には、10人のコックさんが登場していますが、この10人の個性は初めから決まっていたのでしょうか。

シゲタさん:「コックさんシリーズ」の1作目にあたる『まないたに りょうりを あげないこと』は、講談社絵本新人賞に応募して佳作を受賞し、絵本になった作品なのですが、応募したときの原画を見るとですね……。
講談社絵本新人賞へ応募したときの『まないたに りょうりを あげないこと』の原画。登場人物の顔や髪型をよく見ると……。
写真提供/シゲタサヤカ
シゲタさん:キャラクターをよく見ていただくと、なんとこのころは、全員同じ顔の同じ髪型で描いていたんですよ。あろうことか、主人公と隣の脇役すら見た目がほぼ同じです。

そしてこの作品を出版しましょうとなったとき、当時担当してくださった編集者さんが、「主役と脇役が同じだなんてとんでもない。キャラはしっかりつくりましょう」とアドバイスをくださったんです。そこから編集者さんと一緒に、どの人をどんなキャラにしようかなって考えて、髪型を決め、絵本には出していないんですけど、自分なりにみんなに好きな名前をつけました。
「コックさんシリーズ」に登場する、10人のコックさんの裏設定。
写真提供/シゲタサヤカ
──おしゃれな名前がついていますね。

シゲタさん:お気に入りの漫画のワードだったりするので、表立って絵本では出せないんですけど、双子にも名前がついています。こんな感じでデビュー前にキャラをつくるきっかけをいただいていて、10人分ちゃんとつくってありました。

そこから作品をつくるたびに、このキャラクターはこういう役割をしているな、とか、ちょっとサボり癖があるな、とか、さらに設定が深まっているという感じです。

──今まで双子を含む5人のコックさんが絵本の主人公になりましたが、残りの5人のお話って、いつか読めるときがくるのでしょうか……。

シゲタさん:まだなにか構想がしっかりあるわけではないんですけど、今回のような機会をいただけて、いいストーリーができたら、残り5人もお話にしたいという思いはあります。

──楽しみにしています! ちなみに、シゲタさんはこの中で、推しコックさんはいますか?

シゲタさん:推し、います! 『コックの ぼうしは しっている』の主人公のちょっと悪いコックさんが一番好きです。やってることはばかばかしかったり、けっこうずるがしこくてサボっちゃったりするんですけど、そこが人間くさくてにくめないなと思います。
『コックの ぼうしは しっている』(2011年刊/講談社)
作:シゲタサヤカ
シゲタさん:実は今回「いえいえ」をノベルティの状態から絵本にするにあたり、「このキャラをもっと引き立てよう」と今回の担当編集者さんに言われ、追加した要素もあります。みんなが大量のお料理を見てびっくりしているときも、彼だけはのんきに「おいしそう」って見ているなど、推しの彼のことをまた思い出して描けたのが楽しかったです。

──キャラクターに着目して、「この子はどこにいるんだろう」と探すのも、楽しいかもですね。

シゲタさん:ぜひ見ていただけたらと思います。

厨房で働くコックさんたちが大好き!

──「コックさんシリーズ」では厨房(ちゅうぼう)のあわただしいようすなどが楽しく描かれていますが、シゲタさんは厨房で働いた経験はありますか?

シゲタさん:ないんですけど、でもとにかく、厨房(ちゅうぼう)で働くコックさんが大好きなんです! 実在するレストランのコックさんたちを撮影した分厚い写真集があるんですが、ひたすら料理をしているコックさんの写真がだーってものすごいページ並んでいて、こういうのを見ているのが大好きです。絵本を描くときも参考にしています。

それから私はジェイミー・オリヴァーさんというイギリス人のコックさんのファンで、当時は「推し」なんて言葉はなかったんですけど、来日したときにサイン会に行くくらい追っかけをしていました。コックさんっていう存在がすごく好きなので、描くのが楽しいですね。

──「コックさんシリーズ」以外でも、シゲタさんの絵本は食べ物や料理がテーマになっているものが本当に多いですよね。コックさんも好きで、同時にお料理なども好きなんでしょうか。

シゲタさん:そうなんです、大好きで。

──つくるのがお好きですか? 食べるのとかも、全部ふくめてでしょうか。

シゲタさん:お料理をつくるのが好きといえるにはほど遠いんですけど、でもお料理の本やお料理番組を見るのが好きで、おいしいものを食べるのも好きでっていう感じですね。学校も短大の家政科に通っていて、調理実習をよくやっていました。それがすごく身についたとかではないんですけど、楽しかったです。

──もう意識的に、「お料理とか食べ物をずっと描くぞ」という感じなんでしょうか。それともネタとして浮かびやすいから描くほうが大きいでしょうか。

シゲタさん:本当に浮かびやすいし、逆にそれ以外は描けないって感じです。お料理とか食べ物以外は、私はまったく書けないので……。

デビューから15周年、絶版となった絵本はゼロ!

