2021.11.30

ブックマーク

日本社会にとけこむために──日本語を学ぶ外国人の子どもたちのいま

真の共生を目指して、私たちにできること

児童文学作家:中島 空

「海外にルーツを持つ子どもたちがしっかりと成長して大人になり、日本社会の一員として関わってくれたら、社会全体がより面白くなり、より豊かになるはずーー」

日本で暮らす困難を共有しながら、友情をはぐくんでいく外国人の子どもたちを描いた小説『境界のポラリス』(第61回講談社児童文学新人賞佳作)。

作者の中島空(なかしま・くう)さんが、海外にルーツを持つ児童たちと接した経験をもとに、学校生活の現実や、多様性への対応がなぜ必要なのかを解説します。

写真:アフロ

現在、280万人以上の海外の方たちが、この日本で暮らしているといいます。それに伴い、海外にルーツを持つ子どもたちも、増えつつあります。

文部科学省の調査(「外国人児童生徒等の教育の充実について(報告)」)によれば、日本語の指導が必要な生徒の数は5万人以上に達し、不就学状態に陥っている学生は2万人近いとみられるそうです。

日本語がほぼ話せない児童

学生の頃、さまざまな状況の子どもたちに、日本語を教えたことがあります。

ボランティアによる教室では、親に連れられて中国から日本に来たばかり、という子と出会いました。
日本の方、海外の方を問わず、年齢も国籍もさまざまな方が来る場所だったのですが、中国語を勉強していたことが縁で、中国出身の子を担当することになりました。

中学校相当の年齢だったので、日本でも同じように中学校に行くことになりました。妹の面倒をよくみる子でした。ところが、日本語がほぼ話せないので、友達ができず、学校に行く気になれないようでした。

その子の場合には、発音の基礎から勉強していくことになりました。
小さいうちは、ことばにふれていると、それが自然と身につきます。しかし、年齢が上がると、体系的に言語を習得していくことが必要になります。発音や文法をひとつひとつ学んだ上で、地道にコツコツと語彙を増やしていかなければならないのです。

ある塾では、来日から半年足らずの小学生の子と出会ったこともあります。その子も、中国から来ていて、読み書きが得意でした。「中国語で、太宰治を読んだ」と言うので、おとなびている……と感心した覚えがあります。

小学校の生活にも素早く適応して、日本人の友だちとも仲良く買い物にでかけている、と聞きました。ただ、授業には、なかなかついていけないようでした。

まず日常生活の上で必要な語彙を増やし、その上で、学校の授業の内容についても補足していくことになりました。それと同時に、これからの生活に役立つように、日本の文化や習慣にまつわる話題についても紹介するようにしました。

多くの子どもが、いじめを経験

成長の途上で日本に来た子の場合、人間関係がいったんリセットされることになります。そして、異国で、異なる言語、異なる文化の人たちと、新たに関係を築いていくので、苦労も多い、と想像できます。

先生方も努力されているとは思うのですが、学校におけるケアも行き届いているとはいえません。プライバシーにかかわるため、把握は難しいのですが、学校でいじめに相当する経験をしている子もかなりいるようでした。

摩擦や軋轢を恐れて同じ国の人たちで固まりがちになり、日本人と親しくなれない、という声も聞きました。日本に来たものの、学校になじめないことを苦にして、中学校を卒業した後、母国へもどったという人と会ったこともあります。

「自分は何者なのだろう」

アイデンティティの問題も深刻です。誰しもが、大人になっていく過程で、「自分は何者なのだろう」という問題に直面することと思いますが、海外にルーツを持つ子どもたちは人一倍様々な困難に直面するので、自己を確立していく上で、苦しむことも多いと思います。

近年、海外にルーツを持つ子どもたちの現状にまつわる書籍が出版されています。
2020年刊行の『にほんでいきる 外国からきた子どもたち』では、毎日新聞取材班の方々が丹念な取材に基づいて、子どもたちの困難な状況を指摘しています。

『にほんでいきる 外国からきた子どもたち』 毎日新聞取材班 :編

2021年刊行の『海外ルーツの子ども支援 言葉・文化・制度を超えて共生へ』では、NPO法人としてスクールを運営されている田中宝紀さんが長年の経験を踏まえながら、現状を俯瞰されています。

『海外ルーツの子ども支援 言葉・文化・制度を超えて共生へ』 田中 宝紀 :著

さまざまな方の実践や、報道によって、海外にルーツを持つ子どもたちへの関心は高まりつつあります。そして、支援の必要性も認識されるようになってきました。しかし、コロナ禍の中で、これまで以上に、シビアな状況に直面しているようです。

だれにとっても居心地のいい社会に向けて

理想論ですが、適切なフォローがあれば、海外にルーツを持つ子どもたちは、もろもろのハンディキャップを解消して、のびやかに成長していくことができるはずです。

最善なのは、家庭や学校における問題が解決して、子どもたちにとって居心地の良い場所になっていくことです。ですが、学校における、きめ細やかなケアなどがすぐには実現できない場合も多いかも知れません。

そこで、ひとまずは、学校でも家庭でもないサードプレイスが、居心地のいい居場所になれば、と願っています。

海外にルーツを持つ子どもたちも、成長していけば、いずれはこの社会を支えてくれるであろう存在です。多様なあり方をみとめられるようになれば、社会はより面白くなり、より豊かになっていくと思います。

そして、様々なルーツや違いを尊重して、助け合える寛容な社会になれば、巡り巡って、日本人を含むだれにとっても居心地がいいのではないか、と考えています。長く生きていれば、自分や身近な人が、ハンディキャップを抱える側になることだってあるからです。

そういったことを考えながら、『境界のポラリス』という小説を書きました。

初めての小説でしたが、講談社児童文学新人賞選考委員の先生方に佳作に選んでいただけたこと、大変感謝しています。

どうすれば、様々なちがいを尊重した上で、ともに暮らしていくことができるのか、即座に答えがでることはありませんが、切実な問題として考えていきたいです。

『境界のポラリス』 中島 空 :著
恵子は中国生まれ日本育ちの女子高生。母と、母が再婚した日本人の父と三人で暮らしている。ある日、大学院で中国文学を学ぶ幸太郎と出会う。彼は、埼玉県川口市にある日本語教室「青葉自主夜間中学」で、外国人の子どもたちに日本語を教えてもいるらしい。興味を持った恵子は、この教室を訪れるのだが……。

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1992年、埼玉県生まれ。一橋大学大学院言語社会研究科修士課程修了。出版社勤務。2020年、「境界のポラリス」で第61回講談社児童文学...