2022.04.01

ブックマーク

『赤毛のアン』の幻の“レイヤーケーキ”を作ろう

読んで楽しい、作っておいしいエッセー&レシピ 児童文学キッチン#02

児童文学作家の小林深雪さんと、お菓子研究家の福田里香さんのかわいい本『児童文学キッチン お菓子と味わう、おいしいブックガイド』から、読んで楽しい、作っておいしい、エッセー&レシピを厳選してお届けします。

第2回目は、『赤毛のアン』。世界中で愛されている赤毛の女の子が、大好きな人のために心をこめて作ろうとした、あの幻のケーキです。(「児童文学キッチン」のほかの記事を読む)

アンが作るはずだった、真っ赤なゼリーをはさんだ、バニラ風味のレイヤーケーキ(福田里香)

  <しかしながら、お菓子はふくれた。そして、黄金のあわのように、ふんわり、かるくできあがって、かまどからあらわれた。アンは、うれしくて顔を上気させ、まっ赤なゼリーをはさんだ。やがて、ミセス・アランがそれを食べて、ことによると、もうひと切れと、おかわりを望むかもしれないのだ。
「もちろん、いちばんいいお茶道具を使うんでしょう、マリラ? テーブルに、シダや野バラを飾っていい?」>
『赤毛のアン』より

「レイヤーケーキのことを考えると、からだが冷たくなってしまうわ。おお、ダイアナ、もし、うまくできなかったら、どうしようかしら? ゆうべ、大きなレイヤーケーキの頭をしたおそろしい鬼に追いかけまわされる夢を見たのよ。」

と、腹心の友、ダイアナに打ち明けるほど、お茶会の準備に緊張しているアン。

それもそのはず、お気に入りのミセス・アランを初めてお招きする会だからです。

一見、上手に焼き上がったケーキにどんな問題が起こったか、それは本を読んでのお楽しみ。

ここでは、アンが作るはずだった幻の成功版ケーキをご紹介します。

ゼリーは、ゼラチン菓子のゼリーではなく、なめらかなジャムのこと。そんな英語表現のニュアンスを学んだのも、アンからです。(福田里香)

一年中、夢見ている​アンのおしゃべりは自分の心の奥に眠る声(小林深雪)

<「あのね、マリラ、なにかを楽しみにして待つということが、そのうれしいことの半分にあたるのよ。」と、アンはさけんだ。「そのことは、ほんとうにならないかもしれないけれど、でも、それを待つときの楽しさだけは、まちがいなく自分のものですもの。
 リンドのおばさんは、『なにごとも期待せぬ者は幸いなり、失望することなきゆえに。』って言いなさるけれど。でも、あたし、なんにも期待しないほうが、がっかりすることより、もっとつまらないと思うわ。」>
『赤毛のアン』より

「あたし、あんまりおしゃべりしすぎて? いつも、みんなから、そう言われているのだけれど、あたし、おしゃべりしないほうがいいかしら? そうだったら、そう言ってくださったら、すぐにやめるわ。決心すれば、やめられてよ。骨は折れるけれどね。」

出会いの日に、アンはマシュウに聞きます。
でも、マシュウの答えは、

「ああ、好きなだけ話をしていいよ。わしはかまわないからな。」

十一歳のアンは、どんなにかうれしかったことでしょう。

子どもは、新しい体験をしたとき、それを大人に伝えたくてしかたないのです。大人に聞いてほしいのです。でも、大人は、いつも忙しそうで、子どもの話にゆっくりと耳を傾けてくれません。

一方で、マシュウもうれしかったのです。

内気で無口なマシュウは、畑を耕しながら、妹のマリラとふたりで質素に暮らしています。男の子を引き取ろうと思っていたのに、手違いでやってきたのは女の子。

でも、アンの話を聞くことは、マシュウにとって、子ども時代の無邪気に楽しい日々を追体験することだったはず。

それから五年、マシュウが病気になります。

「もし、あたしが男の子だったら(略)いまとても役に立って、いろいろなことでマシュウおじさんに楽をさせてあげられたのにね。」

と言うアンに、

「そうさな、わしには十二人の男の子よりも、おまえひとりのほうがいいよ、アン。」

と言うマシュウ。

そして、「悲しみが訪れるまえの最後の晩」に、はじめて、アンにこう言うのです。

「わしのじまんの娘じゃないか。」

いまでも、このシーンを読むと、瞳がうるんできてしまって、困ります。

わたしにとって、『赤毛のアン』は、アンの成長物語であるとともに、不器用で孤独な子どもと大人が、心を通わせる物語なのです。

人生には、先の見通せない曲がり角に来るときが、必ずあります。

「でも、きっと、いちばんよいものにちがいないと思うの。」

アンはそう言いきります。そのときは思いどおりにいかなくても、曲がり角のその先には、思わぬよろこびが、素敵なことが待っているかもしれません。

駅で、突然、そばかすだらけの赤毛の女の子が、マシュウを待っていたように。(小林深雪)

