奇跡の絵本『100万回生きたねこ』の佐野洋子が描く“かわいくない”絵本たち

大人の絵本の世界へようこそ

絵本作家 エッセイスト:佐野 洋子

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あなたの知っている佐野洋子さんは、ミリオンセラーの絵本『100万回生きたねこ』の作者でしょうか。

それとも、『神も仏もありませぬ』など、数々のエッセイを残した名エッセイストでしょうか。

大胆な物言いやふるまい、おおらかな人生観、そして繊細な心遣い。生前を知る人が、“かっこいい人だった”と声をそろえて語る佐野さん。

孤独、病、老い、死など人生において重要なことをタブー視しないエッセイは、常識にとらわれず、ユーモアと自由な精神にあふれています。

もちろん、絵本だって、ひとすじなわではいかない作品ばかり。

のびのびした絵、読むたびに、印象が変わるストーリー。

佐野洋子さんの“かっこよさ”が伝わってくる絵本11冊をご紹介します。

”ちょっぴりブラック”が味わい深い絵本たち

『すーちゃんとねこ』
おはなし・え:さのようこ こぐま社

ねこちゃんが先に見つけて木に登って取ってきた風船を、すーちゃんが横取り。家へ持って帰って自分の物にしてしまいます。ねこちゃんは家の外でずっと待っていますが……。
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はじめての創作絵本『すーちゃんとねこ』は、「いじわる」がテーマ。人間の心の機微に鋭い佐野さんならではといえるかもしれません。

すーちゃんの相手を伺ういじわるそうな横目と、ねこの表情ががなんともいえませんね!
『おれは ねこだぜ』
作・絵:佐野洋子 講談社

なによりも魚が好きで、魚の中でもさばが大好きなねこがいました。ねこが林の中を歩いていると、たくさんのさばが、ねこをめがけて泳いできます。魚たちは、きれいな声でうたいます。「きみは さばを くっただろ。」……。
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大人も子どもも文句なく笑える、ナンセンス絵本です。

ねこが大好きなはずのサバの大群におっかけられるお話です。勢いのある絵で描かれたサバの大群に、ちょっぴり怖くなってしまうかも!

サバで怖くなるなんて、きっと世界中でこの絵本だけかもしれません。

「空を飛ぶ」のは、ほんとうの勇気?

『空とぶライオン』
作・絵:佐野洋子 講談社

あるところに、とてもりっぱなライオンがいました。毎日やってくるねこのために、空にとびあがってえものをとってきます。やがてライオンはだんだんつかれてきて、おきあがれなくなってしまい、そして……。
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『おれは ねこだぜ』では、サバの大群が飛びましたが、『空とぶライオン』では、強さの象徴としてライオンが飛び続けます。黄金のたてがみ、きりっとした瞳、表紙のライオンはいかにも強そうです。

けれども、読み進むにつれ、ねこにはやされて、飛びつづけてしまうライオンが心配になっていきます。もうそんなにがんばらないで、と声をかけたくなるのです。

勢いのある絵とあいまって、衝撃のラストでは息をのむこと必至の作品。
『ふつうのくま』
作・絵:佐野洋子 講談社

くまのお父さんは、死ぬとき、くまに言いました。「おまえがそらをとべるくまだと わたしはうれしいけどな。」
赤いじゅうたんで空をとぼうとするくま。でも、くまの家の床下にすんでいるねずみは、そんなくまのことが心配です。
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『ふつうのくま』では、くまが飛ぶことにとらわれているようです。お父さんがそう望んでいたからかもしれません。

けれど、飛ぶことは、ほんとうの勇気でしょうか? 

