家事も育児も私ばっか!「夫への不満がたまったとき」におすすめの絵本

大人に効く絵本〔09〕『おりょうりとうさん』『やだやだパパやだ!』『おんぶはこりごり』がおすすめ

「私はこんなに大変なの!」「オレだってやってる!」の争いは多くの夫婦が経験しているはず。そんな気持ちがちょっとしずめられるような3冊の絵本をご紹介します。  写真:アフロ
美しい絵に癒やされたり、ハッと気付かされたりと、大人にとっても感動がいっぱいの絵本。この連載では、“絵本のプロ”がパパママにこそ読んでほしい絵本をテーマに合わせてピックアップ。第9回は、絵本コーディネーター・東條知美さんに、「夫への不満がたまったとき」にママにおすすめの絵本を伺いました。ママだけでなく、パパにもぜひ読んでいただきたい3冊です。

家事育児が妻ばかりなのは夫だけのせい?

――夫に不満があるママのための絵本とは、どんな視点で選んだのですか?

ちょっと硬い話から入りますが、厚生労働省の『令和元年度雇用均等基本調査(事業所調査)』によると、2019年度の男性の育児休業取得率は7.48%だそうです。近年、働き方改革などにより少しずつ社会が変わってきてはいるものの、まだまだ低い数字ですよね。では、パパたち自身はどうなのかというと、「育児に参加したい」と思っているパパも多いですし、「育児をしたいのに会社を休めない」「一生懸命やっているのに妻が認めてくれない」など葛藤しているパパもいて、“パパの鬱”も問題になっているようです。

一方で、共働き夫婦の家事負担のバランスを調べてみたところ、女性ファッション誌『Domani』が2020年に行ったアンケートによれば、妻が8割以上家事を負担している夫婦が全体の半数近いという結果に。最近、“見えない家事”が無数にあるということもSNSで話題になりました。「私ばっかり!」と叫びたくなる現状が可視化されたわけです。

でも、夫婦の現状をいきなり変えるのは難しいですよね。先にお話しした通り、家事育児に参加できないのは、社会全体の意識や会社の事情もあります。不満の責任の所在は、どうやら夫だけにあるわけではなさそうです。じゃあ、何かできることはないかと考えたとき、「絵本を読んでみましょう」と私は伝えたいのです。少しでも家庭が明るくなるきっかけになるような、各々の心に語り掛ける3冊を選びました。

――“夫だけのせいじゃない”と思うだけで、ちょっとだけ不満が軽くなりますね。

「夫への不満がたまったとき」がテーマではありますが、ママだけではなく、パパやお子さんにも読んでいただきたい絵本です。

お父さんにも料理をする“権利”がある!

最初にご紹介するのは、1976年に出版された『おりょうりとうさん』(作・絵:さとうわきこ)です。近年、パパがお料理をするシーンは絵本の中でも当たり前のように出てきますが、ほとんどの主婦が専業主婦だった70年代に、この絵本が描かれたのはおもしろいなぁと思います。

ある日、お父さんがカレーライスを作ろうとすると、道具も材料も「とうさんじゃ いやだいやだ。」と逃げてしまいます。ようやく完成したカレーライスを食卓へ持っていくと、今度はお母さんと子どもたちが「とうさんのはまずそう。」と逃げてしまうのです。こんなことが実際に起きたらお父さんはかわいそうですが(笑)、絵本ですから、あくまでも楽しくコミカルに描かれています。果たして、お父さんの作ったカレーライスの味は……?
家事において、お父さんは非常に力になるのだというお話です。

「家で、お料理を作る権利は、いったい誰にあるのでしょう。」
作者のさとうわきこさんは、こう書かれています。お料理を作るというと、つい「義務」と捉えがちですが、実は食べたいものを自分で作って食べられる「権利」でもありますよね。そうやって考えると、ママの毎日のお料理に対する負担も少しは軽くなるのではないでしょうか。一方でパパたちには、<お料理を作るのは、お母さんだけじゃないですよ。お父さん、あなたにも権利があるのですよ。やってみたら、きっと楽しいですよ>そんな思いが込められたメッセージ絵本ではないかと思います。

――お料理をする権利があるのに、できていない。育児と同じで、葛藤しているパパも多そうですね。

昔と違って、若いお父さんは、学校で女子生徒と同じように家庭科を学んできた世代です。当然のようにお料理ができたり、好きだったりする人も多いはず。パパとママがお互いを認め、支え合う姿をお子さんに見せられたらいいですよね。
休みの日にカレーライスを作ることにしたお父さん。ところが、道具も材料も逃げてしまい……。『おりょうりとうさん』(作・絵:さとうわきこ/フレーベル館)

パパにまかせてしまえば案外うまくいくかも?

