上手く描かなくてもいい!? 人気イラストレーターが描く!「たろうの日常茶飯」制作秘話

これから創作したい人や絵本や漫画に興味のある人必読!イラストレーターのいちろうさんに創作についてや絵を描くことについて語っていただきました。

げんき編集部

「たろうの日常茶飯」(絵本雑誌「さがるまーたVol.1」掲載)より
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これから創作したい人や絵本や漫画に興味のある人必読!

気鋭のイラストレーターとして活躍している、いちろうさん。そんないちろうさんに、絵本雑誌「さがるまーた」掲載の「たろうの日常茶飯」のお話から、創作についてや絵を描くことについて語っていただきました。

あのとき描けなかったものも、すべてつながっていた

──今回、絵本雑誌「さがるまーた」にて「漫画と絵本の間になるような5ページを」という依頼でしたが、どう感じられましたか。

いちろうさん(以下、敬称略):素直にうれしかったです。すぐに「やりたいです」というお返事をしました。まず物語まで創作で依頼してもらえるというのがうれしくて、描いている間も本当に楽しかったです。依頼してくれた編集者さんに「絵に物語がある」​って言われて、自分はイラストレーターとしてやるってなる前は漫画を描いていたので、今は漫画をやめていたけど、その部分が絵になっても続いてたんだなぁと思いました。繫がってたんだなぁって。
何枚にもわたる、アイデアや設定の資料
──漫画を描かれていたんですね……!

いちろう:実は漫画を(出版社の新人賞などに)投稿していた時期があって。18歳から22歳くらいのころで、7回くらい投稿して最後で賞を取ったことも。でも、そのときに漫画は大変すぎると思って、もう漫画を描くことはないんだろうと思ってたんですけど、今回の依頼で声がかかったときは素直に嬉しくて、ちょっとまた漫画をやりたくなってたんだなぁと気づきました。今なら昔とは違うやり方で描けるかな、と。
──そして今回が商業で初めてのお話を含んだ作品の発表なんですよね?

いちろう:はい。イラストのお仕事のように、「こういう絵で」とオーダーされる依頼も楽しくおもしろいのですが、自分の創作を求めてもらえるのはすごくうれしいことですね、だけど発売前になるとイラストのお仕事より不安になるかも(笑)
──漫画を描いていたことはあるとのことですが、絵本は初めてですよね。

いちろう:そうですね。ただ小さいころはずっと絵本を毎晩読んでもらっていたんです。だから親しみがあって。好きでよく読んでもらったのはレオ・レオニの『スイミー』、ジョン・バーニンガムの『アボカドベイビー』とか。そして一番好きだったのは飯野和好さんが絵を描かれている『トム・ティット・トット』です。絵の中にパイが出てくるんですけど、それが本当においしそうだったことを覚えていて。あと、飯野さんの描く……時空が歪むというか、絵の構図がおもしろい独特な感じが印象に残っていて。子どものころからずっと絵を描いていますが、絵を描き出したのは絶対に絵本の影響だと思いますね。

とにかくメモをとる! 試行錯誤の日々

──では漫画絵本を創作するにあたってまず何から始めましたか?

いちろう:「たろうの日常茶飯」もそうなんですけど、いつ使うかはわからないアイデアだったんですけど、めちゃくちゃメモしてて。だから「描こう!」と思ったらどんどん浮かぶんですよね。

いつ描こうっていうより、浮かんだときにとにかくたくさんメモしてて。やっぱり気持ちって変わるから。じゃあ、依頼とかで何かを描かないといけないってときに、そういえばこれずっと描きたいと思ってたなって描く感じですかね。まぁ、そうじゃないときもありますけど(笑)

あとイラストのお仕事でも、本当になんでもない日常を描いているんで、「描こう!」と思ったらまずは散歩したりとか、お風呂に浸かったりとかするんですけど、そういうときに描きたいことがうわぁって。普段生活してるだけだと忘れてしまうようなこと、覚えておきたいけど忘れてしまうようなことばっかりだから、それをメモしておいて、そのときの気持ちも描いておくんです。そこからそのままを描くのではなく、その「気持ち」から描いてみますね。
いちろうさんのメモノート
──「気持ちから」というのは気持ちを反映させるっていうことですか?

いちろう:というよりは、その「気持ち」の感覚自体を絵でメモしていて。たとえば、今回の「たろうの日常茶飯」でいろいろ迷っていたとき、編集者さんに「肩の力を抜いて」と声をかけられたときにめちゃくちゃ気持ちが楽になったんですけど、そのときに「肩の力を抜こう」っていう言葉とともに、自分の体がうねうねなっているみたいな絵を落書きしたんですけど、「あ、このメモ、何かに使えるかも!」みたいな。
──なるほど、気持ちを絵でスケッチしているんですね。

いちろう:そうですね。そういうメモしてためておいて。日々の思ったこととか、ここ描きたいとかをメモしてますね。なんていうか、本当に全部忘れてしまうようなことばっかり描きたいんですよね。
──どうして「日常の忘れてしまうようなこと」を描きたいと思うようになったんでしょう?

