昆虫研究家が「驚きの舞台裏」を公開 新種の生きものを発見して自分の名前がつくまで
【ちょっとマニアな季節の生きもの】昆虫研究家・伊藤弥寿彦先生が見つけた生きもののふしぎ
2023.04.17
昆虫研究家:伊藤 弥寿彦
「いつかは新種を……!」の夢が叶った!
……今回のお話は半分、私の「自慢ばなし」です(笑)
私は、甲虫、特にカミキリムシが専門です。このときは場所がラオスですから、これまで見たこともない種類がたくさんいて、もう何を採っても興奮するし、名前もわからないものだらけです。
2012年6月6日、ラオス北部のシェンクワンという高原地帯へ連れて行ってもらいました。草原にまばらに木が生えた、一見何の変哲も無くてつまらなそうな環境でした。こりゃカミキリはいそうにないなぁ……。ブツブツ言いながら歩き回っていると、足元の草にオレンジ色のはねを開いたシジミチョウがいました。
直感的に「これは何となく珍しそうだな」と思ってネットですくって採集しました。そのとき一緒にいたのが20年以上もラオスでチョウの採集と研究を続けている日本人、若原弘之さんでした。採ったチョウを見せると彼の目の色が変わりました。「うわぁー!これは見たことない!新種かもしれません!」彼は一目でそれを見抜いたのです。
「ラパラ」は属名(トラフシジミ属)、「ヤスヒコイ」は小種名(弥寿彦の意味)、「ワカハラ et ナカムラ」は、新種を記載した人の名前です。「若原と中村が新種として記載したトラフシジミ属のヤスヒコイ」という意味です。
学名はラテン語が基本で、小種名に人名をつける場合、男性にはiを、女性にはeをつけます。ちなみにitoi(イトウイ)にしなかったのは、伊藤は大変ありふれた名字で、虫の研究をしている伊藤さんがまわりにいっぱいいるからでした(苦笑)
でも実際には「新種の虫」を見つけることよりも「それが新種かどうかわかる人」を見つけるほうがむずかしいのです(笑)。そのとき、たまたまチョウを極めた若原さんがいたのは幸運でした。
それにしてもラオスの旅では何百、何千ものチョウを見ましたが、私が採ったのはたった2頭! そのうちの1頭がこれまで誰も採ったことの無い未知の種類で、それに自分の名前をつけてもらっちゃった、というのは本当に「ラッキー」の一言でした。
写真提供/伊藤弥寿彦
伊藤 弥寿彦
1963年東京都生まれ。学習院、ミネソタ州立大学(動物学)を経て、東海大学大学院で海洋生物を研究。20年以上にわたり自然番組ディレクター・昆虫研究家として世界中をめぐる。NHK「生きもの地球紀行」「ダーウィンが来た!」シリーズのほか、NHKスペシャル「明治神宮 不思議の森」「南極大紀行」MOVE「昆虫 新訂版」など作品多数。初代総理大臣・伊藤博文は曽祖父。
1963年東京都生まれ。学習院、ミネソタ州立大学(動物学)を経て、東海大学大学院で海洋生物を研究。20年以上にわたり自然番組ディレクター・昆虫研究家として世界中をめぐる。NHK「生きもの地球紀行」「ダーウィンが来た!」シリーズのほか、NHKスペシャル「明治神宮 不思議の森」「南極大紀行」MOVE「昆虫 新訂版」など作品多数。初代総理大臣・伊藤博文は曽祖父。