キリさん
「おい、茶化すなよ。こういうのはデリケートなんだから。」
聖司くんはキリさんたちに小さく頭を下げる。
聖司
「短期留学生のミランダっていう子が、明日ブラジルに帰るんです。7月にぼくのクラスに来て、それからハネトの練習もずっといっしょにやってきて。これで会えなくなるの残念だから……ぼく、手紙を書いたんですよ。」
キリさん
「手紙とは古風だね。」
聖司
「ミランダはけっこう日本語をしゃべれるんだけど、書くのは苦手なんです。ひらがなを書くのがやっと。でも、みんなのやり取りが紙に残るのはうれしいから手紙が好きだって。」
キリさん
「へぇ。おもしろい子だね。」
キリさんが言うと、聖司くんの顔がほころぶ。
聖司
「ミランダが来たばっかりのころ、壁新聞をいっしょに作ったんです。そのとき、ミランダが書きまちがえちゃったんです。『ねぶた』を『ねたぶ』って。紙の予備がないし困ったなと思ったら、ミランダがハサミで字を切って、並び替えて貼ったんです。」
キリさん
「機転が利く子だね。」
聖司
「『頭がやわらかいね。』ってほめたら、『頭、やわらかくないよ?』って頭をトントンたたいてキョトンとしたんですよ。それで『頭』にまつわる慣用句を教えたりして……これがきっかけで仲よくなったんですよね。」
キリさん
「そうかぁ。」
聖司くんはふっとうつむいた。
聖司
「さっきミランダにわたした手紙には全部ひらがなで、ぼくの気持ちを書きました。きらわれてはいないと思ってたんだけど。これがミランダからの返事です。」
聖司くんはおりたたんだ紙を取り出し、キリさんとマッキーの前で開いた。