「子どもがごはんを食べない」問題! 同時通訳者・異色の小児科医の教える危ない「食べない」とは?

小児科医・伊藤明子先生に聞く子どもの「食べない」問題インタビュー 前編

ライター:山本 奈緒子

©Keisuke Nakamura
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こうすれば子どもの栄養バランスは完璧! という情報はよく目にすることができます。でも実際は、子どもの食に関する悩みで多いのは「食べない」というものだそう。これではいくら頑張って作ったところで元も子もないですよね。

そこで小児科医で、話題の著書『医師が教える子どもの食事50の基本 脳と体に「最高の食べ方」「最悪の食べ方」』の著者でもある伊藤明子先生に取材。

本当に心配すべき“食べない”と、心配しなくていい“食べない”があること。そして、本当に食べない子どものための、すぐ実践できる“脳と体に良い食べ方”も教えていただきました!

前編では、心配すべき“食べない”と、心配しなくていい“食べない”の定義とその見極め法について、お話しいただきます。

健康づくりはマイナス2歳から始まっている

──今年1月に発売された著書『医師が教える子どもの食事50の基本 脳と体に「最高の食べ方」「最悪の食べ方」』が好評を博しています。子どもの食に関心を抱かれたきっかけは何だったのでしょうか?

伊藤先生:子どものころから食や料理が好きでした。両親が健康への関心が高く、家には健康本もたくさんあったんですね。私自身も料理が好きで、6歳のころから自分でお味噌汁を作ったり、料理コンテストに出品したりしていたことも影響していると思います。

あと、私の父の実家が禅寺だったのですが、私は幼稚園のころ1年ほど、父が海外研修のときに父の実家であるお寺で、母と弟と過ごしていました。そこで祖母が精進料理を作るお手伝いをしたりもしていて。

私は大学卒業後、同時通訳者の仕事をするようになり、自分の背景や、通訳の仕事の中でも、食を中心に健康をつくっていく活動ができたらと考え、医師としての活動が望ましいと判断して、40歳で医学部を受験しました。

──著書には「食事で子どもが変わるのは医学的な事実です」と書かれています。子どものときの食事は、やはりその後の健康へ大きく影響してくるのでしょうか?

伊藤先生:ではちょっとお聞きしたいのですが、認知症の予防は何歳ぐらいからおこなうと良いと思われますか?

──えっ!? 50歳とか60歳とか、そのぐらいからでしょうか……?

伊藤先生:多くの方はそのように答えられます。実際、そのぐらいの年齢から意識を持たれる方が多いですね。でも研究者の立場からしますと、できれば0歳から、理想を言えばマイナス2歳から始めてほしいんです。なぜなら脳は、その頃から作られているから。

その予防として気を付けるべきことの一つが、食です。もちろん、そんな小さな時期に自分で気を付けるのは無理ですよね。だからこそ私は小児科医として、日々親たちに「とにかく小さいときから食を大切にしてほしい」と伝えているのです。

親によって「食べない」の定義はバラバラ

──ただ実際には、いくら食に気を遣っても、そもそも子どもが食べてくれない、という悩みが多く寄せられているんです。そういった場合はどうすればいいのでしょう?

伊藤先生:私のクリニックでも、子どもの食べ方に関する悩みを相談されることは多いですね。ただ、ひと口に「食べない」と言っても、親によって「食べない」の定義の振り幅がとても広いんです。

ある親は「ピーマンだけどうしても食べてくれない」と悩むし、別の親は「白米しか食べない」「食が細くて本当にほとんど食べない」と悩む。

前者のように1つのものだけ食べないことは、何の問題もありません。ただ、それでも心配してしまうのが親というもの。そういう場合は、諦めずに楽しく食卓に出し続けてください。親が美味しそうに楽しく食べていれば、子どももやがて食べるようになりますから。

──1つの野菜だけ食べないといった場合は、とくに心配しなくても良いのですね。では食が細いといったような場合は、どこまでなら大丈夫なのでしょうか? 心配すべき“食べない”と、心配しなくていい“食べない”の見極め法があれば教えていただきたいのですが。

伊藤先生:たしかに、お子さんがかなり痩せていても、「食は細いけど、一応食べているし」などとあまり気にしていない親もいます。そこで私たちが問題視しているのが「BMI値」、または5歳ぐらいまでの幼児の場合は「カウプ指数」です。

どちらも「体重(kg)÷身長(m)÷身長(m)」という計算式で指数を出します。幼児の場合、カウプ指数が14以下だと、標準よりはやせている、ということですので、生まれたときから小さかったお子さんなのか等にもよりますが、外来で、日々の食事の内容を聞き取ってお食事指導をしたり、乳児の場合はミルクをたしてもらったり離乳食についてアドバイスをするなどしてフォローするようにしています。

