題材選びは肝の肝…作家が教える「ぼんやりしがちな設定を見直す」凄ワザ

YA作家になりたい人のための文章講座 #2

作家:石川 宏千花

十四歳のための小説を書いているわたしがお話できる5つのこと

ヤングアダルト小説(※)を「十四歳のための小説」と位置付けているのが、『化け之島初恋さがし三つ巴』を連載中の作家・石川宏千花さん。

「ほぼすべての人の中に十四歳はいる」と語る石川宏千花さんが、ご自身の創作の舞台裏を明かしながら、プロならではの視点で「ヤングアダルト小説」の書き方を解説する連載をおおくりします。

(※ヤングアダルト小説=童話と一般文芸の間をつなぐ、思春期世代のための作品群のこと)

連載第2回では、作品の肝となる「題材選び」について解説します。(以下より本編)

YA作家になりたい人のための文章講座
#1
#2(←今回はココ)
#3(4月1日公開)
#4(4月15日公開)
#5(5月1日公開)

初回をお読みいただいた方、おつきあいを継続してくださってありがとうございます。今回からという方、ここからが本編のようなものなので、困ることはまったくないです。

……念のため、初回のまとめと今後の予定を置いておきます。

初回のざっくりしたまとめ:(ひそめた声で)じつはわたし、児童文学をちゃんと勉強した経験もなく、ただ好きだから、ただ書きたいから、というだけでいまにいたっているような者なのです……。(第1回目はこちらから)

第2回目以降のおおまかな内容:それでもよければ、わたしがYAを書く上で、これだけは! と気をつけていること、ベースにしていることを、ざっと5つにわけてお伝えしていこうと思います。

それでは本編……あらため第2回目、はじめます。

①題材選びは肝の肝

たとえば、こんな設定があったとします。

【十四歳の主人公がいる。家族の仲はいい。学校にも問題はない。唯一の悩みは、自分に取り柄がないこと。得意なことがあって目立っている友人たちがまぶしい。いろいろあって、目立たなくても自分にしかできないことがあったと気づいてーー】

このぼんやりとした設定でも、めちゃくちゃセンスのいい方に、これでなんとか書いてください、とお願いすれば、うそみたいに素敵なYAが生まれてしまうのかもしれません。

でも、それってセンスがいいうえに、YAを書き慣れている方にしかできない職人技みたいなものであって、書き慣れていないのにこのぼんやりとした設定で書こうとすると、大抵の人が、「なんとなくYAっぽいけど、なにが書きたいのかよくわからなかった」っていうお話になってしまうと思うんです。

そして、わたしの知る限り(かつてのわたしも含めて)、YAを書きはじめたばかりのころに、これなら書けるかも、と思って選びがちな設定ってこんな感じなんじゃないかな、とも。

〈ふつうの子の、ふつうなお話〉。これをうまく書ければYAになるんじゃないかって、なぜか思ってしまうんですね。

ぼんやりしがちなもの、それはYAの設定

YAって、青春小説でもあります。青春というもの自体がぼんやりとした正体不明なものなので、そういう設定も正解といえば正解なのかもしれません。とはいえ、ぼんやりした設定の青春小説は、ひとりよがりなものになりがちです。

ただでさえ書き慣れていないときに、これは非常に危険です。人に読んでもらえる小説になるかならないかの境界線で、もっともくっきり引かれている線はおそらく、ひとりよがりかそうじゃないかのあいだに引かれているからです。

これはもう、わたしが過去の投稿作品を読み返してみて確認したことなので、まちがいありません。

のちのちの自分にダメージを与えないためにも、〈ひとりよがりな小説を書いてしまう〉は回避したいところです。

さて、どうすればいいのでしょう。

いい手があったんです。わたしはこれに気づくのがだいぶ遅くて、ちょっと損した気持ちになったくらいなのですが……。

「ひとりよがり」を回避するには

ひとりよがりを回避するのに、使わない手はない手。

それは、題材の吟味。

題材を吟味して吟味して、選びまくるんです。

正直なところ、わたし自身は題材選びがあまり上手ではありません。〈ふつうの子の、ふつうなお話〉を魅力的に書けたらいいな、という気持ちがいまだにあるようなのです。わたし自身が、とてもふつうの子で、めちゃくちゃふつうなことに悩んでいた十四歳だったからかもしれません。

