「ゲームで親子関係が悪化」本当のワケをゲーマー児童精神科医が明かす

ゲーマー児童精神科医にインタビュー”ゲームと子どものホントの関係”#3

くりもと きょうこ

ゲームや動画が「好き!」という気持ちは尊重したいけれど……。
写真:アフロ

ゲームや動画を悪者にしても解決しない?

NHK Eテレの『ウワサの保護者会』でも、子どもとゲームについて説得力あるお話をされていた児童精神科医の関正樹先生。

ゲーム&動画にどっぷりの我が子(小6)といっしょに、母ライターが関先生の話を聞くほどに見えてきたことがあります。

「うちの子、ゲームばっかりしていてケシカラン」→怒って「ゲームをやめなさい!」→子どもも対抗→親子関係が悪くなる

という負のスパイラルにおいて、親はゲームや動画に良い印象がないゆえに、子どもの生活や環境が望ましくなくなる原因を、ゲームや動画に求めてしまいがちだということです。

ゲームが悪いと結論づけてゲームを禁止すれば一件落着……とはいかないことは、お読みいただいているみなさんこそ、よくおわかりかと思います。

なぜかイライラしたり不安になったりする、ゲームや動画に向かう我が子の姿。でも、ゲームも動画も子どもを取り巻く環境の一部でしかないわけで、結局、問われているのは……?

関先生のお話は、子どもとゲーム&動画から、親子関係の“そもそも論”という思いもよらない地点へ。ゲームや動画にあれこれ言う前に親としてできることは何なのか、とても考えさせられたインタビューの最終回です。

ゲームが子どもを救う!?

――子どもとの会話の中で、ゲームばっかりやっているように見えて、実はそうでもないのかなと気づかされることがありました。

 ゲームは、同じゲームを何時間もやれるようには作られていませんので、どこかで飽きる時間が来ます。それこそFPS(*1)だったら、負けが込んでくると、嫌になってきて「今日はもうやーめた」となりがちです。

ずーっとやり続けているという人は、ゲーム以外に、自分が安心して居られる場所が見当たらないからかもしれません。リアルな生活の中でどうしても出てくる嫌なことや考えを回避する目的でプレイすることもあります。ゲームが、しんどさから自分をレスキューする場所になっているんですね。

*1FPS……First Person Shooterの略。シューティングゲームの一種。

――「回避行動としてやっている」という心境は、「やめたいけどやめられない」、例のゲーム障害(*2)を連想してしまいますね。

 たしかに、診断基準をそのまま当てはめるのであれば、「ゲーム障害」と診断される人は存在すると思います。

しかしゲームの場合、ハマる対象=ゲームそのものに本質的な問題があるというよりは、その人が置かれている環境や人間関係、心身の健康などにおいて思うようにならない状態があり、それをなんとか埋め合わせて、生き延びるためにハマる結果となっている――、という側面もあります。

ですので、診断基準をそのまま精神障害としてよいのかという点も含めて、私たち児童精神科医はゲーム障害の診断基準自体をすごく慎重に扱わなければいけないと思っています。

また、自分をしんどい状況から救う回避的な行動であったとしても、多くの場合、それは一時的なもので、ほとんどの人は健全なゲーマーだということは覚えておいてほしいところです。

*2ゲーム障害……2019年、WHO(世界保健機関)が「ICD‐11」という国際疾病分類に正式認定した。ざっくり言うと、生活上の利益や日常的な活動よりもゲームを優先して、学業や仕事、健康にマイナスの影響が出ていてもやめない、エスカレートする状態が12ヵ月以上続くというのが基準。

長男とのリラックスした会話に、ふだんの関先生の診察風景が透けて見えました。

――ゲームや動画を通して子どもなりに人間関係を広げたり、体験を重ねたりすることで、少しずつ他にも居場所ができていくこともあるのでしょうか。

 ゲームをプレイしていると、だんだん一緒に楽しむ仲間や友だちができて、相互交流が生まれます。そして、そこが居場所になっていくのです。

ゲームのボイスチャットもそうですが、このような居場所では、いろんな雑談をしますよね。

雑談の中で、友だちから、「オレ、最近こんなアニメ見てるよ」と教えてもらったら、「自分も見てみようかな」というふうに他者の影響を受けることもあるでしょう。居場所には人と人の関わりがあるので、ごく自然ななりゆきです。

ゲームのコンテンツそのものから学んで影響を受けていくということもありますが、そこに参加している人を好きになって、その人から影響を受けてという「人から学ぶ」プロセスにより、変化が引き起こされていく面はあると思います。

――結局は「人」なんですね。

 居場所はコンテンツそのものが広げるというよりは、そこで出会う人との交流が広げるので、何をするかより、「誰と出会うか」のほうが、大切です。

そういうゲームの“居場所”をポジティブな目線で見てくれる保護者やまわりの大人と話すのは、子どもにとっても嫌じゃないと思いますよ。

そして今度は、そうした大人たちの影響も受けるようになって、さらに居場所が広がっていくということにつながっていきます。

もちろん、ゲームが生み出す居場所で、とても悪い影響をおよぼす人と出会ったり、他者を攻撃するようなネガティブな空気に触れたりすることもあります。

冷静に考えれば、そこはリアルでもゲームやSNSでも変わりません。ただ、とくにSNSの場合は、匿名性もあってネガティブな部分が激しく突出してしまいがち、という話だと思います。

長男 ゲームだと、一緒にプレイしてるから、ネガティブな話になりにくいのかもね。

 そうかもしれないね。なんといっても、楽しいことをやってるからね。

たまに野良(*3)でやってるとさ、めっちゃあおってくる人がいて空気悪くなったり、不穏になったりすることあるじゃん? 「そんな不穏にならんでも」と思うんだけど(笑)。

*3野良……複数でオンラインプレイする時に、同じパーティー内にいる面識のないプレイヤーのことを指す。または、ひとりで参加することを野良プレイと呼ぶ。野良猫の「野良」が由来。

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