──「コックさんシリーズ」は、シゲタさんのコックさん愛とお料理愛から生まれたシリーズだったのですね。では最後に、ぜひ読者の方へメッセージをお願いします。

シゲタさん:私のデビューから、そして「コックさんシリーズ」発売から15周年ということで、もう本当にただただ読み続けてくださった読者の方に、ありがとうございますという気持ちでいっぱいです。絵本を読んでくださったみなさまのおかげでここまで続けられて、また次の絵本を出すことができました。本当にありがとうございます。

あとは15年っていうと、今保育園に通ううちの子くらいのころに私のデビュー作を読んでくれていたお子さんが、もう20歳を迎えるころなので、そんなに長くやっているのだなと感慨深い部分もあります。20代の大人になったかつての読者たちが今度は親世代になって、「ママ・パパが子どものころに読んでいた絵本だよ」と、私の絵本をご自分のお子さんに読んでくれたら……、もしそうなったらいいなと思います。親子2世代で読者なんて、あこがれちゃいますね。なのでそれをめざして、またがんばっていきたいです。

──シゲタさんの絵本は、(2024年4月現在)すべてみんな発売中なんですよね。なのできっと、そういう未来も……、もしかしたらそういうご家庭もすでにあるかもしれませんね。これだけ長い期間絶版がないというのは、本当に貴重で、素晴らしいことだと思います。

シゲタさん:うれしいです。ありがとうございます!
(取材・文/伊澤瀬菜)

町一番のレストランで起こったおかしな事件とは……!?

町で一番人気のレストランは、今日も今日とて大忙し。9人いるコックさんのうちのひとりが、あまりのいそがしさに店を飛び出すと、スーパーコックの弟を連れてきて……。さあ、あなたはオチを予測できますか?
『いえいえ、そんなことは ありませんよ』(2024年刊/講談社)
作:シゲタサヤカ

シゲタサヤカ

絵本作家。

1979年生まれ。「パレットクラブスクール」で絵本制作を学ぶ。第28回から講談社絵本新人賞で佳作を3年連続受賞。2009年、第30回佳作受賞作『まないたに りょうりを あげないこと』でデビュー。食べものが登場するユーモア絵本で大人気に! 

主な絵本の作品に『りょうりを してはいけない なべ』『コックの ぼうしは しっている』『カッパも やっぱり キュウリでしょ?』(講談社)、『キャベツが たべたいのです』(教育画劇)、『たべものやさん  しりとりたいかい  かいさいします』(白泉社)、『オニじゃないよ  おにぎりだよ』『カレーは あとの おたのしみ』(えほんの杜)、『クリコ』『ラッキーカレー』(小学館)などがある。
しげたさやか

シゲタ サヤカ

絵本作家

絵本作家。講談社絵本新人賞で佳作を3年連続受賞。2009年、第30回佳作受賞作『まないたに りょうりを あげないこと』(講談社)でデビュー。食べものが登場するユーモア絵本で大人気に! おもな絵本の作品に『りょうりを してはいけない なべ』『コックの ぼうしは しっている』『カッパも やっぱり キュウリでしょ?』(以上、講談社)、『キャベツが たべたいのです』(教育画劇)、『たべものやさん しりとりたいかい かいさいします』(白泉社)、『オニじゃないよ おにぎりだよ』『カレーは あとの おたのしみ』(以上、えほんの杜)、『クリコ』『ラッキーカレー』(以上、小学館)などがある。

絵本作家。講談社絵本新人賞で佳作を3年連続受賞。2009年、第30回佳作受賞作『まないたに りょうりを あげないこと』(講談社)でデビュー。食べものが登場するユーモア絵本で大人気に! おもな絵本の作品に『りょうりを してはいけない なべ』『コックの ぼうしは しっている』『カッパも やっぱり キュウリでしょ?』(以上、講談社)、『キャベツが たべたいのです』(教育画劇)、『たべものやさん しりとりたいかい かいさいします』(白泉社)、『オニじゃないよ おにぎりだよ』『カレーは あとの おたのしみ』(以上、えほんの杜)、『クリコ』『ラッキーカレー』(以上、小学館)などがある。