いちろう
:高校生のころに脚本家で小説家の木皿泉さんの作品がファンタジーなんだけど日常を扱うものばかりで。「すいか」というドラマに触れてから、なんだか自分の日常まで変わってしまうような衝撃があって。日常をより愛おしく思うようになったんです。それから日常の絵を一層描くようになった気がします。

あとは子どものときに「おじゃる丸」が大好きだったんですけど、日常の中に不思議な存在がいたり、ちょっと変わったことが起こったりというのに昔から惹かれます。大人になって気づきました。だから自分の絵には日常をただそのまま描くというよりは、構図や歪みとかでおもしろさとか不思議さを入れている気がします。
──たしかに「たろうの日常茶飯」も日常だけどちょっと不思議な感じですよね。メモにあるアイデアを描いたんですか?

いちろう:はい、アイデアの元はそうですが、メモをそのまま描くのではなく、あえて日常の結構モヤモヤした気持ちとかをおもしろく扱うために、例えば今回だったら狸にやってみてもらったりして不思議な部分を入れます。そうすることで日々の悩みやネガティブな気持ちも、すごく滑稽になったりとか、かわいらしく見えたりするしこともありますね。

でも最初は一度思ったまま描いてみる。とにかく出してみますかね。そこから試行錯誤していきます。

自分がブレなければ、画材っていうのは変えてもいい

──いちろうさんは今までカラーの作品はクレパスを使われていましたが、今回「たろうの日常茶飯」では色鉛筆でしたね。画材ってどう選んでいますか?

いちろう:それこそこの作品をやるぐらいまでは割と頭が固かったんで、仕事で依頼していただくとなると、「この人はこういう個性」というわかりやすさがあったほうがいいのかなと思っていたんです。この画材を極めるという気持ちで、ずっとクレパスを使って仕事していったり、個展でも同じ画材を使ったりしたほうがいいのかなと。
だけど、依頼や自分が描きたい題材によっては、この画材じゃないよなと思うことが増えてきて。そこを無理に一貫させようとしたのが変だったと気づいて。なので描いているのは自分というのは変わらないから、そこがブレなければ、画材っていうのは変えていいんだなと。
今回は最初クレパスで描いたり、水彩も試したりしたんですけど、このコマの感じには色鉛筆だなとしっくりきたんですよね。絵を描いていて画材で悩む人は多いと思うんですけど、僕も「たろうの日常茶飯」を作っていて、題材やそのときの気持ちによって変えてもいいんだなと気づきました。
いちろうさんのクレパス
──画材の話は絵を描く人や創作する人に参考になりますね。何か作りたいと思っている人たちに向けて、何かメッセージをいただけると……!

いちろう:自分は工作教室でバイトしてたんですけど、子どもたちを見ていて思うのが、上手く描こうとする人がいるんですよね。上手く描こうとして、見たそのままが描けないのが嫌だみたいな。そういう子もいるんですけど、上手いとか下手とかないのにな、すごいいい絵描いてるのになと思うことが多くて。上手く描こうとする絵より、描きたいように描いた絵がすごくいいのにな、と。でもその子たちに思うことが、そのまま自分に返ってくるような感じがあって。こうしないといけないとか、他の人にどう思われたいとか、絶対そういうの抜きにしたほうがおもしろい絵描けるなとか。誰かみたいにじゃなくて、自分のそのまま描きたいように描いたほうが楽しいかなって、今は思います。
──いちろうさん、今回はありがとうございました!

いちろう
:ありがとうございました!
いちろうさんの漫画絵本「たろうの日常茶飯」は絵本雑誌「さがるまーた」でぜひお読みください。また、いちろうさんは創作絵本の単行本刊行予定だそうです……!最新の情報はいちろうさんのXアカウントやInstagramをチェック!
「絵本を“体感”する雑誌さがるまーた 2023 VOL.1 とにかく絵本が好きなんだ!」 (げんきMOOK)定価:3300円(税込み)
写真提供:いちろう
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いちろう

Ichiro
イラストレーター

1993年大分県生まれ、京都府在住。『群像』くどうれいん連載エッセイ「日日是目分量」のイラストをはじめ、挿絵や装画、漫画など活躍の幅を広げる。

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げんき編集部

幼児雑誌「げんき」「NHKのおかあさんといっしょ」「いないいないばあっ!」と、幼児向けの絵本を刊行している講談社げんき編集部のサイトです。1・2・3歳のお子さんがいるパパ・ママを中心に、おもしろくて役に立つ子育てや絵本の情報が満載! Instagram : genki_magazine Twitter : @kodanshagenki LINE : @genki

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