環境省の調べ(※1)によると、紙おむつの生産数量は10年ほど前に比べ、乳幼児用・大人用ともに増加傾向にあります。2030年には、一般廃棄物に占める紙おむつの割合は約7%になると推計されています。
また、使用済み紙おむつは“し尿”を吸っていることなどから、焼却時にかかる処理場への負担も大きく、CO2排出量も問題視されています。2020年3月には、「使用済紙おむつ再生利用等に関するガイドライン」(※2)も策定されました。
そんななか、SDGsの実践の一環として、使い終わった紙おむつを新品の紙おむつに生まれ変わらせる、「紙おむつの水平リサイクル」に取り組む企業が出てきています。
今回は、世界初の技術で紙おむつのリサイクルに自治体とリサイクルセンターと協働で取り組むユニ・チャーム株式会社と、3社協働でおむつのリサイクルを目指す大王製紙株式会社に取材し、「紙おむつの水平リサイクル」について話をうかがいました。
※1 使用済紙おむつのリサイクルに関する情報整理/環境省
※2 使用済紙おむつ再生利用等に関するガイドライン/環境省
※全4回の3回目。1回目、2回目はこちら。
複雑な素材と技術で進化した紙おむつ
一般社団法人日本衛生材料工業連合会(※3)によると、日本で本格的な紙おむつが発売されたのは、1963年のこと。
その後、1984年には高分子吸水材(ポリマー)採用の紙おむつが発売され、おむつの吸収性能が向上、便利で簡単な使い捨ての紙おむつがスタンダードな時代に突入します。
※3 紙おむつの歴史/一般社団法人日本衛生材料工業連合会
現在広く使われている紙おむつは、いくつもの複雑な素材が層になっています。
「一般的な紙おむつは、メーカーに関わらず、同じような構造をしています。大人用紙おむつでも、乳幼児の紙おむつでもほぼ同じ素材と構造となっています」(ユニ・チャーム株式会社・リサイクル事業推進室・織田大詩さん)
衛生的で洗濯や交換の必要がない紙おむつの登場は、私たち生活者の負担を軽減してくれた一方で、「ゴミ問題」と切っては切れない関係にあります。
便利な使い捨て紙おむつが抱える課題
ムーニーやマミーポコなどの乳幼児用の紙おむつをはじめ、さまざまな衛生用品を販売するユニ・チャーム株式会社では、早くからこの問題に積極的に取り組んできました。
「紙おむつメーカーとして、『紙おむつを廃棄してしまうだけではなく、少しでも資源の有効活用ができないものか』という課題と常に直面していました」(ユニ・チャーム・織田さん)
利便性と環境問題との両立ができないかと、「紙おむつの水平リサイクル」のビジョンを思いついたのは、今から10年以上前のことだったといいます。
「ユニ・チャームの紙おむつのリサイクルプロジェクトは、当時、商品開発の研究を行っていた亀田範朋(現・リサイクル事業推進室長)と小西孝義(現・リサイクル事業推進シニアマネージャー)、二人の社員の熱い想いからはじまりました。
2010年、亀田は既存のリサイクル事例についてリサーチをするなかで、廃棄される紙おむつには、これからの社会で解決すべき課題がいくつもあるということを痛感します。そこで、『紙おむつのリサイクル』を思いついたのです」(ユニ・チャーム・織田さん)
しかし最初は、「リサイクルされた紙おむつなんてとても世間には受け入れられないだろうと社内でも懐疑的だった」と織田さんは話します。
もちろんその当時、使用済み紙おむつの水平リサイクルの前例はありませんでした。
現在この「紙おむつ水平リサイクル」プロジェクトは、組織横断型チームによる「RefF(リーフ)プロジェクト」として、ユニ・チャームのパーパスとなっています。
一方、グーンなどの紙おむつを発売する大王製紙株式会社は、2022年6月に、紙おむつや医療用製品の製造・販売等をおこなう株式会社リブドゥコーポレーションとの共同研究を発表。
大王製紙の企画・技術開発部・竹内寅成さんは、「紙おむつメーカーとして、作った製品の責任を最後まで持つべきだと考えている」と語ります。
「リサイクルの早期実現を目指して、おむつのリサイクルをすでに実践し、技術を持っている企業と協働で水平リサイクルを促進していくことを考えました。水平リサイクル技術の開発をはじめ、おむつの廃棄・回収フローなど、紙おむつリサイクルの総合的な流れも整えていく予定です」(大王製紙・竹内さん)