2022.08.02

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保育士さんに学ぼう 子どもの「成長の過程」を受けとめてイヤイヤ期も楽になる工夫

育児のヒントと工夫は保育園にあった ―荻窪北保育園:實方亮輔園長に聞く―

ライター、翻訳家:金 香清

荻窪北保育園のお泊り会の様子  写真提供・荻窪北保育園

自分の子どもの世話をするのも一苦労なのに、保育士さんはさまざまな個性を持ったたくさんの子どもたちを相手に、一体どうやって向き合っているのだろう?
 
そう、「子育てのヒントは保育の現場にあった」のです。身の回りのちょっとした工夫を学びながら、その背景にある深い育児哲学を学んじゃおう!

子どもの行動を「○か×ではない成長の過程として捉える」というモットーで、3つの認可保育園を運営する社会福祉法人和光会(杉並区阿佐ヶ谷)の保育方針を實方亮輔(じつかた りょうすけ)園長に取材しました。

Googleの検索窓に「いやいや」と打ち込むと、「イヤイヤ期 いつまで」「イヤイヤ期 なぜ」「イヤイヤ期 対応」などのサジェストがずらりと出てくる。それほど世の保護者たちがイヤイヤ期に悩まされている証拠だろう。

認可保育園の荻窪北保育園(杉並区荻窪)の實方亮輔(じつかた りょうすけ)園長は、子どものイヤイヤについて「大人の言う事やなす事に反対することで、自分を確かめている。それは成長の過程の姿」だと語る。

「食べるのイヤイヤ」「歩くのイヤイヤ」……。理由がわかる時はまだいい。イヤだイヤだと泣き叫ぶ子どもを前に、訳が分からなくて大人のほうも泣きたくなる。

ネット上には「気をほかにそらす」「少し静観する」「ぎゅっと抱きしめる」など、様々な解決法が載っているが、子どもによって個性はあるし、子どもの気持ちが毎度毎度同じなわけでもない。毎回通用する“解決法”などないことを、多くの保護者だって気づいてはいる。

實方園長の話を聞くと、直接的な「理由」や「解決法」を考えるよりは、子どものイヤイヤはどうして起きて、それをどう受け止めるのかが大事だということに気づかされる。

認可保育園の荻窪北保育園(東京都杉並区荻窪)  撮影・金香清

〇か×で判断せずに

「いまこの子は、湧き上がる自分の感情をどう受け止めるのか、どう表現するのか、気持ちを確認している過程なのだなと思えば、イヤイヤと泣く子どもを『待つ』気持ちに余裕が生まれるのではないでしょうか」と、實方園長。

感情表現も成長するもの、歩きを覚えながら何度も転ぶのと同じ。受け止めよう、ということだ。

こうした受け止め方はイヤイヤ期に関わらず、育児における多くの場面で大事なポイントになる。

「私たちの園では、子どもの行動を○か×かで判断するのではなく、すべて成長の過程として受け止め、なぜその行動をするのかを振り返り考察することを、保育する上で重視しています。イヤイヤは×ではなく、それも成長するための過程と考えるということです」(實方園長)。

離乳食を終え固形食を始めた子どもが、煮た大根を口にせずに手でこねたり叩いてみたり遊び始めたとする。

一方的に「食べないで困る」と考えるのではなく、口の中には入れなかったけど、この子は大根に興味を持ったようだ。大根の正体について「これは何だろうと、この子なりに確認をしている」と考えることができる。

そのうち、大人の真似をして口にして、「おいしい」と思うかもしれないし、「まずい」と思うかもしれない。

荻窪北保育園・實方亮輔(じつかた りょうすけ)園長  撮影・金香清

「おゆうぎ会」をしないで「お泊り会」をする理由

「成長の過程」を重視するこの保育園では、定番のおゆうぎ会がない。東京都内ではおゆうぎ会がない保育園も最近では増えているが、全国的に見れば少数派だ。入園後に知って意外に思う保護者も少なくない。

「おゆうぎ会にも子どもたちの成長の助けになる面もたくさんありますが、私たちの保育園の理念に沿って年間行事を計画したところ、結果的におゆうぎ会ではない別の行事を選択することになったのです」(實方園長)

