2021.03.16

時間に追われるママへ 絵本専門士が選ぶ「心を落ち着かせたいとき」の3冊

大人に効く絵本〔02〕 『きょうはそらにまるいつき』『あかり』『うごきません。』がおすすめ

写真:GYRO_PHOTOGRAPHY/イメージマート

絵本は、子どものためのもの。そんなイメージがありますが、美しい絵に癒やされたり想像力が鍛えられたり、ハッと気付かされたりと、実は大人にとっても感動がいっぱい。子育て中なら、子どもの頃とはまた違った向き合い方をすることで、わが子に、より絵本のよさを伝えられるかもしれません。

この連載では、絵本のプロがパパママにこそ読んでほしい絵本を、毎回テーマに合わせてピックアップ。
第2回は、絵本専門士であり、“大人のための絵本カフェ”の店長・井上まどかさんが、「心を落ち着かせたいとき」をテーマに厳選した3冊をご紹介します。

たしかに存在する月の存在に、小さな喜びを感じられる1冊

家事に育児、仕事と、いつも時間に追われているパパやママ。のんびり旅行にでかけたり、お気に入りのレストランで食事をしたり、心をいたわる時間があればいいのですが、コロナ禍もあり、なかなか難しいですよね。でも、絵本だったら、ほんの束の間その世界に身を置くことで、心を癒やせる作品がたくさんあります。

今回は、1日の終わりにじっくり堪能していただきたい「時間に追われた心を落ち着かせたいとき」に、おすすめの絵本をご紹介します。

まずは、国内外で高く評価されている絵本作家・荒井良二さんの『きょうはそらにまるいつき』。いろいろな場所で、いろいろな人や動物たちが、いろいろな思いを持って空を見上げるのですが、そこには変わらず、まるい月がある――というお話です。

どんな夜も、空を見上げれば、たしかに存在する月。そのこと自体に安らぎますし、離れていても同じ空の下でつながっているのだという安心感は、心の癒やしになります。日々がんばっていると一日を過ごすのに精いっぱいで、空を見上げる機会はあまりないかもしれません。でも、この絵本をきっかけに「月を見るって、こんなにすてきなことだったんだ」と、日常の中にある〝小さな喜び″を改めて感じられるのではないでしょうか。

私がいいなと思うのは、「きょうはそらにまるいつき」という一文が何度も繰り返されるところ。繰り返しのリズムは耳に心地よく、気持ちを落ち着かせてくれます。そして、言うまでもありませんが、絵がとってもきれい。そばに飾って、じっくり眺めていただきたいです。

数々の受賞歴がある人気絵本作家・荒井良二の『きょうはそらにまるいつき』(作・絵:荒井良二/偕成社)。夜空に浮かぶ美しい満月と、あたたかな街の光に癒やされる1冊。

そっと寄り添ってくれる、「あかり」の深い愛情が胸を打つ

次にご紹介するのは、女の子とろうそくの一生を描いた『あかり』(文:林木林、絵:岡田千晶)です。女の子の誕生を祝って贈られた、大きなろうそく。女の子が幸せなときも辛いときも、寂しいときも、そばに寄り添い、優しい「あかり」を灯してきました。そうして女の子が成長するにつれ、ろうそくはだんだん溶けて小さくなっていき、やがて箱の中にしまわれたまま長い年月が過ぎていくのです――。

ろうそくの「あかり」は、親の無償の愛そのもの。いつの間にか「あかり」と、ご両親・ご家族が重なって、読み手の心をじんわりと温めます。何を言うわけでもないけれど、いつもそばで支えてくれる。「あかり」に照らされた女の子の表情はいつも穏やかで、その深く大きな愛情が伝わってきます。

一方で、子育て中のパパママは、お子さんにとっての「あかり」でもあります。育ててくれたご両親・ご家族に対する思いと、これから育っていくお子さんへの思い。「あかり」に照らされる側と、照らす側。どちらの立場もわかるからこそ、より心にしみるはずです。当たり前に過ごしていると忘れがちですが、「私にもあかりがいる」「私も大切な人を照らすあかりである」という気付きは、忙しい日々の大きな支えになると思います。いつかお子さんへも読み継いでいただけたらうれしいですね。

女の子が生まれた日、初めて灯されたろうそく。どんなときも女の子のそばで見守り続けたろうそくは、だんだんと溶けて小さくなり……。生きることの意味と喜びを静かなトーンで綴る『あかり』(文:林 木林、絵:岡田千晶/光村教育図書)。

パパママも見習って!? 動かない鳥・ハシビロコウ

最後は、お子さんと読んでいただきたい絵本として『うごきません。』(作:大塚健太、絵:柴田ケイコ)をご紹介します。主人公は、一時期メディアで<動かない鳥>として話題になったハシビロコウ。毎日忙しく動いているパパママに、あえて<動かない鳥>の絵本をお届けしたいと思います。

ハシビロコウは、動きません。お友達が来ても、おかしな動物が来ても、じっとしたまま。じゃあ、どんなときに動くのでしょうか? それは……絵本を読んでからのお楽しみ。まったく動かないハシビロコウですが、「おいしい」「怖い」「楽しい」「ビックリした」など、さまざまな感情を抱いていることが描かれています。お子さんにとっては、楽しみながらハシビロコウの特徴を知ることができる1冊です。

パパママには、絵本の中で繰り返される「うごきません」のフレーズをゆっくり読むことで、せかせかした気持ちを落ち着ける効果も。時間に追われているとつい、イライラしたり、「早くしなさい」とお子さんを急かしたりしがちです。ハシビロコウの落ち着きや動じなさは、案外よいお手本になるかもしれませんね(笑)。

疲れていると、文章の長い絵本を読むのが辛いときもありますよね? でも、パパママと一緒に絵本を読んだ時間は、大きくなってからも、お子さんにとって宝物になります。『うごきません。』は短いお話です。ちょっとの時間でいいので、お子さんと絵本を一緒に楽しむ時間が持てたらいいですね。

いつもじっとしていて、友達のカバやヘビが来ても、まったく動かないハシビロコウ。すると、おかしな動物たちが次々にやってきて……。大ヒットコンビによるユニーク絵本『うごきません。』(作:大塚健太、絵:柴田ケイコ/パイ インターナショナル)

絵本カフェの店長で、絵本専門士、元保育士など、さまざまな肩書を持つ井上まどかさん。
写真提供:本人

PROFILE
井上まどか


絵本カフェ「ムッチーズカフェ」店長。絵本専門士、保育士、幼稚園教諭一種、認定心理士の資格を保有。都内の公立保育園に9年間勤務した後、“夢と魔法の王国”での自称・お姉さんを経て、2016年、大人のための絵本カフェ「ムッチーズカフェ」をオープン。2020年11月には、東京・西荻窪にリニューアルオープンを果たす。絵本コラムを多数執筆し、雑誌『たのしい幼稚園』(講談社)では、おすすめの絵本を紹介する連載『たのしい絵本館』を担当。2021年度より、「認定絵本士養成講座」(国立青少年教育振興機構)の講師も務める。

ムッチーズカフェ 公式サイト https://mucchis-cafe.jimdofree.com/
ムッチーズカフェ Twitter  https://twitter.com/mucchiscafe

構成:星野早百合