横山だいすけ「僕は『歌が好きな子』だったけど『歌がうまい子』ではなかった」

【WEBげんき連載】わたしが子どもだったころ #4横山だいすけ

ライター:久世 恵美

3歳で出会った「青きドナウ」、覚えるほど観ました

音楽を好きになったきっかけは、3歳のときに、親が借りてきてくれた映画「青きドナウ」のビデオです。ウィーン少年合唱団出演のディズニー映画ですが、すごい衝撃的でした。何回も何回もドイツ語の歌が歌えるようになるくらい観て、「僕もこの人たちと歌いたい!」って親に言ったそうです。もちろん言葉の意味などは全然わからないのですけどね(笑)。そこまで夢中になるとは、親もびっくりしたみたいです。きっと、あの映画が、僕自身が歌うきっかけになったんだと思います。
僕がこうして音楽を続けてこれたのは、とにかく「音楽が好き」なことが一番でしょうね。僕は子ども時代、「歌が好きな子」だったと思いますが、「歌がうまい子」ではなかったんです。親はほめてくれましたが、親以外の人にほめられることもあまりなかったですし、ずっと続けている合唱団でもソロを任されることはありませんでした。めちゃめちゃやりたかったんですけどね(笑)

しかも、高校生と大学生のとき、コンクールを受けたことがあるんですが、それもテープ審査で全部落ちました。それは落ち込みましたよ。だから、特別なことをやったから、特別な才能があったから、この仕事についたわけではないんです。

僕が今でも歌を歌っているのは、歌がうまいからではなく、ただひたすら小さいころから「好き」という気持ちが音楽の真ん中にあって、それが僕の音楽の色のひとつになって、聴いてくれる人たちに伝わっているのかなと思うんです。それがこの仕事を続けてこれた理由だと思っています。

東日本大震災で、歌を届けることの大切さを知った

高校生のときから憧れていた歌のお兄さんになれて、すごくうれしかった! ですが「おかあさんといっしょ」の歌は女性の声に合わせてあるので、僕がそれまで歌ってきた声域よりもキーが少し低いんです。なので、どうしても歌いづらい曲などが出てきてしまって「うまくできない」と自信を失くしてしまったんです。「歌のお兄さんだから子どもたちの模範になって歌わなきゃいけない。それなのに……」と苦しくて苦しくて。

でもそのころ、東日本大震災が起きました。子どもだけなく、大人にもどうにもできない、大変なことが起こった。番組で僕たちはテレビの前の子どもたちを「お友だち」と呼びます。そのお友だちが辛い毎日を過ごしている。僕らお兄さんお姉さんとして「なにかできないか」と、番組のスタッフさんたちとたくさん話し合いました。そのとき「『みんな元気?』と、変わらない毎日を届けてあげることが、あなたができる一番のこと」って言われたんです。スタッフさんたちの思いもあって「おかあさんといっしょ」はかなり早い時期に放送を再開しました。すると「戻ってきてくれてありがとう」「この番組に救われました」という声がたくさん届いて。そこで僕が歌のお兄さんとしてやるべきことは「当たり前の毎日を届けること」と気づくことができたんです。

年の終わりに東北でコンサートを開催できることになり、みんなの前で「ぼよよん行進曲」を歌いました。そのとき「この歌が終わったら倒れてもいいくらい、思いっきり楽しさや好きって気持ちを届けよう!」って思ったんです。僕の思いが子どもたちや親御さんに伝わったのか、みんなが笑顔になってくれました。そのとき歌のお兄さん、そして横山だいすけの生き方として「これでいいんだ」思えたんです。その経験から、歌を思いっきり楽しんで歌えるようになっていって、だんだん周囲の人も「だいすけお兄さんっていつも楽しそうに歌っているね」とか「歌から“好き”って気持ちが伝わってくるね」という声が増えてきました。やっぱり「伝わるんだな」って……。大きな大きな転換期でした。

子どもたちに伝えたいこと

今を生きる、子どもたちに伝えたいのは「夢を持つこと」。夢というと「宇宙飛行士になりたい」とか「歌のお兄さんになりたい」(笑)とか大きい夢ばかりを考えてしまいがちで、だから「夢を持てない」って思う子もいるかもしれないけど、そうではない。

「明日○○を食べたい」「来週○○してみたい」とか、そういう小さなものも夢のひとつだと思う。夢は1個じゃなきゃいけないわけでもないしね。大きかろうが小さかろうが、夢を持つと、叶えたときにうれしい。そういう小さな達成感みたいなものを、夢を持つことで感じてもらいたい。小さい夢がだんだん大きい夢につながっていく。自分の思い描く夢を叶えられる子が、ひとりでも多くいるといいな、と願っています。
僕にも今、子どもがいます。自分の子どもにはぜひ「好き」をいっぱい増やしてほしいと思っています。自分自身、親に「好き」を育ててもらって、それが運良く仕事にもつながりました。人生の多くの時間を「好き」で埋められているというのは、なによりも幸せなことです。自分の子どもにはそれを仕事にするしないではなく、とにかく「好き」をたくさん見つけて、「好き」で自分の時間をいっぱいにしてくれたらいいな、と思っています。
横山だいすけ
1983年5月29日生まれ。千葉県出身。2006年に国立音楽大学音楽学部声楽学科を卒業。幼いころから歌が好きで、小学校3年生から大学卒業まで合唱を続ける。劇団四季時代は『ライオンキング』をはじめ数々の舞台に出演。2008年4月にNHK Eテレ「おかあさんといっしょ」の11代目「うたのお兄さん」となる。現在は、番組のレギュラー出演やコンサートで活躍し、子どもやお母さんの幅広い支持を集める。
撮影/岩田えり スタイリング/市村宥以子 取材・文/久世恵美
30 件
くぜ めぐみ

久世 恵美

Megumi Kuze
ライター

ライター・エディター 東京都出身。一児の母。フリーライター・エディターとして、雑誌、ムック、絵本など、子ども向け書籍やweb記事を幅広く担当する。趣味は旅行、登山、キャンプ、筋トレ、ヨガなど。三度の飯よりおやつ好き。

ライター・エディター 東京都出身。一児の母。フリーライター・エディターとして、雑誌、ムック、絵本など、子ども向け書籍やweb記事を幅広く担当する。趣味は旅行、登山、キャンプ、筋トレ、ヨガなど。三度の飯よりおやつ好き。

げんきへんしゅうぶ

げんき編集部

幼児雑誌「げんき」「NHKのおかあさんといっしょ」「いないいないばあっ!」と、幼児向けの絵本を刊行している講談社げんき編集部のサイトです。1・2・3歳のお子さんがいるパパ・ママを中心に、おもしろくて役に立つ子育てや絵本の情報が満載! Instagram : genki_magazine Twitter : @kodanshagenki LINE : @genki

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