自分だけの「絵本」の作り方 100%ORANGE・及川賢治&ベテラン編集者・土井章史【特別対談】
『さがるまーた』別冊付録「おはよう」の作者・及川賢治さんと絵本編集者のトムズボックス・土井章史さんが絵本を語る
2024.03.20
2023年12月3日には、別冊付録「おはよう」の作者・及川賢治さん(100%ORANGEとして活動)と絵本編集者のトムズボックス・土井章史さんがオンラインイベントを開催。物語の着想や表紙の描き方など、及川さん流「絵本の作り方」を具体的に教えてくれました。
特別に、濃密なトークの内容や、絵本づくりの秘密を公開します。
目次
絵本のアイディアはいつ、どう生まれる?
今回の『おはよう』のアイディアもそうです。寝るときって上向いたり、眠れなくて横向いたり下向いたりする。「なんか面白いなー」って思ったときからお話が始まる予感がします。ただ、それだけじゃ絵本にはならない。そこに自分の過去の記憶とかが集まってくると、だんだん「これ絵本になるかも」「これできそう」って。1個のアイディアではできないと思ったことが、何個かくっついてきて自然な流れが見えてきます。
土井:なるほどね。『おはよう』にはいろんなアイディアが入ってるでしょう?
及川:うん、意外にね、詰めてあるんですよ。1個のアイディアで15見開き、押しとおしちゃう絵本もありますけど、今回は自分が面白いと思ってたいろんなことをうまく詰めることができました。
土井:最初に及川さんからいただいたものってテキストだけだった。及川さんには「面白いぞ」って返事したけど、はたして何が起こってるのか、ちょっとわからなかった。
及川:あ、わからなかったですか。僕はわかってたんだけど(笑)。僕もこのお話、絵を描くのは難しいなぁと思ったんですよね。
暗い部屋って意外とハードルが高くて。あと向きがいろいろ変わるっていうのも難しい。とりあえずテキストを見てもらおうと思って、送りました。
土井:こっちは作家に乗ってもらいたいから、とにかく「面白いぞ」って言うけど、これどうなるんだろうって思っていたよ。ただ、すごいものになる予感は確実にあったよね。
なぜ縦長の絵本にした? サイジングの秘密
例えば、横長の名作絵本『スーホの白い馬』(大塚勇三訳、赤羽末吉絵/福音館書店)がもし縦長の絵本だったら、白い馬の背後に広がる、モンゴルの草原を描ききれない。今回の『おはよう』は方向が変わるイメージがあったので、本を開いたときに正方形になるといいなって。子どもが絵本をくるくる回しながら、「えーどうなっちゃってんの?」って思ってくれたら面白いなと思って縦長を提案させてもらいました。
土井:あぁ、なるほどね! 表紙をめくると真四角になって、天地(本の上下)がわかんなくなる。
及川:こうしたことで、仕上げのときに頭が混乱して僕も大変なことになっちゃったんですけど(笑)
土井:ものによって、どんどんラフが続いて何回もやり取りすることがあるよね。これはラフのラフぐらいで見開きを試しに書いて検証したのですね。よく繊細にちゃんと書けるよね。
及川:えんぴつ描きを編集者に見せるのが恥ずかしいっていうか、ちゃんとしたいんです(笑)。やり直しになってもいいから、ちゃんとしたものを見せたい。
土井:さすがのラフだよね。
全体の流れを描きながら、テーマが見えてくる
及川:そう、歯が小っちゃいんですよ。景色っぽく顔が広がってるって、想像したときに、いいなと思って。
土井:主人公の「ぼく」が眠れなくて横むいて、それから上むくじゃん。この、ちょっとずつちょっとずつ、変な不思議な世界に入りこんでいくっていう手続きが素晴らしいと思うんだよね。上いって、次下向いて……
及川:最初全然夜に見えなくて、ダメだ!って。ライティングをちょっと意識して、何となく夜に見えるようにしなきゃと苦労しました。
土井:90度天地が変わっちゃうっていう世界は、絵本の世界で初めて見たなぁ。
及川:向きを変える絵本っていうのはあると思うけど、今回の場合は目線は変えずに、横になったらどう見えるかとか、そういうかき方をしてます。
土井:この手続きが絶妙に素晴らしい。一番のアイディアはやっぱりこれだよね。
及川:いや、そこじゃないです(笑)。
土井:そうなの?