ライオンにはだれもいませんでしたが、くまには、ねずみがいてくれました。相手を思う、静かな愛の物語です。

そこはかとなく怖い物語

『ねこ いると いいなあ』
作・絵:佐野洋子 講談社

「ねこ いると いいなあ」と願う少女が、ねこの絵を1匹、2匹、3匹と描いていくと、やがて部屋中ねこだらけに。けんかするねこ、かみつくねこ、赤ちゃんを産むねこ。少女はお母さんに助けを求めます……。
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『ねこ いると いいなあ』なんて、かわいいタイトル。クレヨンで描いた、やわらかい色調の絵。

すっかり油断してしまいますが、これは「ねこがきた! わあ、かわいい」で終わる絵本ではありません。そう思ってみると、表紙の絵もなんだか不穏に見えてきますね。

女の子は100万回もお母さんに「ねこ ほしいよう」とねだるのですが、あっさりあしらわれてしまいます。

「おかあさんの ごうじょう」と言っていた女の子が、怖くなってきたときに最後にたよるのは、でもやっぱりお母さんでした。
『おばけサーカス』
作・絵:佐野洋子 講談社

ひろばが ありました。
ひろばには まいにち まっかなたいようが しずみます。
あるひ まっかなひろばに サーカスが やってきました。

「おばけサーカス」は、本物のおばけのサーカス。お父さんのムチで練習に力が入ります。最後の仕上げは人間に化けること。ところが、朝になると……。

*第27回サンケイ児童出版文化賞推薦
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『おばけサーカス』は、ほんとうのおばけたちのサーカスです。表紙の、夕日でまっ赤な広場にあるサーカスは、なにかが起こる気配にみちています。

おばけたちは熱心に練習にはげむのですが、さあ、このラスト、あなたはどう感じましたか?

絵の人気が高い一冊です。

愛すべきおじさんたち

『おじさんのかさ』
作・絵:佐野洋子 講談社

りっぱなかさがぬれるのがいやで、かさをさそうとしないおじさん。ある雨の日、子どもたちの歌をきいたおじさんは、はじめてかさを広げてみました。すると……。

*厚生省中央児童福祉審議会推薦文化財
*第22回サンケイ児童出版文化賞推薦
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表紙の、素敵な傘をもって歩くおじさんの顔の得意そうなこと。 「このおじさん知ってる!」という人、多いのではないでしょうか。読み聞かせでも、とても人気のある1冊です。

すました顔をしているおじさんですが、立派な傘を大事に大事にしているなんて、かわいいですよね。

雨が傘にあたる音の描写が楽しくて、雨の日が待ち遠しくなりそう。

ちょっとかたくなだったおじさんのことが愛おしくなる絵本です。
『おぼえていろよ おおきな木』
作・絵:佐野洋子 講談社

みごとな おおきな木が ありました。おおきな木のかげの ちいさないえに, おじさんが すんでいました。
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こちらのおじさんは、家の前にある、おおきな木が気に食わないよう。おおきな木の下でお茶を飲んだりするのに、ことあるたびに、おおきな木に悪態をついています。

身近で、ほんとうは大好きなものに、あたらずにはいられないのがおじさんなのだとしたら、切ないですね。

本当に大切なものは、失ってはじめてわかる。たっぷりのユーモアで包んで、そんな大切なことが伝わってきます。希望を感じるラストに、ときどき読み返したくなるお話です。

かっこいいって、どんなこと?

『ねえ とうさん』
作・絵:佐野洋子 小学館

「ねえ とうさん、てを つないでも いい?」ひさしぶりにかえってきたとうさんとくまの子はさんぽにでかけました。かわのはしがながされていても、とうさんはへいき。おおきいきをバキッとおって、かわにはしをわたします。「すごい! とうさん」

*第7回日本絵本賞受賞
*第51回小学館児童出版文化賞受賞
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佐野洋子さんは、かっこいい人だったそうです。そんな “かっこいい佐野洋子” が描くお父さんもまた、かっこいい。

川を渡るために大きな木を折って橋にしてしまうなんて、くまらしいとうさんにあこがれてしまいます。

お父さんと一緒に読んでみるのもいいですね。
『100万回生きたねこ』 
作・絵:佐野洋子 講談社

100万年も しなない ねこが いました。
100万回も しんで, 100万回も 生きたのです。
りっぱな とらねこでした。
100万人の 人が, そのねこを かわいがり,100万人の 人が, そのねこが しんだとき なきました。
ねこは,  1回も なきませんでした。
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佐野洋子さん39歳のときに刊行となった『100万回生きたねこ』。
それについて、エッセイの中でこのように書いています。
<一匹の猫が一匹のめす猫にめぐり逢い子を産みやがて死ぬというただそれだけの物語だった。『100万回生きたねこ』というただそれだけの物語が、私の絵本の中でめずらしくよく売れた絵本であったことは、人間がただそれだけのことを素朴にのぞんでいるということなのかと思わされ、何より私がただそれだけのことを願っていることの表れだったような気がする。> 「二つ違いの兄がいて」『私はそうは思わない』収録 佐野洋子 筑摩書房より 
100万回生きたことをきっと、かっこいいと思っていたとらねこ。とらねこの一生を読んで、「ただそれだけの物語」、あなたはどう感じるでしょうか。
『だってだっての おばあさん』
さく・え:佐野洋子 フレーベル館