まだまだ未熟なわたしが、〈ふつうの子の、ふつうなお話〉をおもしろくするには工夫がいります。

わたしなりの工夫のひとつが、エンターテインメント系という着ぐるみを着せてしまう、でした。この選択もまた、ある意味では題材選びといえるのかもしれませんが、これはまた別のお話ということで、ここではあくまでも、青春小説寄りのYAにおける題材について考えてみます。

題材ってなに?

で、題材ってなに? というところをうまく説明できる自信がないので、ひとりよがりになりがちな設定として先ほど出したあれを、アレンジしてみます。

【十四歳の主人公がいる。家族の仲はいい。学校にも問題はない。唯一の悩みは、匿名のアカウントでの誹謗中傷をやめられないこと。とはいえ、相手は芸能人だし、だれにも知られていないと安心していたのに、突然、「知ってるよ」というメッセージが届いてーー】

どうでしょう。唯一の悩みは、という部分までは同じです。そこに〈匿名のアカウントでの誹謗中傷〉が入ってきたことで、物語に癖がついた感じがしますよね。

どうして主人公は、よくないことだと思いながらも誹謗中傷をしてしまうのか。その理由を、「芸能人の悪口ならいいと思っていた」「本当にいいたい相手にはいえないから、その代わりだった」としたなら、【悪意のないSNS加害者】を題材にした物語にできます。

物語の顔にもなってくれる働き者

【悪意のないSNS加害者】は、主人公が抱えている問題であると同時に、さまざまな側面を持つ社会問題でもあります。必然的に、ひとりよがりな物語になりにくい設定になった、といえますよね。

テーマといいかえることもできるけれど、それよりはもう少し具体的なのが題材、としておきましょう。これをしっかり考えることで、ひとりよがりになりにくいよう先手を打っておくのです。

そして、題材を吟味することにはもうひとつ、メリットがあります。「スタンダードな青春小説です」と紹介されるよりも、「【悪意のないSNS加害者】のお話です」といわれたほうが、「ん?」ってなりませんか? 物語の顔にもなってくれるわけですね。

——と得意げに語ってきましたが、わたしはそんなことにも気づかずに投稿していたのです。どうですか? それでもなんとかなっている書き手がいる、という事実に、ちょっと勇気が出ませんか? 

というわけで、さらに勇気が出るかもしれない第3回目のお題は、

②キャラクターとは考えない
③いいたいことはいわせない


です。

関連リンク

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石川宏千花さんの新シリーズ『化けの島初恋さがし三つ巴』、コクリコで連載スタート!
(毎月1日、15日更新)

(画:脇田茜)

14歳のためのW連載記念! YA小説『化け之島初恋さがし三つ巴』イメージ動画

いしかわ ひろちか

石川 宏千花

作家

『ユリエルとグレン』で、第48回講談社児童文学新人賞佳作、日本児童文学者協会新人賞受賞。主な作品に『お面屋たまよし1~5』『死神うどんカフェ1号店』『メイド イン 十四歳』(以上、講談社)、『墓守りのレオ』(小学館)などがある。『少年Nの長い長い旅』(YA! ENTERTAINMENT)と『少年Nのいない世界』(講談社タイガ)を同時刊行して話題となった。『拝啓パンクスノットデッドさま』(くもん出版)で、日本児童文学者協会賞を受賞。

『ユリエルとグレン』で、第48回講談社児童文学新人賞佳作、日本児童文学者協会新人賞受賞。主な作品に『お面屋たまよし1~5』『死神うどんカフェ1号店』『メイド イン 十四歳』(以上、講談社)、『墓守りのレオ』(小学館)などがある。『少年Nの長い長い旅』(YA! ENTERTAINMENT)と『少年Nのいない世界』(講談社タイガ)を同時刊行して話題となった。『拝啓パンクスノットデッドさま』(くもん出版)で、日本児童文学者協会賞を受賞。