乳幼児健診(生後3~4ヵ月、生後6~7か月、生後9~10か月、1歳半、3歳、6歳の就学前)はとても大切な発達のマイルストーン(道しるべ)を調べるチャンスなので、そこで、やせすぎではないか、ふとりすぎではないか、という身体面の「成長」と、神経の「発達」がどうか、親のほうも健診に行く前に、医師への質問事項を整理して母子手帳や行政の予診票にしっかり書いていかれるといいです。

食や栄養について心配であれば、集団の健診であれば保健師さんの相談コーナーにまわしてもらえることもあります。

日本は世界でも女性の痩せ願望が極端に強い国

──痩せている状態でも普通に生活ができていれば、気にしない親もいるかと思います。そのまま放置していると、どのようなダメージがあるのでしょう?

伊藤先生:体が痩せるということは、脳も痩せてしまうということ。そうするとあらゆる脳機能に悪影響が出てきます。これがいかに危険なことか、ご存知ない親御さんが多いんですよね。

──欧米など海外では、子どもの“食べない”に関してどのような対応が取られているのでしょう?

伊藤先生:アメリカなど他の国では、肥満の子のほうが多くて痩せている子は少ないんです。GDPに比例して「やせ」が人口比率で多いのは日本、韓国、中国などの国です。これらの国で、やせ願望をもつ若い女性が、他国よりも多い、ということを示しています。

特に日本は、やせ願望をもつ女子の比率(すべての女子人口の中での数)が、ほかの国よりも多い、という統計があります。また、社会風潮として、「肥満はよくないもの」ととらえる親御さんは多くとも、「やせがよくないもの」ととらえる親は、それほど多くないようで、やせていることを問題視しない親御さんも、実際に診察室で多くおめにかかります。もしも母体がやせすぎだったり、栄養が足りなかったりすると、赤ちゃんの身体と脳の健康に影響を与えることがあります。
前編では「とにかく小さいときから食を大切にしてほしい」ということをはじめ、心配すべき“食べない”の見極め方法・痩せることへのリスクをお話しくださいました。

後編では、子どもが心配すべき“食べない”の場合、具体的にどのような対策を取れば良いのか、教えていただきます。

『医師が教える子どもの食事50の基本 脳と体に「最高の食べ方」「最悪の食べ方」』

『医師が教える子どもの食事50の基本 脳と体に「最高の食べ方」「最悪の食べ方」』(ダイヤモンド社)
著者:伊藤明子
価格:1500円(税抜)
毎朝卵を1個食べる、米を炊くときに雑穀を混ぜる、水分は水かお茶で摂るetc.簡単で分かりやすく、すぐに実行できる「子どもの食事」の50の基本を解説した一冊。他に「悩み別 子どもの食事の処方せん」、「悩みに効くかんたんレシピ&ちょい足しアイディア」など、忙しい人でも簡単に取り入れられる栄養アップ法を紹介。この一冊で、子どもが食べるべきもの、避けるべきものが一目で分かります!
伊藤明子先生

赤坂ファミリークリニック院長。東京大学医学部附属病院小児科医。東京大学大学院医学系研究科公衆衛生学/健康医療政策学教室客員研究員。NPO法人Healthy Children, Healthy Lives代表理事。東京外国語大学卒、帝京大学医学部卒、東京大学大学院医学系研究科修了。

医師になる前から同時通訳者として天皇陛下や歴代首相、米国大統領の通訳を務め、現在も医学系会議を中心に活動している。通訳の仕事をしながら2児をもうけた後、40歳で医学部を受験し、医師に。とくに子どもの食を医学的な観点から研究しており、海外の学術論文から日々最新の情報をアップデートしている。

わかりやすい説明と親しみやすい人柄で子どもを持つ親からの信頼は厚く、メディア出演も多い。著書に『医師がすすめる抗酸化ごま生活』などがある。
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やまもと なおこ

山本 奈緒子

ライター

1972年生まれ。愛媛県出身。放送局勤務を経てフリーライターに。 『ViVi』や『VOCE』といった女性誌の他、週刊誌や新聞、WEBマガジンで、 インタビュー、女性の生き方、また様々な流行事象分析など、 主に“読み物”と言われる分野の記事を手掛ける。

1972年生まれ。愛媛県出身。放送局勤務を経てフリーライターに。 『ViVi』や『VOCE』といった女性誌の他、週刊誌や新聞、WEBマガジンで、 インタビュー、女性の生き方、また様々な流行事象分析など、 主に“読み物”と言われる分野の記事を手掛ける。