「だって わたしは おばあちゃんだもの」それが、くちぐせのおばあさん。でも、99さいのおたんじょうびに、ねこがかってきたろうそくは、たったの5ほん。つぎのひ、おばあさんは……。
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最後にご紹介するのは、「だって わたしは 98だもの」といって、ねこと静かに暮らしていたおばあさん。ある日、誕生日ケーキのろうそくの数が5本だったことから、「だって わたしは 5さいだもの」と大変身!​

気持ちのよいリズミカルな文章ととぼけた味わいの絵が楽しくて、お孫さんへの読み聞かせにも人気の1冊です。

佐野洋子さんの描く、大人にささる絵本11冊をご紹介しました。あなたの大事な1冊になるのは、さあ、どれでしょうか。

『100万回生きたねこ』関連本・関連記事

『100万分の1回のねこ』
講談社文庫  

江國香織、谷川俊太郎をはじめとする13人の作家や挿絵画家が、佐野洋子と絵本『100万回生きたねこ』に敬意を込めて書き上げた珠玉の短篇集。
『総特集 佐野洋子 増補新版: 100万回だってよみがえる』
河出書房新社

佐野洋子没後10年特集を増補した永久保存版。単行本未収録の発掘エッセイや童話、江國香織・広瀬弦の新規対談を収録。
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さの ようこ

佐野 洋子

Yoko Sano
絵本作家・エッセイスト

1938年6月28日中国・北京生まれ。武蔵野美術大学デザイン科卒業。 主な作品に『100万回生きたねこ』(講談社)、『おじさんのかさ』『おばけサーカス』(講談社・サンケイ児童出版文化賞推薦)、『すーちゃんとねこ』(こぐま社)、『わたしのぼうし』(ポプラ社・講談社出版文化賞絵本賞)、『だってだっての おばあさん』(フレーベル館)、『ねえ とうさん』(小学館・日本絵本賞/小学館児童出版文化賞)などの絵本や、童話『わたしが妹だったとき』(偕成社・新美南吉児童文学賞)、さらに『神も仏もありませぬ』(筑摩書房・小林秀雄賞)、『役にたたない日々』(朝日新聞出版)、『シズコさん』(新潮社)、『死ぬ気まんまん』(光文社)、『佐野洋子対談集 人生のきほん』(西原理恵子/リリー・フランキー 講談社) などのエッセイ、対談集も多数。 2003年紫綬褒章受章、2008年巌谷小波文芸賞受賞。2010年11月5日72歳で逝去。 ©︎ JIROCHO, Inc.               

1938年6月28日中国・北京生まれ。武蔵野美術大学デザイン科卒業。 主な作品に『100万回生きたねこ』(講談社)、『おじさんのかさ』『おばけサーカス』(講談社・サンケイ児童出版文化賞推薦)、『すーちゃんとねこ』(こぐま社)、『わたしのぼうし』(ポプラ社・講談社出版文化賞絵本賞)、『だってだっての おばあさん』(フレーベル館)、『ねえ とうさん』(小学館・日本絵本賞/小学館児童出版文化賞)などの絵本や、童話『わたしが妹だったとき』(偕成社・新美南吉児童文学賞)、さらに『神も仏もありませぬ』(筑摩書房・小林秀雄賞)、『役にたたない日々』(朝日新聞出版)、『シズコさん』(新潮社)、『死ぬ気まんまん』(光文社)、『佐野洋子対談集 人生のきほん』(西原理恵子/リリー・フランキー 講談社) などのエッセイ、対談集も多数。 2003年紫綬褒章受章、2008年巌谷小波文芸賞受賞。2010年11月5日72歳で逝去。 ©︎ JIROCHO, Inc.