次にご紹介するのは、『やだやだパパやだ!』(文:天野慶、絵:はまのゆか)です。4~5歳ぐらいでしょうか。ひとり娘から見たパパの姿が描かれています。

――タイトルを見て、ドキッとするパパも多そうです(笑)。

ですよね。作者の天野慶さんと、はまのゆかさんは、おふたりとも子育て中のお母さん。「パパ、こんな風に娘さんの目に映っているかもしれませんよ?」と、子ども目線のリアルをファンタジーにのせて表現されています。

「じゃあ、なるべくはやくかえってくるから、いいこで まっててね」
ママが結婚式で出かけることになり、お留守番をすることになったパパと女の子。冒頭のセリフひとつからも、ママが普段はなかなかおでかけできない様子、そして、いかにいつも子どものことを気に掛けているかが伝わってきますね。一方の女の子は、パパとのお留守番がイヤでたまりません。

「あーあ、パパとおるすばん、やだなあ。だって……パパ、テレビばっかり みてるから、やだ!」
「パパ、いっしょにあそんでくれないから やだ!」
「パパ、へんなもようのふくきるから やだ!」
「パパ、くさいおならするから やだー!」
すると、女の子が「やだ!」と言う度、パパの様子がだんだんおかしくなってきて……。

ラスト、家に帰ってきたママは、すっかり距離を縮めたパパと女の子を見て「きょうはふたり、ずいぶん なかよしなのね。」と、うれしそうに笑います。きっと共感するママは多いでしょう。

――「パパにお願いして大丈夫かな?」と、ママはつい心配しがちですが、まかせてしまえば、案外うまくやってくれるのかもしれませんね。

子育てにおいて、パパが“頼れる存在”になったら、夫婦の状況はずいぶん変わりますよね。部屋が散らかっていたって、テーブルクロスが汚れていたって、そんなものは些細なこと。パパと子ども、ふたりだけで楽しく過ごしてくれたことが、ママは何よりうれしいのですから。
ふたりでお留守番をすることになった女の子とパパのおかしな一日を描いた『やだやだパパやだ!』(文:天野慶、絵:はまのゆか/ほるぷ出版)。同シリーズの絵本『だめだめママだめ!』も人気。

ママに甘えすぎた家族に起こった悲劇!

最後にご紹介するのは、裕福で幸せそうなピゴットさん一家の数日間を描いた『おんぶはこりごり』(作:アンソニー・ブラウン、訳:藤本朝巳)。ピゴットさん一家には、すてきな家、きれいな庭、ガレージにはかっこいいクルマもあります。でもママは、食事の支度をして、後片付けをして、洗濯をして、アイロンをかけて……いつも家族のお世話をしてばかり。その横で、パパと子どもたちはソファでふんぞり返っています。

――ママを家政婦さんのように扱うパパと子ども、イラッとしますね。

見るからに暗い様子のママ、胸に何かを抱えているようです。みなさんもきっと、こんな気持ちで家事をした経験がありますよね。そんなある日、ママは不満が爆発したのか、置手紙を残して出て行ってしまいます。
「ぶたさんたちのおせわはもうこりごり!」

料理を作ってくれる人も片付けてくれる人もいなくなり、家の中はだんだんとブタ小屋状態に。今までママに任せっきりだったのですから、こうなってしまうのは必然ですよね。そして、ついにパパと子どもたちの姿も……! そんなとき、ママが帰ってきます。

――ドアノブがブタの形になっていたり、壁の模様が花柄からブタ柄に変わっていたり。絵の仕掛けが楽しくて、何度も読みたくなりました。

作者のアンソニー・ブラウンは、絵の中で人の心理を表現する達人です。絵によって、気持ちの変化を表しているのがおもしろいですよね。ママの不在をきっかけに家族が改心する様子が描かれていて、すべてのママにとって気持ちのいいラストが待っていますよ。

“おんぶにだっこ”という言葉がありますが、何においても、ひとりに“おんぶにだっこ”するのは、あまりにも負担です。ただ、それを当事者同士が言葉で伝えると「僕だってやってるよ」「私のほうがもっとやってるわ」と、どうしてもケンカになってしまいます。だからこそ、絵本でコミカルに! パパにこの絵本を手渡して、そっと心の深いところに根を下ろす方法で伝えてみてはいかがでしょう?
毎日パパと息子たちのお世話で大忙しのママは、とうとう家出をしてしまいます。残された家族は、何もできずに困り果てて……。ユーモラスな仕掛けも楽しい『おんぶはこりごり』(作:アンソニー・ブラウン、訳:藤本朝巳/平凡社)。
取材・文/星野早百合
とうじょう ともみ

東條 知美

絵本コーディネーター

絵本コーディネーター、講師、コラムニスト。1973年新潟県上越市生まれ。白百合女子大学児童文化学科卒業。在学中は桑原三郎氏(児童文学研究者)、角野栄子氏(児童文学作家)らに師事。卒業後、メディアファクトリー(現KADOKAWA)、国立国会図書館、幼児教育専門学校などの勤務を経て、絵本コーディネーターに。 絵本を題材に各地で講演、イベントを行うほか、執筆活動、保育士や図書館司書を対象とした研修などを手掛ける。コンセプトは「子どもに絵本を。大人にこそ絵本を。」 公式サイト  https://www.tojotomomi.com/ ブログ「僕らの絵本」 https://ameblo.jp/bokurano-ehon Instagram @tomomitojo Twitter @TOMOMIT

絵本コーディネーター、講師、コラムニスト。1973年新潟県上越市生まれ。白百合女子大学児童文化学科卒業。在学中は桑原三郎氏(児童文学研究者)、角野栄子氏(児童文学作家)らに師事。卒業後、メディアファクトリー(現KADOKAWA)、国立国会図書館、幼児教育専門学校などの勤務を経て、絵本コーディネーターに。 絵本を題材に各地で講演、イベントを行うほか、執筆活動、保育士や図書館司書を対象とした研修などを手掛ける。コンセプトは「子どもに絵本を。大人にこそ絵本を。」 公式サイト  https://www.tojotomomi.com/ ブログ「僕らの絵本」 https://ameblo.jp/bokurano-ehon Instagram @tomomitojo Twitter @TOMOMIT