及川:そこも大事ですけど、僕としてはやっぱり鼻が話し出すところかな。僕の場合は、テーマって最初に考えるわけじゃなくて、かいててだんだん見えてくるものなので。
ラフをかくとき、気をつけること
及川:デッサンやってるとこうなっちゃうんですよ。持つ手がペン先のほうにあると、手元が見えなくなるから、全体の構図が見渡せない。こうやってえんぴつを持つと全体がつねに見えているんですよね。今回のラフで気にしたのは、窓から入ってきた月明かりがベッドにかぶるところ。光が差し込んでいるけど、夜だよってことを見せたかった。
あと、僕はラフもいつもフルカラーでかくんですが、もしそれが大変だったら、ちょっとだけ色をつけるだけでも、絵がいきいきすると思います。
土井:及川さんはそんなにかき直しはないだろうけど、何回も何回もかき直すことを前提に、ラフはサラサラかく感じがいいですね。かきまくってあって、「これ直すのは苦痛だろうな」って思うラフは、コメントをつけにくくなる。サラサラかいてくれたほうが言いやすい(笑)。
及川:僕は絵を描くのが好きなので、直すことになっても「もう1回直せるんだ、かいていいんだ」って思います。
絵本はとにかく流れが大事。仕上げのイラストを書いたあとは、全部壁に貼ってレベルの低いページを省いていって、「あ、このページだめだ」ってかき直します。
表紙はどんなふうに作るの? かくのは最初or最後?
土井:どうなんだろう。商業出版の絵本となればどうしても重要な部分だから、書店に並んでるときにパッと見たときに手に取ってみたいという衝動、インパクトがあるものにしたい。ただ、絵本の内容がネタバレになるのもちょっとね。
及川:そう。イラストの仕事もそうで、小説の表紙かいてくれっていわれたときに、ネタばれしていいかっていったらだめなわけで、じゃあどうするか。この小説これが言いたいのかなってところをまずつかんで、それをかくとそのままになっちゃうから、それを絶妙にかするアイディアを出す。そうすると妙な魅力がでて、テーマともはずれないし、自分の作風も入れられる。
土井:表紙もそうだけど、絵本をオブジェとして考えずに、緊張せずにどんどんかいてほしいですね。言わなくても子どもはかくよね。大人もどんどん、遊ぶようにかいてもらいたいなと思います。
及川:僕もかきながらいろいろ考えたり、テーマが見えてきたりするほうです。先に頭で考えすぎずにかき始めて、そのうちに自然と「これが私のテーマなんだ」って見えることもある。まずはやってみたらいいんじゃないかなと思います。
及川賢治さんの絵本「おはよう」が付録についている雑誌「さがるまーた」
「絵本作りの魅力」は3月24日(日)公開予定です。
土井 章史
1957年広島県生まれ。トムズボックスを経営。絵本や絵本関連書籍をあつかう。 担当した絵本に「イメージの森」シリーズ(ほるぷ出版)、『ねこのセーター』(及川賢治、竹内繭子)など、現在までに300冊を超える絵本の企画編集に携わってきた。また、絵本作家の育成を目的としたワークショップ「あとさき塾」を小野明さんとともに主宰。
1957年広島県生まれ。トムズボックスを経営。絵本や絵本関連書籍をあつかう。 担当した絵本に「イメージの森」シリーズ(ほるぷ出版)、『ねこのセーター』(及川賢治、竹内繭子)など、現在までに300冊を超える絵本の企画編集に携わってきた。また、絵本作家の育成を目的としたワークショップ「あとさき塾」を小野明さんとともに主宰。
及川 賢治
1996年ころから100%ORANGEとして活動を開始。イラスト、絵本、漫画など幅広く活躍中。『よしおくんがぎゅうにゅうをこぼしてしまったおはなし』(岩崎書店)で第13回日本絵本賞大賞受賞。絵本の作品に『スプーンさん』『コップちゃん』(文・中川ひろたか、ブロンズ新社)、『ぶぅさんのブー』(福音館書店)、『グリンピースのいえ』(教育画劇)、『ねこのセーター』、『まる さんかく ぞう』(文溪堂)などがある。
1996年ころから100%ORANGEとして活動を開始。イラスト、絵本、漫画など幅広く活躍中。『よしおくんがぎゅうにゅうをこぼしてしまったおはなし』(岩崎書店)で第13回日本絵本賞大賞受賞。絵本の作品に『スプーンさん』『コップちゃん』(文・中川ひろたか、ブロンズ新社)、『ぶぅさんのブー』(福音館書店)、『グリンピースのいえ』(教育画劇)、『ねこのセーター』、『まる さんかく ぞう』(文溪堂)などがある。