わかりやすい例が、年長組の園児が園内で一泊するお泊り会だという。同園ではお泊り会で何をするかを保育士ではなく、園児の話し合いで決めることになっている。保育士が決めたプログラムを演じるおゆうぎ会とは、準備も段取りも違ってくる。

保育士は食事の時間やお風呂、就寝など、時間枠だけを定め、園児はその時間内に何をしたいかを話し合う。もちろん5~6歳児に一方的に「はい、話し合って決めてくださいね」と丸投げするのではなく、「夕飯を食べて寝るまで2時間があるね。何がしたいかな?」などと、考えやすいように誘導する。

午前から午後にかけてのメインイベントは、動物園や科学博物館の見学、高尾山の登山など、その年によって活動の内容はさまざま。行きたい場所をアピールするために、写真や絵を使ってプレゼン資料を家で作ってくる園児もいるという。発言するのが苦手な子は、食事中やお散歩中など日常の中で、保育士がさりげなくやりたいことを聞いてみることもある。

ある年では「いつもお散歩で通る川が、最後にどうなるか見てみたい」という意見から、川の探検をすることになった。当日は公共の交通機関と徒歩で、保育園近くの善福寺川が流れつく神田川の合流地点に到着。お泊り会が終わった後も、午前中のお散歩時間を利用して、卒園までの期間に神田川と隅田川の合流地点までたどり着いたという。

お泊り会で動物園を見学する園児。午後にはカラオケ大会やピタゴラ装置の披露などを楽しんだ  写真提供・荻窪北保育園

お泊り会でカレー派と唐揚げ派が激論! 解決策は?

お泊り会では食事のメニューも園児たちで話し合う。

ある時の例では、カレー派と唐揚げ派に分かれ、話が進まなくなると、ある子が「いいことを思いついた」と提案した。

「カレーに唐揚げを載せればいいんじゃない?」
「いいね、いいね」
「それなら、チーズもパラパラしたい」
「唐揚げとかチーズのトッピングを色々、選べるようにしたら?」
「そしたらサラダも好きな野菜を選べるようにしたら?」
「僕、トマト嫌いだけどきゅうりは食べたいからそれがいい」

とさまざまなアイデアが提案され、メインメニューはカレーライスに、そのほかのトッピングやサラダはバイキング形式に決まった。

こうした話し合いの過程は保護者会などを通じて、保護者にも共有される。お泊り会で「何をやったのか」結果だけが重要なのではなく、何をするかを決めるまでの過程を重視しているからだ。保護者は自分の意思をはっきり表明する我が子に驚き、他の子の意見も取り入れようとする姿に成長を感じる。園での話し合いの過程は、保護者が子どもとコミュニケーションを図るにおいてヒントにもなる。

お泊り会だけでなく、毎日の散歩の行き先、運動会のリレーの順番など、あらゆる場面で園児たちのディスカッションが行われており、その話し合いの内容もやはり保護者に共有される。

實方園長はこう語る。
「園児はそれぞれやりたいことも異なり個性も性格もさまざまですが、保育士の役割は、全員が主役となって保育園生活を過ごすために、環境を整えることだと思っています。そのため多くの園児が意見を持ち、それを発信できる場が大事だと思っています」

荻窪北保育園では保育の目標をこう掲げている。

「じょうぶなからだ、たしかなかんがえ、ゆたかなこころをもったこどもを育てよう!」

「保育理念」と言うと、崇高な感じがしてしまうが、この考え方は家庭の育児にもリンクすることではないだろうか。結果ばかりを追い求めて一喜一憂するのではなく、日々成長する子どもたちの心をうまく受け止めれば、その瞬間瞬間が大切な時間に感じられる……。そんな心得が、もしかしたら保護者の気持ちを楽にするかもしれない。

キム・ヒャンチョン

金 香清

Hyang-chung Kim
ライター、翻訳家

「クーリエ・ジャポン」創刊号より朝鮮半島担当スタッフとして従事。退職後、韓国情報専門紙「TeSORO」(ソウル新聞社)副編集長を経て、...

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