真っ赤なゼリーをはさんだ、バニラ風味レイヤーケーキを作りましょう(福田里香)

材料

●パウンドケーキ
(直径15〜18cmの丸型1個分)


無塩バター  60g
砂糖  90g
卵  1個
バニラビーンズ 3cm
(またはバニラエッセンス 数滴)
牛乳 120ml
酢 大さじ1


薄力粉 170g
重曹 小さじ1/2
ベーキングパウダー小さじ1/2
塩 ひとつまみ

デコレーション
レースペーパー 1枚
粉糖 適量

●ラズベリージャム
(作りやすい分量 約200ml分)

冷凍ラズベリー 200g(1パック分)
レモン果汁 8分の1個分
グラニュー糖 150g
バニラビーンズ 3㎝

*冷凍ラズベリーの代わりに、いちご200gで作ってもいい。

パウンドケーキを作る

下準備:型にクッキングシートを敷いておく。

1  aを合わせ、粉ふるいでよくふるう。

 牛乳と酢をスプーンで混ぜ、とろりとさせる。

3 ボウルに室温でやわらかくしたバターと砂糖を入れ、泡立て器で白っぽくふんわりするまですり混ぜる。そこにさやからしごき出したバニラビーンズを加える。

 3に溶き卵を少しずつ加え混ぜる。

5  4に1の4分の1量を混ぜる。次に2の4分の1量を混ぜる。これを交互に繰り返し、全量を混ぜる(ダマ防止のため)。

 5を用意した型に流し、ゴムべらで軽く平らにならす。

 6を180℃に温めたオーブンで25~35分焼く。中心に竹串を刺して何もつかなければ、焼きあがり。金網の上で完全に冷ます。

8  包丁で7を横半分に切り、切り口に「真っ赤なゼリー」をたっぷり塗る。生地の底が上になるように、2枚を重ねる(底はきれいに平らなので)。

9  8の上にレースペーパーをのせる。上から茶こしで粉糖を一面にふるう(写真参照)。そっと紙をはずす。

真っ赤なゼリー(ラズベリージャム)を作る

1 ​ジャムを作る。ボウルに冷凍ラズベリーとグラニュー糖、レモン果汁を入れ、木べらで軽く混ぜ合わせ、しっとりと水分が出るまで1時間置く。

 1をホウロウ鍋に入れ、強火にかける。軽く木べらで混ぜながら、沸騰してあくが浮いてきたら、スプーンでていねいに取り除く。

 中火にして、焦げつかないように、木べらで鍋底のほうからゆっくり大きく混ぜながら、とろりとするまで5~8分ほど煮詰める。

 少しゆるいかな、というところで、鍋を火からおろし、一度冷ましてみる。(冷めると一段かたくなるため)。ゆるすぎる場合は再度、煮詰める。

『赤毛のアン』はこんなお話です(小林深雪)

ルーシー・モード・モンゴメリ(1874-1942)は、カナダのプリンス・エドワード島生まれの作家。『赤毛のアン』は出版されると大人気になって、続編も次々と書かれました。シリーズは全10冊で、アンが50代になるまでが描かれています。
映画やアニメになるなど、出版から100年以上たったいまでも、世界中で愛されているお話です。
「アン」シリーズには、おいしそうな食べものがたくさん登場するのも魅力。アンがダイアナにごちそうする「いちご水」は、子ども時代にあこがれでした。(小林深雪)

講談社青い鳥文庫『赤毛のアン』
原作:L・M・モンゴメリ 訳:村岡花子 絵:HACCAN

続きのお話も読むことができる青い鳥文庫版。すべての漢字にふりがなつきで、読みやすい児童文庫版。HACCANさんのかわいいイラストも大人気です。

『赤毛のアン』
作:ルーシー・モード・モンゴメリ 訳:村岡 花子  装画:北澤 平祐

2022年は村岡花子が日本に赤毛のアンを紹介して70周年。それを記念して出版された改訂版です。

大好きな物語に出てくるお菓子がレシピ付きで作れる!

『児童文学キッチン  お菓子と味わう、おいしいブックガイド』
文:小林深雪  料理:福田里香  講談社

読んで楽しい、作っておいしい!
小林深雪先生の大好きな児童文学作品にインスパイアされたかわいいお菓子を福田里香さんのレシピつきで紹介!

*現在入手困難なため、図書館などで探してくださいね。

(編集協力:俵ゆり)

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