田んぼのメダカが絶滅危惧種に! 生き物の宝庫が過酷な環境になったワケ

科学ジャーナリスト・柴田佳秀先生が田んぼで出会った生きものたちvol.2

科学ジャーナリスト:柴田 佳秀

田んぼは、魚にとっては過酷な環境

米の生産の場であり、生きもののすみかでもある田んぼ/撮影 柴田佳秀
水の生きものの代表である魚にとって、田んぼはあまり暮らしやすい場所ではありません。とにかく中干しで水がなくなってしまいますから、魚にとってたいへん辛い環境です。

また、たとえ水があっても、田んぼの水は温度が高く酸素があまり溶け込んでいないので、多くの魚は暮らしにくい環境なのです。しかし、そんな過酷な田んぼでも平気な魚もいます。その代表がドジョウです。
田んぼの魚のドジョウ/撮影 柴田佳秀
ドジョウはエラ呼吸の他に、直接、水面から空気を吸って腸で酸素を吸収する腸呼吸ができるので、酸素が少ない田んぼの水でも平気なのです。また、田んぼに水がない冬でも、ぬるぬるの粘膜で体を覆い湿った土の中で生き延びることができますし、用水路へ移動するドジョウも多くいます。

メダカは田んぼと用水路を行ったり来たり

用水路で群れるミナミメダカ/撮影 柴田佳秀
もう一つ、田んぼにすむ魚で忘れてはならないのがメダカです。冬の間は用水路で暮らしていますが、春には水と一緒に田んぼの中にメダカも入ってきます。メダカは、もともと高温低酸素の湿地で生きてきた魚なので、田んぼの過酷な水環境でも平気です。

むしろライバルとなる他の魚や怖い天敵があまりいないので、メダカにとっては暮らしやすく、ここで卵を産み数を増やします。そして、中干しの前に、水といっしょに用水路に流れ出ます。メダカは田んぼと用水路を行ったり来たりして暮らす魚なのです。
田んぼで育つ稚魚/撮影 柴田佳秀
また、フナやナマズといった魚は、春に田んぼに水が入れられると、用水路から中に入り産卵し、産卵が終わると用水路へ戻っていきます。田んぼに残された卵から孵化した稚魚は、大発生したミジンコを食べて成長し、少し大きくなると用水路へと帰って行くのです。
春の田んぼは、まだそれほど水温が高くないのであまり過酷な環境ではありません。それどころか食べものがいっぱいありますし、天敵となる生きものがあまりいないので、子どもたちが暮らすには理想的な場所なのです。

現代の田んぼは暮らしにくい

こんな具合に、田んぼで暮らす生きものの多くは、昔からイネの栽培方法にマッチする生活様式で暮らしてきたのですが、最近はちょっと勝手が違ってきています。栽培方法や田んぼのつくりが変わってしまったため、それまでやりかたでは通用できなくなっているのです。
例えば、最近の田んぼには用水路がないところがあります。水源からポンプでくみ上げられた水が配管を通って、蛇口のように田んぼに水が注がれる仕組みになっているので用水路がなく、排水のための水路があるだけです。
排水管から水が入れられる/撮影 柴田佳秀
そのため、田んぼと行き来していたメダカは暮らすことができず、環境省の絶滅危惧種に指定されるほど数が減ってしまいました。また、用水路があってもコンクリートで岸が固められてしまうと、流れが早くなってしまい、メダカが泳ぎ疲れて死んでしまうこともあります。
用水路がある田んぼ。このような田んぼは生きものが多くすんでいる/撮影 柴田佳秀
また、現代の稲作は機械がなくてはできません。よりたくさんのお米を収穫するためには、田植え機や稲刈りのコンバインなど、効率よく作業をする機械がどうしても必要です。

そして、年々機械が大型になり、重くなっています。重くなると機械が田んぼの泥にはまって動けなくなってしまうので、現代の田んぼは、機械が泥に沈み込まないように地面が堅くつくられているのです。

そのため、冬は徹底的に水を抜いてしまうため、土はからからに乾いています。これではわずかな湿り気さえあれば生きていけるドジョウやトンボの卵さえも死んでしまい、生きものが暮らす事ができない田んぼになってしまうのです。

田んぼで生きものを観察してみよう

生きものがたくさんすむ田んぼが、今は少なくなってしまいましたが、それでもまだ生きものたちに出会える田んぼがあります。なかでも、森に囲まれた谷間にある田んぼには多くの生きものがいるので、探しに行ってみてはいかがでしょうか。
森に囲まれた田んぼには生きものが多い/撮影 柴田佳秀
ただし、田んぼは農家の人が大切にお米を育てている場所なので、中に入ったり、畦を歩いたりしないようにしましょう。周りにある道からそっと観察するのがマナーです。
田んぼの道。このような道から観察しましょう/撮影 柴田佳秀
今から40年前、当時、小学生だった私は、夏になると毎日のように生きものを捕まえに友達と田んぼへ出かけていました。そこにはザリガニやカエル、ヘビなど、じつに多くの生きものたちがいて、誰が一番たくさん捕まえられるか競い合い、切磋琢磨していたのでした。
田んぼで獲物をさがすクサガメ/撮影 柴田佳秀
田んぼでよく見られるヒメアメンボ/撮影 柴田佳秀
今、こうやって生きものに関わる仕事をしているのは、このときに身についたスキルが生きているのだなと思います。でも、毎回、信じられないくらい全身泥だらけになって帰宅していましたから、さぞかし親はたいへんだったでしょうね。

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しばた よしひで

柴田 佳秀

Shibata Yoshihide
サイエンスライター

元ディレクターでNHK生きもの地球紀行などを制作。科学体験教室を幼稚園で実施中。著作にカラスの常識、講談社の図鑑MOVEシリーズの執筆など。BIRDER編集委員。都市鳥研究会幹事。科学技術ジャーナリスト会議会員。暦生活で連載中。MOVE「鳥」「危険生物 新訂版」「生きもののふしぎ 新訂版」等の執筆者。

元ディレクターでNHK生きもの地球紀行などを制作。科学体験教室を幼稚園で実施中。著作にカラスの常識、講談社の図鑑MOVEシリーズの執筆など。BIRDER編集委員。都市鳥研究会幹事。科学技術ジャーナリスト会議会員。暦生活で連載中。MOVE「鳥」「危険生物 新訂版」「生きもののふしぎ 新訂版」等の執筆者。