2022.05.01

ブックマーク

「好き・推し」が成功につながる…受賞作の背景を作家が語る

YA作家になりたい人のための文章講座 #5

作家:石川 宏千花

十四歳のための小説を書いているわたしがお話できる5つのこと

ヤングアダルト小説(※)を「十四歳のための小説」と位置付けている、『化けの島初恋さがし三つ巴』を連載中の作家・石川宏千花さん。

「ほぼすべての人の中に十四歳はいる」と語る石川宏千花さんが、ご自身の創作の舞台裏を明かしながら、プロならではの視点で「ヤングアダルト小説」の書き方を解説する連載をおおくりします。

(※ヤングアダルト小説=童話と一般文芸の間をつなぐ、思春期世代のための作品群のこと)

連載を締めくくる第5回では、石川先生の著作『拝啓パンクスノットデッドさま』(日本児童文学者協会賞受賞作(2021年))執筆の背景をもとに、「好き、推し」を題材に創作することを解説します。

YA作家になりたい人のための文章講座
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#5(←今回はココ)

5つ目のお話

初回からおつきあいくださった方、ここまでありがとうございました。最終回です。

最終回? だったら読んでみるかなーと思ってくださった方、「お、意外と……」と思っていただけた場合に備えて、こちらが初回です。

というわけで、5つ目のお話です。もしかするとこれがいちばん、声を大にしてお話ししたかったことかもしれません。

⑤好き、推し、は絶対的な味方

これまでに、4つのお話をしてきました。

「どれもやってみたことがあるけど、それでうまく書けるようにはならなかった」「どれもなんかピンとこなくて、試してみる気にはならなかった」そういうご感想をお持ちになった方もいらっしゃるはず……。

そんな方には、のお話をこれからするのですが、その前にまず、わたしが昨年、日本児童文学者協会賞をいただいた作品『拝啓パンクスノットデッドさま』について、少し語らせてください。

タイトルからも少し、というか、だいぶ漏れ出していますが、パンク(音楽の)を心の支えにして日々を送っている兄弟のお話です。

パンク。あまり馴染みがないな、という方も多いかと思います。しかも、近年のものではなく、はるかむかしにイギリスで生まれた初期パンクなので、さらに入り口がせまくなっています。

『拝啓パンクスノットデッドさま』(日本児童文学者協会賞受賞作(2021年))

題材選びは肝の肝、ではあるのだけれど……

1つ目のお話で、わたしはこういいきりました。題材選びは肝の肝だと。

『拝啓パンクスノットデッドさま』では、〈夢中になれるものがあるということ〉を書きたかったのですが、パンクが全面に出ているおかげで、ストレートな音楽ものだと思ってもらえたり、主人公たちの境遇から、貧困やネグレクトが題材のお話だと読んでいただけたりもしました。

親の都合で振り回される子どもたちの不遇も、隠しテーマではありました。ただ、スポットを当てていたのはそこではなく、それでも彼らは……というところでした。隠しテーマの部分は、ピンとくる方もいればうれしいし、ただの音楽ものと読んでもらってもうれしい。そんなふうに考えていました。

題材選びは肝の肝、の中でもお話ししましたが、わたしは題材選びがあまり上手ではありません。〈夢中になれるものがあるということ〉を題材に選ぶ。これはちょっとおすすめできません。物語の顔になったとき、印象がくっきりしないからです。

できる限り題材は、多くの読者の方の興味を引くもの、物語の顔になったときに印象がくっきりするものを選ぶべきです。これはもう、まちがいなくそうだと思います。

それでも、〈夢中になれるものがあるということ〉を書きたかったわたしは、物語の顔がくっきりしていない分、物語そのものは、より揺るぎのないものでなければ、と考えました。

そこで、パンクです。前述した通りパンクは入り口がせまいです。それでも、でした。

なぜなら、パンクは実際にわたしが思春期のころ、心の支えにしていたものだったからです。〈好きなものリスト〉を作るとしたら、いまでもはずすことのできないもののひとつです。

自分が好きなもの。ただ、好きなもの。

これを物語の世界に持ちこんだのが、『拝啓パンクスノットデッドさま』でした。

好き、を物語の中に持ちこんだ結果

力がみなぎるのを感じました。

「これを持ちこんだ世界を自分はいま、書いている」その気持ちひとつで、うそみたいに、すーっと書けたのですーーなんてことはまったくなく、迷い、悩み、煮詰まりつつ、ではありましたが。

それでも、です。

それでもずっと、力はみなぎったままだったんです。

題材も吟味しまくったし、登場人物をキャラクターとは考えずに書いてもみた、作者のいいたいことは登場人物にいわせないようにもしてみたし、推敲だって最初から最後まで暗記するくらいやった、それでもだめだった、なにも変わった気がしないーー。

そういう方は、もう十分、書く力はお持ちなのだと思います。それでもうまくいかない、と悩んでらっしゃる方のために、これまでお話ししてきたことを、ちゃぶ台返しするようなことをこれからいいます。

ご自分の〈好きなものリスト〉に入っているものの中からどれかひとつ選んで、物語の中に持ちこんでみてください。

題材を吟味? 登場人物は物語の中の人? 作者のいいたいことはいわせない? 推敲、大事? すごく大事? どうでもいいわーって思ってもらってだいじょうぶです。

ただただ、力をみなぎらせてください。だって、もう書けるんですから。だったら、この原点にもどっていいと思うんです。

好き、という思いひとつで書いてみる。

自分がずっと好きでいるもの。いまいちばんの推し。なんでもいいです。工夫も戦略もひとまず置いて、〈好きなものリスト〉の中でいちばん光って見えるそれを、仲間に引き入れてください。

最後に加える仲間の強さ

最後に加わった仲間は、数多の物語でも最強の味方になっていますよね。やれることは全部やって、もどるべくしてもどった原点です。そこで加わった仲間としての、好き、推し、です。

それは、なんとなく書くのが楽しそうだから、とか、調べなくても知っているジャンルだから、とか、そういう理由で選んだ〈好きなものを書く〉とはちがう顔をしているはずです。

もう無理、投げ出したい、こんなのおもしろいわけがないーーそんなふうにすっかり弱ってしまったとき、ふと原稿に目をもどせば、なんの損得もなく、ただ好きなだけ、なものについて書かれた文章がある……。

味方になってくれないわけがありません。

だから、最後の最後に助けを求めるなら、最後の最後に仲間に加えるなら、これしかない、とわたしは思います。

以上、わたしがお話することのできる5つのことでした。(で、この5つは実際にちゃんと生かされているの? と気になった方には、新連載『化け之島初恋さがし三つ巴』がおすすめです。こちらから、ささっと読みにいっていただけますので!)

さて、最後のご挨拶です。

読んでもらいたい物語があるのなら、きっときっと書き上げてください。「これは自分のための物語だ!」と思えるYA小説に出会うのを待っている子たちといっしょに、わたしも待っています。 

おつきあいいただき、ありがとうございました!

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#5(←今回はココ)

石川宏千花さんの新シリーズ『化けの島初恋さがし三つ巴』、コクリコで連載スタート!
(毎月1日、15日更新)

(画:脇田茜)

14歳のためのW連載記念! YA小説『化け之島初恋さがし三つ巴』イメージ動画

いしかわ ひろちか

石川 宏千花

作家

『ユリエルとグレン』で、第48回講談社児童文学新人賞佳作、日本児童文学者協会新人賞受賞。主な作品に『お面屋たまよし1~5』『死神うどん...

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